普通の主婦が数百万の借金を抱えた…カーシェア被害の惨劇 | FRIDAYデジタル

普通の主婦が数百万の借金を抱えた…カーシェア被害の惨劇

被害者の主婦、アルバイト社員、車両確認のボランティアを直撃

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カーシェア被害を受けたオーナーたちが所有する高級車。被害は数百万から1千万単位に及ぶ人もいる(撮影:加藤博人)
カーシェア被害を受けたオーナーたちが所有する高級車。被害は数百万から1千万単位に及ぶ人もいる(撮影:加藤博人)
埼玉県川口市内の駐車場に停まる大量の高級車のカギ箱。メルセデンスベンツ、BMWなど高級車の名前が並ぶ(撮影:加藤博人)
埼玉県川口市内の駐車場に停まる大量の高級車のカギ箱。メルセデンスベンツ、BMWなど高級車の名前が並ぶ(撮影:加藤博人)

最初は別の副業を考えていた

「私たち家族は真面目に生活していました。我が家は1か月食費2万円で生活してるんですよ。うかつに契約した私が悪かったんですけど。紹介会社が損失を補償するという約束もあったので。いつか家族で海外旅行に行くためにお金もためてきたのに…」

こう明かすのは神奈川県に住む主婦Mさん(30代)。優しく勤勉な夫と可愛い盛りの幼稚園年長女児との3人家族である。週に3日、事務のパートに出ており、月謝1万円の趣味教室に通うことがMさんのささやかな楽しみだった。それが一転――。

「1か月1万円位の報酬が得られる副業はないかな…」

Mさんが通う教室の先生が紹介している副業に、ちょうどよいものがあり、先生の紹介で副業紹介会社「P」を訪れた。20種類の副業があり、その中にS社のカーシェア投資案件があった。何もしなくてもひと月に一定額入ってきて、Mさんが考えていた「海外旅行資金」も貯められる。実際、今年1月からはじまったが、この10月、音をたてて崩れ落ちた。

その内容とは…

<メルセデス・ベンツやレクサスなどの中古高級車(300-800万円)を投資者名義でローンを組んで購入。月々のローン代金、自動車保険料、自動車税、駐車場代などは毎月S社から入金されて、投資者の口座から引き落とされる>

報酬は以下の3つ。

●報酬その1→契約の報酬として車両価格の1割を受け取る
●報酬その2→S社から毎月1万円を受け取る
●報酬その3→7年で完済した際には、S社から『満了金』として投資者に100万円が渡される。

クルマの使用者名義はMさんとなり、S社が「個人間カーシェア」として一般の利用者に貸し出して(車種によって1日1万円~2万円)運用する。

Mさんはローンを組んで2014年式BMW 5 シリーズ(400万円)を購入する形をとるだけで以下の報酬を受け取れる。

① 400万円の1割=40万円
② 7×12か月分=84万円
③ 7年後完済して100万円

つまり、最初に40万円を受け取ったあとは毎月1万円の報酬を7年間受け取る。完済したあとは①②③合計で224万円が受け取れるという実に利益の大きい、素晴らしい副業だったのである。

副業といっても、初期投資も不要で実際に労働をするわけでもない。購入費を含めて、クルマを維持する費用はすべてS社から入金される。もちろん、クルマの知識も無用だ。ローンの審査にさえ通れば誰でも始められる利益の大きな副業だった。

Mさんは損失があれば副業紹介会社が全額を補償するという誓約書も受け取った。そして、2020年1月から「副業」をスタートし、約束通りまずは40万を受け取った。その後7月までは一度も遅れることなく、S社から入金(ローン代+保険+報酬)があった。

