旅のプロ・サラーム海上さんが教える「美味すぎ世界グルメ巡礼」

中東・インド・東欧「美味しいものと音楽」の旅へ

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「旅先で音楽の仕事をしているつもりが、食事が美味しくて地元の友だちやシェフに料理を教えてもらったり、習いに行って延々とネギを切る下働きをさせらたり(笑)。いつしか自分でも中東の料理を教えるようになりました」

豊かな食生活を支えるのは、街の市場。トルコ・アラチャトゥの市場には色鮮やかな野菜、果物が並ぶ。市場巡りも旅の喜びのひとつだ 撮影:サラーム海上

音楽評論家のサラーム海上さん。年間7〜8回は海外出張をして中東やインドを中心に、音楽フェスやミュージックシーンを長年取材。著書多数、そして今や中東料理研究家として教室も開催している。

異国には行きたくても行けない、海外旅行好きにとってはもどかしい今、せめて海上さんから、旅で出会った美味しい話をシェアしてもらおう。

海上さん、旅に行きたいですね。

「そう、僕もこんなに旅をしなかったことはないです。でもね、旅の記憶をまとめた本『美味しすぎる!世界グルメ巡礼』を作っている最中のコロナ禍で、本の進行は進みましたね」

とおおらかに笑う。そうですか! ではさっそく旅の話を。まずおすすめは?

トルコ:イスタンブールではメイハネ(居酒屋)に行け!

「トルコに行くならイスタンブール、とくに夏がおすすめです。僕は冬に何度か行っていて、そのときのイメージは“津軽海峡冬景色”(笑)。ところが初めて夏に行ったら全然違いました! 音楽と活気があふれる街です。

イスタンブールは人口1550万人で、東京のようにいろいろな文化が集まる大都市。街中にライブハウスがたくさんあって伝統音楽も盛んと、中東の音楽中心地でもあります。若いミュージシャンが伝統音楽とロックやラップを組み合わせた新しい音楽を生み出していて、これは民謡を取り入れる沖縄音楽のようなイメージ。DJブースが常設されている高級レストランも多く、テラス席には流しのミュージシャンがひっきりなしに来たりと音楽が身近で、うるさい音も気にしない人が多い印象ですね。

そしてトルコ料理が美味しいんです。トルコは国土が日本の2倍ほどあり、エーゲ海、地中海、黒海に囲まれ、森林も豊かで食料自給率100%。日本でイメージするトルコ料理といえばドネル・ケバブかサバサンドですよね。このファストフードも美味しいけど、『ロカンタ』と呼ばれる食堂の料理がうまいんです。ガラス越しに料理を見ることができるから、あれこれ見て選べる。ただ、現地の人向けなのでアルコールを扱っていない店が多いですね。

『アトム』(水切りヨーグルトの赤唐辛子オイルかけ)た『アンテップ・ケバブ』(揚げなすと挽肉の重ね焼き)や『パテメン』(フライドポテト入り卵焼き)など、家庭料理も最高です!

さらに美味しいのが『メイハネ』と呼ばれる居酒屋の食事。壁にはメニューが書いていなくて、書いてあるのは“酔いどれ詩人”たちの詩やメッセージばかり(笑)。料理は店内をめぐっているその日のおすすめのメゼ(冷たい前菜料理)を載せたワゴンから、好きなものを選びます。旬の野菜や魚介を使った料理など種類も豊富で、メゼだけで十分楽しめました。それと、ホテルの朝食がすばらしい! チーズ、オリーブ、パン、ジャム、サラダ、ハムなどが並んで、豊かなトルコの味が満載です」

メイハネでは、数えきれな種類のメゼと呼ばれる前菜料理を載せたワゴンが店内を回る
アラチャトゥのホテルの朝食メニュー。オリーブだけでも数種類が並ぶ「最高の朝ごはん」真似してみたい!
トルコでは屋外の席やテラス席が人気。流しのミュージシャンもやって来る
イスタンブールのホテルの朝ごはん。乳製品が美味しい!
トルコ人は音楽好き。ライブハウスだけでなくフェスも多く、さまざまなジャンルの音楽を聴くことができる
アラチャトゥのカフェ。なんてカラフル!

