「砂漠の天使」スナネコをペットにできない本当の理由

アニメ『けものフレンズ』の人気キャラクターでも知られるスナネコの「もうひとつの顔」

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スナネコ王子の「天使」な瞬間を捉えた!誰もが萌え死ぬ可愛いポーズながら、前脚には野生的な鋭い爪が…。(撮影:菊地弘一)

三角形の大きな耳と横に幅広い顔が特徴的で、成育しても体長40~60センチ、体重1.3~3.4キログラムと世界最小で、子猫に見える魅力的な外見から「砂漠の天使」と称されるスナネコの赤ちゃんが、8月23日に神戸どうぶつ王国(神戸市中央区)で誕生した。

国内3例目で初のオスということもあり、園の名称「王国」にちなんで「王子」の愛称でファンから親しまれている。スナネコは日本国内での飼育例がなく、今年の3月から日本動物園水族館協会の加盟園の中では、同園と系列の那須どうぶつ王国が初展示となる。

スナネコは砂漠エリア(主に中東や北アフリカの砂漠地帯)に分布する希少種で肉食の野生猫である。夜行性で臆病な性格のため日中は砂穴に隠れており、姿を見かけるとニュースになるほど。いまだ情報が少なく生態系がよく分かっていないスナネコを、その可愛さからペットとして飼育したいと思う人が存在し、残念ながら密猟や密輸が行われている。ただスナネコには飼ってはいけない理由があるのだ。

神戸に天使が降臨

天使たちが舞い降りたのは昨年の秋だった。ムスタ(オス)とバリー(メス)が、人間という存在に慣れていない状態から一般公開に至るまでを、担当飼育員の馬場瑞季氏はこう振り返る。

「食餌を置いて翌朝食べているかの確認をし、様子を見る時間を短くするなど、できるだけ刺激をしないように心がけるところから始めました。檻越しに人がいても食餌をする、人が持つピンセット越しに食餌をするなど、段階的にトレーニングを行いました」

公開から5ヶ月後にはスナネコ王子が誕生した。佐藤哲也園長によると、予想外にスムーズな繁殖だったという。

「スナネコはお見合いができ、闘争することもなく一緒になって分娩に至りました。他の野生の小型ネコ科動物では、予定通り繁殖に苦労をしていましたから、スナネコも相応の覚悟をして挑みました。海外の文献では繁殖が容易とは書いていませんでしたので、この繁殖は新たな発見になりました」

だが母親のバリーは出産後、頻繁に巣箱から出て育児をしようとしなかった。育児放棄と判断し、赤ちゃんの命を救うべく人工哺育に切り替えた。スナネコは乾燥地に生息しており湿度に弱い。多湿である日本の環境下では感染症にかかりやすい。また初乳を飲んでいないため、徹底した衛生管理や空調管理の下で飼育されている。

容赦なく獲物の血肉を引きちぎるスナネコ本来の野生性が炸裂。王子の首を掴む飼育員の手には、血が付いているのが見て取れる(撮影:菊地弘一)

野生動物の保全にリンク

佐藤園長はJAZA生物多様性委員会の委員長に就いており、環境省や大学研究機関と協力し、同施設で野生動物の保全や保護増殖活動を行っている。スナネコの正規輸入も、ツシマヤマネコの生息域外保全の一環だという。

「正規輸入で入ってきたスナネコがペットに流れていると聞きます。そしてブームになると、密猟や密輸が横行します。手足を使って動き回る姿は愛くるしいが、生息地の消失やペット取引により絶滅の危機に瀕しているコツメカワウソの二の舞にしてはいけないと考えています」

同園が配信する動画では、飼育員にじゃれている姿に「かわいい」と多くの反響が寄せられている。その姿はペットの子猫そのものに見えるが、これもトレーニングの一環で行っている。馬場氏は続ける。

「じゃれているのも遊んでいるのではなく、野生であればこの時期に学習する危機管理や運動能力を養うため、飼育員は母親であり兄弟の役割を担っています。本来あるべき姿にするために、すべきことをしています。人に慣れてしまうと繁殖行動が伴わなくなり、次の世代に続いていかない。種を絶えさせないために、最低限の関わりに止めています」

