「泣き寝入りしない」と決めた女性達が痴漢抑止アニメを作るまで | FRIDAYデジタル

「泣き寝入りしない」と決めた女性達が痴漢抑止アニメを作るまで

  • Facebook シェアボタン
  • X(旧Twitter) シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン
「痴漢の実態についての知識を少しでも広げたい」と松永氏
「痴漢の実態についての知識を少しでも広げたい」と松永氏

痴漢をはじめとした性犯罪抑止のための活動を行なっている一般社団法人痴漢抑止活動センター(大阪市)。代表理事の松永弥生氏がこの活動を始めたきっかけは、友人の娘さんが通学中の電車での痴漢に長く悩まされてきたことだった。

2015年夏、当時高校生だった彼女が、痴漢をやめてほしいというカードを手作りし、通学鞄につけて電車に乗るようになると、痴漢被害にあうことがなくなった。これを聞いた松永氏は缶バッジを制作し、同じように痴漢に苦しんでいる学生たちに広めることを提案。「痴漢抑止バッジプロジェクト」を立ち上げ、缶バッジの制作と販売に乗り出した。

現在『痴漢抑止バッジ』はインターネット通販および大阪メトロ・南海電鉄駅構内のコンビニで販売されている。これに加え松永氏は全国各地の学校に働きかけ、缶バッジのデザインコンテストを継続的に行なっている。さらに現在、痴漢抑止のためのアニメーションを制作するため、クラウドファンディングに挑戦中だ。

今回松永氏に、缶バッジのみならずアニメーション制作を行うに至ったいきさつ、痴漢抑止の活動にかける思いを聞いた。

——2016年3月から配布・販売を行なっている痴漢抑止バッジは現在どのぐらい広まっているのでしょうか。

「1万6000個ぐらいまではカウントしていたんですけど、それから数えていません。正直、ネット通販の売り上げを見ていてもそんなにたくさん売れているわけではないです。ただ、一部の鉄道会社さんは期間限定で置いてくださったり、現在、南海電鉄さん、大阪メトロさんは駅構内コンビニで継続的に置いてくださっています。

『駅にこういうものがあるだけでも痴漢について考えるきっかけになるんじゃないか』と共感してくださったところが置いてくださったり継続してくださったりして、とても嬉しく思っています」(一般社団法人痴漢抑止活動センター代表理事・松永弥生氏 以下同)

——松永さんが痴漢抑止活動を始められた背景にはどのような思いがあったのでしょうか。

「痴漢にあっていた友人の娘さんが、痴漢抑止のカードを鞄につけて電車に乗るようにしたら、被害にあわなくなったというのを聞いたのがきっかけです。『痴漢しないで』というメッセージを書いたカードをつけて電車に乗るのはすごく勇気がいると思うんですが、彼女は切羽詰まっていてそうせざるを得ない状況だった。それで私は缶バッジを作って、同じように困っている子にも使えるようにしようと提案して、活動が始まりました。

私も20歳の頃には、東京に住んでいて毎日のように痴漢にあっていたんですね。一番最初に被害にあったのは8歳の時です。この活動を始めるまで、人に言ったことがありません。もし私が10代の頃に、考案者の女の子みたいに親に相談したり、対策を一緒に考えて欲しいと大人に相談していたら、今の女の子たちは痴漢にあわなかったかもしれないという思いがあります。

私は当時、自分が女で子供だからそういう目にあうのだと思っていました。我慢していたらそのうちあわなくなると思っていたんです。でもそれは、被害を後の世代に先送りしているだけで何の解決にもならないんだと、友人母子から話を聞いたときに初めて気づいて、とても情けなく感じたんですね。

『私は泣き寝入りしません』という決意を表明するだけで痴漢を抑止できるのであれば、被害がなくなると同時に冤罪も起きない。バッジを見て加害者が手を出すのをやめれば、犯罪自体が起きないわけです。被害者もいない、加害者もいない、冤罪事件も起きない。すごくいいアイデアだと思い、広げたいと思ったのが活動を始めたきっかけです。

そして当時もクラウドファンディングに挑戦したのですが、ご支援いただいた方からすごく切実な声がたくさん集まって、一度だけで終えてはいけないんだと改めて気づかされ、継続的に活動を行うことになりました」

——友人の娘さんは効果を感じたということでしたが、配布・販売によりバッジをつけた方々からはどういった声が寄せられていますか?

「埼京線で通学している女子生徒70名にバッジをプレゼントしてモニターとしてつけていただいたことがあったのですが、94.3パーセントが『効果を感じた』という回答でした。効果がなかったと回答された方は、もともと痴漢にあっていなかったという人や、『友達が効果がないと思うと言っていた』という回答でした。ということは過去に痴漢にあっていた女子生徒に関しては100パーセント効果を感じているのだと思いました。

モニター協力:浦和麗明高等学校  埼京線で通学する女子生徒70名 期間:9ヵ月(2016年3月~12月)
モニター協力:浦和麗明高等学校  埼京線で通学する女子生徒70名 期間:9ヵ月(2016年3月~12月)

これに関しては、アドバイザーである大森榎本クリニック精神保健福祉部長の斉藤章佳氏から、クリニックに通う元加害者に『こういうバッジをつけている子がいたらどう思うか』と聞いたところ『嫌だと言っている子に関しては痴漢はしません』と言っていたと伺いました。。そこには『痴漢を喜んでいる子がいる』という認知の歪みが感じられますが……。