イスラエル:世界の文化が混ざり合ったファインダイニング

「イスラエルは1940年代後半から、世界中約80か国に散らばっていたユダヤ人が集まって作られた国。ロシア、ウズベキスタン、アルゼンチン、アメリカ、アラブ、イエメン、エチオピア、ブラジル……いろいろな国から集まってきたので『昨日、何食べた?』と聞くと『ウイグル料理』『エチオピア料理』とさまざま。イスラエル料理はそんな環境で生まれたんです。

イスラエルのナショナルフード、ホモス(ヒヨコ豆のペースト)は、日本でいえばラーメンのようなもの。外国人から見たら、ラーメンはどれも大して変わりませんが、ラーメン好きな人にとっては自分が好きな店や味は全然違いますよね。ホモスも作り方や味付けにそれぞれこだわりがあって、ケンカの原因にもなるほどみんな『自分のホモス』を譲りません(笑)。

テルアビブの友人宅で、ユダヤ教安息日の晩餐。お祈りをしてから食事を

それにイスラエルはスタートアップの国でもあります。もともと砂漠だった土地をすごいテクノロジーで開拓して、今では食料自給率が90%。茶色いミニトマトや緑色のグレープフルーツに似たスウィーティーも、イスラエルで品種改良されたものです。

料理も日々進化していて、おすすめはファインダイニング。西エルサレムの、市場の名前をそのままつけた『マハネイエフダ』という店には、15~20種類の料理が味わるコースがあって、地元のワインとのペアリングも楽しめます。もともとストリートフードだった食べ物がいろいろな国の食材や技法とフュージョンすることで新たな料理に生まれ変わるのが楽しい!

フュージョンという意味ではイスラエルの音楽シーンも面白いですよ。クラシック音楽で有名ピアニストや指揮者を多く輩出していますが、21世紀になるとジャズの世界で活躍するミュージシャンも増えました。ジャズの本場アメリカのショービズで強いコネクションを持っているユダヤ人を頼って、イスラエルの音大を卒業した若いミュージシャンたちが武者修行に出たり。テルアビブのファインダイニングにもバカでかい音を鳴らすDJブースがあるし、とにかく生命力が強いんだと思います」

イスラエル・ヤッフォの市場で食べた「エルサレム・グリル・サンドウィッチ」。さまざまな肉を玉ねぎとにんにくで焼いてスパイスで味付け。これひとつでお腹いっぱいのボリューム

南インド:全容を把握できない世界最大級の音楽祭とシーフード

「インドは北、南どちらも好きですが、初めて行くなら南のほうがいいかな? 北より人が少なくて、うるさくないですから。南インドのおすすめはチェンナイ。日本でも南インド料理ブームで、ベジタリアン向けでヘルシーというイメージですが、ベンガル湾で魚がたくさん採れますから、シーフードも美味しいんですよ。

『マリーナ』というシーフードレストランでは、いろいろな種類から好きな魚介を選べて、僕が行ったときは1㎏超えの巨大なカニをチョイスしました。このサイズのシーフードを食べるのは最高ですねー! 今回の本のタイトルは『インドのカニ、ギリシャのタコ』にしようと思ったんですが、担当編集者にわかりづらいと言われて、『美味しすぎる!世界グルメ巡礼』になったんです(笑)。

チャンナイでの一番の楽しみは、毎年12月に開催される世界最大級の音楽祭『チェンナイ・ディッセンバー・シーズン』。街の文化ホールや結婚式場、音楽ホール、体育館、寺院など、いたるところで1カ月間毎日、古典音楽の演奏をしているんです。1カ月で約4000件のコンサートが開催されるとか。規模が巨大すぎて誰も全容を把握していないんです。大ホールの有料公演から寺院の無料公演まであり、途中で出入りできるし、冷房が効いているなか寝ていたり、みんな自由に楽しんでいます。

今ではNRI=ノン・レジデンシャル・インディアンと呼ばれる帰国子女たちが海外で最新の音楽を吸収して、インドに帰って伝統音楽を学び始めるというパターンも増えています。ラッパーなんだけど『古典音楽をイチからから勉強しています』みたいな。いいですよね。