動物園以外での飼育が向かない理由について、佐藤園長はこう明かす。

「スナネコの生息数が多いアラブ側と北アフリカ側は、猫をペットにする文化がありますよね。ところがスナネコはペットになっていないんですよ。見た目も可愛く体も小さいので食餌も量いらないし、なのになぜペットとして育種された歴史がないのかな?と不思議です。

そこにはやっぱり気性の粗さがあって、一般の人が求める『人と猫との関係』にならないんだろうなと。今は子猫だから人懐こいですが、これまでにも様々な動物が野生に戻る瞬間を見てきた経験則では、性成熟と共に野生に戻っていくと大いに考えられます。可愛い顔して猛獣なんですよ。主食はネズミや鳥、ヘビですからね。抱っこなんてできないよね。怖くて人間とペットという関係なんて保てないと思います」

さらに飼育には生息環境の再現が不可欠であり、スナネコが本来自然に持つ欲求を満たす必要があると佐藤園長は指摘する。

「動物園だと檻の中に木や沼があったり、砂や岩、森や山があります。一般の人にはそれができないから、檻や部屋に閉じ込めるしか方法はない。動物にとっては、とてつもないストレスです。飼うときは動物福祉に配慮できなければ、飼育してはいけないのです」

同園では種の存続や生態系の復元のため、希少種を保護しバックヤードで飼育と繁殖、野生に戻す活動を行っている。繁殖や野生復元が成功したものは、環境省の許可がおりれば一般公開される。馬場氏がいう。

「唯一、人工哺育で一頭だけ誕生したスナネコ王子の可愛さを見て癒されつつ、成長記録を通して希少な野生動物が、次の世代へ命を繋げていく過程を見守ってください。そして野生動物への理解を深めていただくきっかけになればと思います」

「かわいい」「癒される」という人間の欲望を満たすことを優先させるあまり、野生で生きていくことが本来の姿である動物にストレス与えたり、生息する自然環境が損なわれることにより種が絶滅してしまったら、その生態系のアンバランスは必ず、人間にもはね返ってくる。スナネコを見守っていく姿勢は、自分たちを守ることにも繋がってくるのだ。

◆野生動物を飼育する施設として、希少種や環境の保全、動物たちの福祉の向上、環境教育に取り組んでいる。この活動継続の支援として、クラウドファンディングにチャレンジをしている。

神戸どうぶつ王国 花と人と動物との懸け橋プロジェクト(12月11日まで)
那須どうぶつ王国 野生への扉プロジェクト(11月6日まで)

 

 

食餌を終えたムスタ(オス)。ムスタは顔が横に幅広く、目の虹彩の周りが黄色い。アラビア語で未来や将来という「ムスタクバリー」から命名(撮影:菊地弘一)
バリー(メス)は美しくまさに天使。目の光彩の周りが薄くグリーンぽく見える。アラビア語で未来や将来という「ムスタクバリー」から命名(撮影:菊地弘一)

スッテンコロリン、でもワイルドな攻撃性を失わない(撮影:菊地弘一)

「キッ」と獲物を捕らえて、視線を離さない(撮影:菊地弘一)

おねんね前の毛繕い。灼熱の砂漠を歩けるように、足指間に長い毛が肉球を覆っている。さらに足跡を残しにくくする役目もある。成長するとこの毛は黒くなる(撮影:菊地弘一)
王子、おやすみなさい。(30分~1時間程遊んだら、おねんねするそうだ、撮影:菊地弘一)
「王子、お戯れが過ぎますぞ」もはや戯れているというレベルではない。飼育員の手に爪を立て食らいつく(撮影:菊地弘一)
仰向けにされようが抵抗はやめない。すさまじい野性味(撮影:菊地弘一)
愛らしいと言えばそれまでだが、まるで獲物にしがみ付いているかのよう(撮影:菊地弘一)
マヌルネコはネコ科の動物で最も古い種。那須どうぶつ王国では繁殖に成功し、8頭誕生。奇跡的に成長したエル(オス)とアズ(メス)は、スナネコと同じ今年の3月に神戸どうぶつ王国で公開された(撮影:菊地弘一)
マヌルネコが獲物を捕食するサマは野獣そのもの。スナネコも幼少期はともかく、性成熟した後はマヌルネコと同様だと考えられる(撮影:菊地弘一)

「最後までお付き合いありがとうございました」

生後60日目のスナネコ。早くも凛々しい「王子」の風格が漂う(撮影:菊地弘一)
  • 取材・文椙浦菖子撮影菊地弘一

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