『夫は実は女性でした』人気漫画が伝える「自分を生きる」ヒント | FRIDAYデジタル

『夫は実は女性でした』人気漫画が伝える「自分を生きる」ヒント

作者・津島つしま氏インタビュー&試し読みを公開

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「ワタシ…本当は中身が女性で」と、結婚8年目にして夫から告白された。そんな妻が、 2人の出会いから現在の暮らしぶりを日記風に綴ったコミックエッセイ『夫は実は女性でした』が発売された。

作者・津島つしま氏の元へ寄せられる感想は、「いいね!」「幸せそう」など好意的なコメントが多く、これまで性同一性障害LGBTQ(性的マイノリティ)といった話題にあまり縁がなかった人からの反応も多いという。

10月13日に発売されたコミックエッセイ『夫は実は女性でした』書影(作・津島つしま/講談社)

ここ数年、日本でも「多様性のある社会=ダイバーシティ」の概念が浸透しつつあり、2018年の電通ダイバーシティラボによる「LGBT調査2018」(https://www.dentsu.co.jp/news/release/2019/0110-009728.html)の結果によると、20〜50代の68.5%が、「LBGT」という言葉を「知っている」または「何となく知っている」と回答。この数値は、2015年の調査から、30.9ポイントアップと大幅に上昇している。さらに「LGBT」について正しく理解したいという人は、普通性愛者全体の76%と、関心が高い。

このように、個人の意識は着実に変化しているものの、社会全体としてはどうだろうか? 『夫は実は女性でした』の作者・津島つしま氏の話を交え、今を生きるLGBTQの人々のリアルに迫る。

友人の言葉がきっかけでツイッターに投稿

津島つしま氏(以下、つしま氏)が、パートナーであるわふこ氏から「実は中身が女性です」とカミングアウトされた経験を漫画で描こうと思ったきっかけは、友人の一言だったという。

「友だちにわふこのことを話したら、さらっと『なかなかない人生だね~』と言われ、その反応を見て 、エッセイ漫画にして描いたらおもしろいかも、と日記を描くように軽い気分で始めました。せっかく描いたからとツイッターに上げてみたら、バズってしまったので驚きましたが、色んな人に読んでいただいて、うれしく思いました」(つしま氏、以下同)

『夫は実は女性でした』「はじまり」より。夫・わふこ氏からのカミングアウトに、「でしょうね!」とサムズアップして応えるつしま氏。本作はここから、2人の出会いや結婚に至るまでのお話、カミングアウト以前&以降の生活や心境の変化などを、4コマでテンポよく綴っていく

ある日突然、パートナーからトランスジェンダーであることをカミングアウトされたつしま氏だったが、その告白を聞いて「やっぱりそうだったか!」とすんなりと事実を受け入れられた。

実は結婚生活の中で、パートナーから心を閉ざされていると感じており、その理由がトランスジェンダーであることを自分に言い出せなかったからだと、腑に落ちたからだ。だから、パートナーに対する怒りや悲しみはまったくなく、むしろ「ようやくわかり合えるようになった」という安心感が大きかった。

「隠そうと思って隠していたわけではなく、わふこ自身もよくわからなかったから、言いづらかったんだろうなと思ったんです。8年かかって、ようやく言葉にできたんだなと感じて。

カミングアウトされる前に、わふこがゲームに没頭していて、私の話をあまり聞いてくれずケンカをしたことがありました。なぜゲームばかりするのか、ケンカした当時は理由がわかりませんでしたが、今思い返すと、心は女性なのに男性としていなければいけないストレスから逃れるための手段だったのかなと思うんです。

私がパートナーに求めることは、一緒に居て居心地が良いかが一番で、性別の優先順位は低いんです。自分では、性別にこだわりなく愛情を感じるパンセクシャル(全性愛者)だと自覚しています。人を好きになるときに、例えば『大阪出身だから恋愛対象』とか『東京出身だから恋愛対象にならない』とは考えないのと同じように、『男だから~』『女だから~』とは考えないという、そんな感覚に近い。

私自身の家庭は、どちらかというと保守的な感じでしたので、どうして自分がそう思うようになったのかはうまく説明ができません。でも、同性愛に対しての違和感や拒絶は昔からありませんでした」