インドの古典音楽はタニマチ文化で、日本の相撲や歌舞伎に近い。ミュージシャンを囲っていることがステータスになっているんです。とくに力を入れているのが呉服屋=サリー屋。ちゃんとしたホールでのコンサートには、おばさまたちが素敵なサリーで着飾って行くんです」

南インドといえば「ミールス」。10種類ほどのおかずが並ぶ。これで250円くらい
音楽祭『チェンナイ・ディッセンバー・シーズン』開催の1ヶ月は、大きなホールから寺院まで、街じゅうが古典音楽に染まる
古典音楽、舞踏などあらゆるジャンルの公演が楽しめる

ポーランド:カラフルな食材と反ブルジョワジー建築

「昨年、ポーランド大使館からの依頼で、ユダヤ文化フェスティバルの取材に行ってきました。僕にとって初めてのポーランド。8下旬だったのですが、市場にあらゆる食材があって、見るだけでハッピーでした。ブルーベリー、ラズベリーなどのベリー系、チーズ、ビーツ、ソーセージなどなど、大好物ばかりで大興奮です。正直にいうと、共産主義時代を描いた映画などのイメージで、街は暗く、食べ物もソーセージとジャガイモくらいしかないと思っていました……すみません(笑)。とても美しく、美味しい街でした。

ポーランド料理はコンソメやボルシチ、酸っぱい味噌汁のようなものなど、スープの種類が豊富で嬉しかったなあ。帰国してからいろいろ作ってみたら、大使館の方が喜んでくれて『ポーランド料理教室をやってくれ』って。でも、僕がいたのはたったの1週間なんですけど(笑)。

ポーランドは、戦争があり、分断されていたりと、いくつかの時代や歴史のフェーズがあって、街の建物が時代によって違う。共産主義時代は『ベランダはブルジョワジーの象徴』だったらしく、そのころの建物にはベランダがなかったり、逆に、スターリンが作った妙に豪華な宮殿があったり、歴史を感じさせれらました」

ビーツの入ったピンク色のスープ! ボルシチをはじめ、スープの種類が豊富
ポーランド版ボルシチ。透き通ったスープが美しい
ローストダック(鴨)のクランベリーソースがけ。新鮮なベリーが豊富で料理にもよく使われる。
戦禍をくぐり抜け、市民の努力で復興したワルシャワの街並み。建物の様式に時代の記憶が刻まれている

音楽も食も、伝統と新しいシーンを知ることで豊かに

「人との出会いが、旅の醍醐味です。イスラエルで安息日のディナーに招待してくれたダギさんとは、トルコ行きの飛行機で席が隣同士だっという縁。イスラエル系の名前だったので『イスラエル人ですか? 僕、イスラエルに友達がいて、半年後に行くんですよ』と話しかけたら、『では、うちに来なさい』って誘われて。お言葉に甘えて半年後に行ったらもてなしてくれて、いろいろな人の縁もできました。逆に向こうの友人が日本に来たら僕がもてなしたり、そんなことが1年に何回もあって、これまで毎年当たり前のように海外を行き来していたんですけどね。

この30年間でトルコに一度も行かなかったのは今年で2回目かなぁ。今、トルコへの渡航は可能なのですが、向こうの友人も気を遣うだろうし、しばらくは様子見ですね。早く旅をしたいなぁ。

でも、いつか、また旅に出る日のために準備しておきます。それまでは、音楽と料理で、異国を感じてます!」

またのびのびと旅に出られる日を信じて、いつも心に旅の準備をしておこう。

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サラーム海上(さらーむ・うながみ):1967年、群馬県高崎市出身。音楽評論家、ラジオDJ、講師、中東料理研究家。音楽ライターとして中東やインドの音楽を中心に取材を重ねるうち、現地の料理に魅了されて、料理本も出版。近著『美味すぎる!世界グルメ巡礼』(双葉社)はじめ、『MEYHANE TABLE More! 人がつながる中東料理』(LD & K BOOKS)、『ジャジューカの夜、スーフィーの朝 ワールドミュージックの現場を歩く』(DU BOOKS)など著書多数。

  • 写真サラーム海上取材・文髙橋ダイスケ

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