「海砂利水魚」を名乗っていた二人が全国区のスターになるまで

『くりぃむしちゅー』が、かつて『海砂利水魚』と名乗っていた時代のお話!

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2018年9月、熊本県の小野泰輔副知事(右)に義援金を渡す「くりぃむしちゅー」の上田晋也(中央)と有田哲平

今やテレビで観ない日はないくらい盤石な実力と人気を誇るお笑い芸人さんが90年代半ば頃はどんな様子であったか、お笑い系放送作家の私が綴らせていただく。

『海砂利水魚(現・くりぃむしちゅー)』は熊本県の進学校・済済黌高校ラグビー部の同級生、上田晋也と有田哲平のコンビ、上田が早稲田大学、有田が立教大学在学中の91年に結成された(二人とも大学は中退)。有田が従来にはなかった、ちょっとだけ意味なく言葉をずらしたり全く関係の無いワードを放り込むボケを次々と繰り出し、上田はそれぞれに的確にツッコむというのが基本的なスタイルで、例えば私が覚えているのが、

有田:(ポケットから宝くじを発見して)あ、宝のくじだ。
上田:『の』いらねえだろ!坂上田村麻呂(さかのうえの たむらまろ)か‼︎

というもので、有田の、よくそんなところに入れますねという小さな小さなボケ上田が、例えるならこれしかない文言を厳選した「例えツッコミ」をくらわしている。皆が中学時代の歴史の授業で「『さかのうえの』って『の』がふたつ入っている」って思ったことを懐かしんだことだろう。

いま気付いたがこれ、ひょっとして上田が「俺『さかのうえのたむらまろか!』ってツッコみたいから、合うボケ考えて」と有田に発注したものなのではないか?

このようにツッコミでも笑いを取りに行くスタイルから『ボキャブラ天国』(フジテレビ)でのキャッチフレーズは「おとぼけツインターボ」。しかし『海砂利水魚』の芸風はそんな、ほっこりとしたものではなく、「お前の家族、遺族にしてやろうか!」「人生とララバイしたいのか」など上田のツッコミは凶暴極まりないものが多く、有田も人相が時に不気味だということで割と早々に「邪悪なお兄さん」に変更になった。

当時の有田のボケは、開口一番「どうも、へこんだピンポン玉はお湯につけると元どおりになるよ、でお馴染みの海砂利水魚です」という、どうツッコんだらいいのか悩むようなものが変幻自在に散りばめられており、その目的は相方の上田を困らせる、激怒させることに主眼があったと思う。

上田としては「激怒した自分はどういう言葉を吐けばいいのか」を日々考えていただろう。前述の「お前の家族…」というツッコミ台詞は当時上田のパソコン内にメモされていた膨大な例文のうちの一つだったとアンジャッシュ児島が最近ばらしていた(『太田上田』中京テレビ)。

ちなみにその頃『爆笑問題』の太田はラジオで「有田と(フォークダンスde成子坂の)桶田は、面白いことしか言えない天才タイプ。俺は思いつきでウケるかスベるか考えないで喋ってしまう」と語っていた。

この「天才」と「おこりんぼ」のコンビは一連の『ボキャブラシリーズ』でもトップ集団を快走し、全国区での人気者になった。ライブのチケットは即日完売、キャブラー達と巡る遊園地などでの営業も6000人を超える動員を見せた。

『爆笑問題』と『ネプチューン』は98年に各局でレギュラーや冠番組がスタートし大ブレイク、『海砂利水魚』にはさほど大きな変化はなかった。そんな二人は翌99年の単独ライブ「ベストアルバム」で、今思えばとてもエポックメイキングな作品を披露した。

「新しい相方」というそのネタはセンターマイクを挟みフリートーク風の漫才スタイルで始まる。有田が「俺、これからは裏方にまわろうかと思ってるんだ」「え?じゃあ海砂利水魚はどうなるの」という上田に、有田は新しい相方を連れてくる。それは男性のマネキンで、コードが付いていて舞台後方のサンプリングマシーンにつながっている。有田がそれを駆使して、あらかじめ録音してある台詞をあれこれテンポよく送出することによりボケの上田とツッコミの「新しい相方」との掛け合いが繰り広げられるというものだ。

新しい相方(以下、相方):はいどうもこんにちは、海砂利水魚で~す。
上田:お、いい挨拶するじゃないの!…え~今年も8月になりました。
相方:はいはい。
上田:8月と言えばやっぱり高校野球ですね。
相方:はいはい。
上田:今年の優勝候補はやっぱりジャイアンツですかね。
相方:はいはい。
上田:はいはいじゃねえよ!そこツッコまないと。
相方:はいはい。
上田:返事はいいんだよな…じゃあ9月になると学生さんはテストですか。僕は楽しみでしたね。偏差値「2」ぐらいでしたから。
相方:待てえええ!
上田:いい!
相方:待てえええ!ま、ま、ま、ま、待てえええ!
上田:待ちすぎだよ!俺は「あみん」か!

と、このようなやりとりが悪夢のように続くのだ。「相方」はこの他にも「こらー!」「あはははは!」「かあさーん!」といったツッコミを入れる。すべて脈絡なく。

はたしてこのネタは現在の『くりぃむしちゅー』の様々な現場のあり方を予見してはいないだろうか。有田は単独の冠番組で「むちゃぶり」というコンセプトのお笑い番組を次々と成功させている。しかも自分はMCもこなしつつ総合演出として「裏方」も担当している。

一方上田も単独で誰のどんなボケにも即座に対応できるスキルを武器に、トーク番組、スポーツ番組、情報バラエティなどで、女優、ジャニーズのアイドル、スポーツ選手ら、ようするにテレビに出るすべての人に対し、僅かでも妙なことを言ったら見逃さず秒速のツッコミを入れ続け番組を活性化させている。二人はそれぞれ自分の才覚をテレビ全体に開放しているのだ。

そしてもちろん『くりぃむしちゅー』として出演する番組でも二人の呼吸の合い方は盤石だ。

最後に『くりぃむしちゅー』の今後に私が期待していることをひとつだけ。

高学歴もあいまってひと頃は「うんちく王」でもあった上田は「博識」というイメージで語られることが多いが、実は上田は自分が興味を感じないジャンル(例えばファッション、音楽、若い人が好きなもの全般)についての知識は「驚くほど無い」のだ。

これは昔からで、95年、広末涼子が鮮烈にデビューして誰もが注目しているさなか、何かの会話で誰かが「俺が今一番可愛いと思うのは月並みだけど、広末涼子」と言ったら上田は「ババアじゃねえか!」とツッコんだという。多分、広末涼子のことは知らなくて、末広まきこと勘違いしたのだと思われる。

「上田はものを知らない」ということを世間はまだあまり知らない。太田も先日のラジオで「よく今まで隠せているよな」とクスクス笑っていたことがある。このポイントをなにか活かすことによって、まだ誰も見ていない、『くりぃむしちゅー』のさらなる新しい笑いの鉱脈、そして未来がひろがると言えよう。

  • 高橋洋二

    放送作家 、ライター。1961年千葉県習志野市生まれ。『吉田照美のてるてるワイド』『マッチとデート』『タモリ倶楽部』『ボキャブラ天国(シリーズ)』『サンデージャポン』『火曜JUNK爆笑問題カーボーイ』などの構成を担当。主な著書に『10点さしあげる』(大栄出版)『オールバックの放送作家』(国書刊行会)。また「キネマ旬報社 映画本大賞2019」第一位の『映画監督 神代辰巳』(国書刊行会)にも小文を寄せている。

  • 写真共同通信社

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