5年前に都構想を廃案に追い込んだ男が語る「都構想、ここが疑問」 | FRIDAYデジタル

5年前に都構想を廃案に追い込んだ男が語る「都構想、ここが疑問」

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都構想について説明する吉村大阪府知事
都構想について説明する吉村大阪府知事

着地点は考えているのか

「都構想が住民投票で可決されるとどうなるのか。今の段階でいえるのは、維新の会にとっても、自民党にとっても、そして住民の方にとっても先がはっきりと見えない状況にあるということ。

わかりやすくいうなら、『とにかく動こうぜ!そして飛べ』と言われているのが住民投票なんです。ただ、飛んだらどうなるかというと、着地点があって、そこから歩いていけるかどうかは誰にもわからない。今が真っ暗だとしたら、とりあえず飛んで見ようというのが推進派の主張となるわけです。

どうなるかもわからない状況で飛べと言われても、リスクを考えずに飛べますか? というのが我々の考え。もっと具体的に、着地点を考えておかないとダメやと思うんです」

15年の大阪特別区住民投票で、わずか1万票の僅差で否決となった大阪都構想。急先鋒として反対派の勝利に貢献したのは、当時、自民党市議団の幹事長を務めた柳本顕氏だった。

その後、柳本氏は2度の大阪市長選に破れ、議員職を辞した。現在は政策アドバイザーとして活動している。「今は何も立場がない人間」と自虐的に笑うが、その論客ぶりは健在だ。

一度は都構想を「廃案」に追い込んだ柳本氏が、11月1日に迫った大阪都構想住民投票について胸中を明かした――。

柳本:率直に私の考えを述べると、都構想の実現で「具体的にここが良くなる」とは言い切れない。一方で、「こういう問題が起きてくるのでは」という想定はできます。問題点を認識しておくことはとても重要なことですから、改めて自説を述べます。

一番懸念しているのが、住民サービスの低下が起こる可能性です。

大阪市がなくなり、特別区が4つできるとどうなるのか。まず、支出が増えるでしょう。例を挙げて話しますと、4人が一つの家に住んでいるより、その家族が一人ひとり別々の家に住むほうが、当然支出は増える。ところが、収入はどうなるかといえば国からの補助、交付金も含めて増えない。

ということは、支出は増えるのに収入はそのまま。その分だけどこかを削らなければならなくなれば、住民サービスが低下することは明白です。

私は、この点について明確にすべきだと、昨年12月の法定協議会の中間採決で議論しました。自民党の川嶋広稔議員が中心となり質問しましたが、維新側は「東京都と違って、特別区はある程度4つ均等に分けているので問題ない」と取りあいませんでした。

仮に4つの政令指定都市を作るなら、交付税も入るので住民サービスは下がらないかもしれません。ただ、特別区と政令市は違う。スペシャルというか、レアで特殊な「特別区」という自治体になってしまうことで、財政の問題、住民サービスの低下が起こる可能性について、十分に論じられていないと感じています。それは、市民にとって果たしていいことでしょうか?

<都構想の最大のポイントは、大阪市が消滅することであるというのが柳本氏の見方でもある。>

柳本:現・維新の会のメンバーも、この後に及んでも「大阪市がなくなる」とははっきりとは言いません。大阪市に世界的なブランド力があるかは別として、それでも住民の間では浸透した名前です。それがなくなってもいいのか、というのは、もう一つの論点でしょう。

わかりやすいなと思ったのが、東大阪市の野田義和市長が「仮に大阪市なくなったら“東”をとって、ここを大阪市にさせてもらいますわ」と言ったことです。それぐらい、大阪市という名前は魅力的なんです。

大阪市は大阪府の中の中核的な基礎自治体として、潤沢な財政と権限のもとに住民を守ってきた。維新の会の方々は『大阪府が大阪市のブランド力を一元的に引き継ぐ』と言われるかもしれませんが、やはり核がなくなってしまうのは否定できないでしょう。

実は、50年以上昔の左藤義詮知事の頃から、都構想の土台となるような案はありました。ただ、それは大阪市を残したままの構想。大阪市を中心に広域連合を作り、府域一体的な広域行政をやりましょう、というものでした。一方、いまの都構想は市を廃止して特別区を設置するというもので、その質は全く異なる。

結局、この都構想は住民のためではなく、政治家や党の野望を実現するためのものになってしまっているのではないか、と感じています。

<現状、新聞や各種調査では「都構想賛成派」が優勢な状況だ。住民の中には、自民党=既得権益を守ってきた政党、維新=改革派というイメージを持っている人も多いようで、この差が広まった結果、都構想支持者が増えたとの見方も強い。

維新の会と大阪・自民党は、この10年間、ことあるごとに対立してきた。だが、本来であれば大阪市のためにお互いが手を取るべきだ、と柳本氏は言う。>

柳本:維新登場以降の政治のやり方について、私も含めて自民党も大いに反省しなければいけないと考えています。住民に負担をかけるようなことになる前に、打つべき手はたくさんあったはずですから。自民党の戦略不足、その場しのぎの後追いの対応に追われたことがこの事態に至った原因ですし、現在進行形の課題だと思います。

はっきり言って、この間の大阪府連は、まとまりがありません。バラバラだから弱いし、弱いからまたバラバラになる、だから負け続ける…という負のスパイラルにある。

知事、市長選に誰を立てるかという重要事項は、本来であれば一年前にも決めていておかしくないのに、「負け戦」との見方が強かった去年の市長選では、なかなか候補者を立てることができず、自ら手を挙げるものもいなかった。それすら決められていないのは、府連の対応としてはお粗末と言われても仕方がないものでした。

結果的に私が市長選挙に出ましたが、上記のような背景もあり、決定した時は内心『自民党ふざけんな』との思いでした。ただ、私も自民党の一員であり、責任の一端を担うべきとの考えで出馬しました。首長の重みを踏まえて、党が一つにならないことには選挙は戦えないし、体質の改善も困難です。

私個人の意見としては、無理に維新と喧嘩する必要はないと思っています。自民党議員の中には「徹底抗戦」という意識を持っている人もいるかもいれませんが、もう少し協力して、歩み寄るべくところは歩み寄って、落とし所を探してもいいと感じています。両極端な意見が飛び交い、決して建設的とは言えない今の両党の政治状況が続くことによる弊害は小さくない。

維新も自民も同じく大阪府をよくしたいのは同じ思いですから、一緒にやって行こうよ、という動き、姿勢を全面に出す必要があるはずです。

私自身は、都構想に関しては反対のための反対をするつもりはなくて、「あの時なんで課題点を言っておかなかったのか」と悔いを残したくないから、指摘しているわけです。だからこそ、住民の方に対して、これからも問題提起をしていきます。

今の維新の会も、自民党も極論になりすぎている面がある。だからこそ、正しい情報を収集して、メリットデメリットをしっかり自身で考えて、大阪の未来を判断して欲しいと願っています。そうでないと損するのは市民の方ですから。

  • 取材・文栗岡史明

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