投資者のLINEに届いた一方的に「事業停止」を知らせるお詫びメール
投資者のLINEに届いた一方的に「事業停止」を知らせるお詫びメール

カーシェアとは何か

それが滞り始めたのは8月だった。Mさんのもとに「コロナで資金繰りが悪化したので、8月分の入金が遅れます。9月に2か月分入金します」という連絡が来た。何の疑問も持たず、9月の入金を待ったMさんだったが…9月も入金がなく、そして10月8日、いきなりの事業停止という一方的なメールが届いた。つまり、S社からMさんへの入金はもう行われない、ということだ。

現在、Mさんには金利含めて380万円の負債が残っている。

Mさんを苦しめることになった「カーシェア投資」とは何か。

その前に、カーシェアとは何か?について説明しておきたい。

タイムズやカレコなど法人が運営するカーシェアリングは道路運送法上、「自家用自動車有償貸渡業」でレンタカー業と同じ扱いとなる。つまり、クルマは「わナンバー」となる。事業を行うには運輸支局へ許可申請書を提出して許可を受ける必要がある。

これに対して個人間カーシェアリングは「有償貸渡」ではなく「共同使用」の名目のもと、利用者は使用料をオーナーに支払って共同使用(=クルマを借りる)を行う。使用料はオーナーが一定の範囲内で決めることができる。車種や年式、走行距離などによって、1日当たりの上限価格が設定されており、高級車になればなるほど高額になる。

とはいえ、あくまでも、「購入費を含めた維持費を負担する共同使用」ということで、原則として「もうけ過ぎない」価格設定になる。

その個人間カーシェアのカテゴリーの中で、高級車に絞って運営していたのがS社だ。本来はすでに高級車を持っているオーナーを募集して運営されるわけだが、同社では「投資案件」として投資者を募集し高級車オーナーに仕立てて、クルマの共同使用者(利用者)を募集していた。

Mさんのような投資者は関東を中心に関西、東海方面に合計650人近く存在する。多くは20~30代の比較的若い層だ。クルマのローンが他にないこと、信用情報がきれいなことなどが条件。住宅ローンはむしろあった方が審査に通りやすい(家が担保となるため)そうだ。

S社が契約した車両は600台前後。1人で2-3台を契約した人もおり、最高で4台(3000万円)の人もいるという。S社のサービスが開始された頃は2年契約で、2年経てばS社がクルマを買い取るという約束だった。

事情に詳しい関係者によると、実際、2年の満期を迎えてS社に買い取ってもらい、100万円程度の報酬を受け取った投資者もわずかだが存在するが、多くは2年満期が近づいてきた今年春以降、「7年に延長してほしい。手数料を上乗せする」という誘いを受けて承知している。自分に何の負担もなく、その間は月1万円でも報酬が受け取れるのだから、7年に延長するのは自然の流れだった。

しかし、被害を受けているのは契約者(投資者)だけではない。実はS社に車をおろしていた中古車業者をはじめ、修理を担当する会社、車両を管理する会社の社員やアルバイトなど多数の被害者が存在する。

被害者のボランティアが中心に現車確認

S社とは、どんな会社だったのか?実際、カーシェアの運用実績はあったのか?

オーダーが入ったクルマの出し入れを担当していたアルバイトの男性によると、最高で1日40台前後のクルマの出し入れがあったという。バイトの数は最高5名で埼玉県川口市内にある駐車場から、利用者にクルマを引き渡す整備工場まで運んでいた。返却されたクルマを再びその駐車場に戻す作業もあり、整備工場では簡単な整備や洗車、室内の清掃なども行われていた。

投資者が500万円のローンを組んだメルセデス・ベンツは1か月20万円程度で貸し出されていた。20万も払えるなら車を買ってしまった方がいいのでは?と思われそうだが、世の中にはローンを組めない人、現金を持っていても高級車の購入や保険の契約が難しい人もいる。そういう人たちが乗る高級車として、S社のカーシェアは都合がよかったのだ。

Nさんが所有する2台のベンツのうち、1台は大破。この車も川口市内の駐車場に停まっている(撮影:加藤博人)
Nさんが所有する2台のベンツのうち、1台は大破。この車も川口市内の駐車場に停まっている(撮影:加藤博人)