『夫は実は女性でした』「はじまり」より。カミングアウトを経て、二人はケンカも少なくなり、お互いに笑顔が増えたという。

カミングアウトを受け入れられたのは偶然

つしま氏がわふこ氏とわかり合える関係になったのは、もう1つ大きな要因がある。つしま氏は発達障害があり、自分自身も生きづらさを抱えていたからだ。

「発達障害を持っていた私は、不登校を経て働きもせず、ずっと将来真っ暗な状態でフラフラしていました。ただざっくりと、私を受け入れてくれる人と一緒にいたいなという願望があって。わふこは、気分が落ち込んで追い詰められた私に手を差し伸べて、握ってくれた人だったんです。だから、断られてもいいからという気持ちで、私と一緒にいるとお互いにメリットがあるとプレゼンし、結婚しました」

カミングアウト後、改めて話しをしてみると、誰にも打ち明けられないことを抱えていたわふこ氏が、長年自分の一人称(ワタシや僕など)や共同生活での風呂・トイレ、友だち関係など、さまざまな面で生きづらさを感じていたことがわかった。

『夫は実は女性でした』「第二章 私たちの学生時代」より。普段何気なく使っている一人称だが、無意識に「男性なんだから」「女性なんだから」といったバイアスがかかってしまっているのかもしれない、と考えさせられる

漫画では、寮生活を送った学生時代は、男同士のノリで行われる“下ネタ”話や“いじり”をされるのが苦痛だったことや、バイト先で同性愛者(ゲイ)だという誤解を解くため、“男らしく”振る舞うようになったことなど、トランスジェンダーが現代社会で生きていく中で感じていることが、率直に、そして赤裸々に語られている。

だからこそ、ジェンダーに関する知見が浅くても、「なるほど」と素直に頭に入ってくる。しかし、漫画はあくまでも自分たちのケースであり、すべてのLGBTQやトランスジェンダーの声を代表するものではないと、つしま氏は強調する。

「私もわふこも、LGBTQやトランスジェンダーについて、完璧な知識や理解があるというわけではありません 。私がわふこを受け止めることができたのは様々な偶然が重なっているからですし、いろんな理由や幸運な巡り合わせがあって周囲に温かく受け入れてもらうことができたと思っています。ですから、私たちのケースはあくまで1つの例として捉えてもらいたいなと願っています。

誰もが、パートナーのカミングアウトをすんなり受け入れられるわけではありませんし、お別れを選ぶのもその人の自由ですから、決して受け入れられない自分を責めないで欲しいです」

トランスジェンダーの生の声を知ってもらいたい

私生活や生い立ちなど、パーソナルなことを漫画として発表することに関して、2人の考えはとても柔軟だ。たくさんの人に読まれる恥ずかしさはなく、むしろ漫画を認められてうれしいと感じているという。また、今の社会と自分たちの中でうまく折り合いをつけながら、日々穏やかに暮らすのが理想だそう。

「ないものを数えるのではなく、今あるもの、周りにいる人たちの温かい反応や、うれしいことを数えて、楽しく生きたい。不満ばかりだと、自分がしんどくなってしまうので。

私にとってわふこは、一緒に居るのが『イヤじゃない』相手なんです。感覚的な話になってしまいますが、いくら気の合う友だちでも、長い時間一緒にいると、ザラザラしたりチクチクしたりして、違和感を感じることがあります。言い方が悪いですが、わふこの感触はふわふわサラサラしていて、『不快じゃない』というのが一番しっくりくる。だから刺激が少なく、穏やかに過ごせるんですね」

愛し合って結婚したはずの男女が、コロナ禍で四六時中顔をつきあわせて生活するようになったら相手の存在がストレス源となり、離婚に至ったという話も多いこのご時世、「一緒に居てイヤじゃない」という表現が妙にしっくりはまる人も多いのではないだろうか。

確かに、感触に性別はあまり関係ない。要は、人として一緒に居るのが苦痛ではない相手がベスト、ということだろう。

「トランスジェンダーに関心がある人、当事者やそのパートナー、家族などいろんな人に、友だちの話を聞く感覚で、気軽にこの漫画を読んでもらえたら嬉しいと思っています。まずは『こんな人がいるんだ』と知ってもらい、ゆくゆくはいろんな分野のマイノリティの方々も、みんな楽しく生きられる世の中になったらいいなと思いますね」

『夫は実は女性でした』「第五章 家族・友人にカミングアウト」より。「生きてます」というタイトルの通り、マイノリティの人々も同じ社会で生きていて、身近なところに存在している

多少の悩みはあるけれど、慎ましくたくましく生きているつしま氏とわふこ氏。今の夢は、2人で素敵なドレスを着てウェディングフォトを撮影すること。

ストレスフルな時代だからこそ、日々の小さな幸せに喜びを見いだす2人の生活ぶりに、“楽しく、自分らしく生きる”ヒントが詰まっている。

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  • 取材・文中村美奈子

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