投資者たちが契約しローンを組んだ車両は約650台とされている。しかし、驚くことになんとこの中には「未納車」も存在するという。未納車とは「ローンを組んで購入契約をしたものの納車されていない」状態のクルマだ。要するに「空ローン」に等しい。

筆者の取材に応じてくれたNさんもメルセデス・ベンツ2台、BMW1台を契約したが、最近になってうち1台は未納車であることが分かった。つまり、存在しないクルマだったというわけだ。

Nさんはこう明かす。

「BMWは契約してローンで払っているのに納車されていませんでした。S社からは毎月、ローン代金が振り込まれていたので、そのまま私の口座から引き落とされローン会社に入金もされていました。あとの2台は当初はまともなクルマだったと思います。初期の頃は写真も出て実際にレンタルされていました。

BMWは契約の際に見積もりなどの金額や書類は確認したんですが、担当から『手続きが長引いています』と言われ、それっきり担当も辞めてしまいそのままになっていました」

そしてNさんの2台のベンツのうち1台は全損状態で川口市内の駐車場内にあることが確認されている。

先週20日からは、有志によって川口市内の駐車場に停まる「車両確認」の作業が行われている。中心となって作業を指揮しているのは、S社の下請け会社で車両修理を担当していたK氏だ。K氏自身も投資者であり、被害者である。また、被害にあった投資者たちがボランティアでこの作業を手伝っている。

ちなみに、240台のクルマが停まっているその駐車場の駐車料金は月額100万円。現在はもちろん、駐車料金は入金されていないが、「こんな事態だから」と大家さんの厚意によって年末までは車を止めるおけるのは唯一の救いだろう。

法律の専門家はどんな対応が望ましいと考えているのか。企業の倒産や個人の債務問題に詳しい半蔵門総合法律事務所の井上裕明弁護士はこう明かす。

「そもそもこの形態のビジネスが『個人間の共同使用』として道路運送法の許可の必要がないと言えるのか、慎重に見極める必要がありそうです。被害者が現物を確認せずに取引に応じている点で和牛預託商法に似ているところがあります。

S社の債務不履行は明らかですが、S社が倒産したのであれば、S社からの金銭的な回収はほとんど期待できないでしょう。被害者には自動車の所有権が認められ取戻権を行使できる可能性が高いですが、権利行使のためには裁判所や破産管財人の判断をあおぐ必要があるので、車を安易に持ち出すことは慎むべきでしょう。

S社からの経費支払が受けられなくなっても、クレジットやローンの返済義務を負うのはクレジットやローンを組んだ被害者です。しかし、被害者は、クレジット・ローン会社に対して、割賦販売法上の支払停止の抗弁権を主張してクレジットやローン代金の支払を停止することができる場合があります。お手元の契約書を確認して、まずはクレジット・ローン会社に相談してください。ただ、支払済代金の返還請求まで認められるかはケースバイケースであり、クレジットやローンを他社に借り換えたり、完済したりしてしまうと返金を受けることが困難になります。クレジット・ローン会社の対応次第では、すみやかに『弁護士会法律相談センター』にご相談ください」

この事件は、被害者ごとに自動車利用の契約関係や事実関係などの事情が異なるため、救済方法も被害者ごとに個別的な検討が必要な状況に陥ってしまっている。多数の消費者が被害を訴えている以上、S社やその関係者には,すみやかに真相を明らかにして,被害者救済のために、今からでもできる責任を果たしてもらいたいものだ。

S社はこのようにして、投資者を高級車オーナーに仕立てて写真を掲載.。現在サイトは見ることが出来ない
S社はこのようにして、投資者を高級車オーナーに仕立てて写真を掲載.。現在サイトは見ることが出来ない
  • 取材・文加藤久美子撮影加藤博人(川口市内の駐車場)

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