周りの人にバッジを見えるようにつけるのがポイントです。かばんにつけて、肩にかけて、後ろに立っている人に見えるようにするのがすごく効果的です」

——意志を強く表明する活動に関しては批判もつきものだと思いますが、どのような意見が寄せられますか。

「バッジを作った当初、『被害にあっている女の子は何も悪くないのに、これをつけて身を守れというのは酷い』という意見がありました。でもこれは、アニメーション制作の経緯にも繋がってきますが、私たちが考えているのはあくまでも『抑止』なんですね。

昔、駅に貼られた標語に『痴漢にあったら勇気を出して声出して』という標語がありました。語呂はいいけどこれには異を唱えたいんです。私たちは痴漢にあって勇気を出したいわけでも痴漢を捕まえたいわけでもない。『痴漢にあいたくない』だけなんですよね。

これまでは、痴漢にあわなくて済む方法がわからなかったんです。でも、友人の娘さんがたった一人で、もう痴漢にあいたくないと作ったカードを身につけたことで痴漢にあわなくなったと実証してくれたんですね。これは自転車を盗まれるのが嫌だから鍵をかける、ということと同じではないかと思っています。

私はこれをつけなさいと言うつもりは全然ないのですが、もし困っていて、痴漢にあいたくないと思っているのであれば、『一度試してみては』と言いたいし、いつでも手に入る状態にしておいてあげたいと思っています。

ただ、まだまだ防犯グッズだという認識が広まっていません。ただの缶バッジだと思われてしまうと、学校につけていくと校則違反と思われてしまうんです。だから学校の先生方に、これは防犯グッズなんだということをわかってほしくて、学校を巻き込んだ活動をしていこうと、デザインコンテストを継続してやっています。コンテストをやることで、親御さんも関心を持っていただける、様々な人を巻き込み、活動するなかで、徐々に広まってきているなとは感じています」

——痴漢する側の心理についても伺いたいです。電車内での痴漢被害の多い場所を改めて伺うとともに、バッジを見せることによる心理的な効果なども、お聞かせ頂けますか。

「これは埼玉県鉄道警察隊のリーフレットを基に、許可を得てイラスト化したものにも記していますが、電車のドア付近はやはり痴漢が多いんです。一番痴漢が多いのはターミナル駅で大きな階段の近くにつくようなドア付近。理由は逃げやすいからです。

また、とくに酷いことをされやすい場所も決まっています。連結部の近くの座席のないエリアです。身長の低い子が立っていると、その前に大きな加害者が立てば周りから全く見えない死角になる。電車が止まって逃げようと思っても逃げられないという面でも一番危険です。

混雑する時間帯に電車に乗る際は、数本見送るぐらいが理想ですが、どうしても混んだ車両に乗る場合は中のほうに入ったほうがいいです。また、ホームにいるときに痴漢は被害者を物色していることが多いです。

私の20代の時の経験なのですが……終電間際の電車に乗ろうとしていて、男性が近づいて来て、嫌な感じがしたから離れてもついてくるんです。なので電車に乗った時もなるべく離れようと奥に逃げました。結局その人は別の女性に痴漢をしていたようで、ひとりの女の子が泣きそうな顔をしていたんです。そのとき私は……今もすごく後悔しているんですがこう思ったんです。『やっぱり痴漢だったんだ、よかった』と。そう自分で思ってしまった。本当にあの時の私をぶん殴ってやりたいと今も思っています。

今の私だったら痴漢にあっている子に『気分悪そうだけど大丈夫?』と声をかけるか、何か工夫ができると思うんです。でもあの時は本当に自分のことしか考えてなくて自分が無事でよかったと思ってしまったことが本当に申し訳なく、今思い返しても本当に悪かったなって思います。

だから私は痴漢に腹を立ててはいますが、それ以上に自分に腹を立てている部分もあるなと思います。痴漢抑止バッジを考案した女の子みたいに勇気を持って誰かに相談して、もっと早く活動を始められれば今の若い子たちは痴漢にあわずに済んだんじゃないかと。でも昔の私を責めたら今何もできない子たちを責めることになる。だけど50歳過ぎた私は活動しなきゃダメだよね、って。

よく私が例えるのはタバコの問題です。いまは禁煙が当たり前の社会ですが、30年前にはタバコを吸っているのが当たり前で電車内でも吸えましたし、病院内に喫煙所がある場合もあった。痴漢なんてなくならないとか、世の中そんなに変わらないとか言われますが、30年あれば変わるんです。痴漢抑止バッジも今は認知度が低いですが、30年たったら『電車に痴漢がいたなんて信じられない』というのが当たり前の世の中になると信じて活動しています。

定期を買いに来た子に無料でプレゼントするとかそういう流れができれば理想だなと思っています。マタニティマークも最初は鉄道会社が無料で配布していましたし」

——現在、アニメーション制作中とのことですが、公開はいつ頃の予定でしょうか。またクラウドファンディングで制作資金を募っておられますが、このクラウドファンディングに至った経緯や、その思いなどをお聞かせください。

「バッジに加え、抑止の活動をさらに広めるためには、痴漢の実態についての知識を少しでも広げたい。若い子たちに見てもらうにはやっぱり動画が一番いいかなと思い、アニメ制作をしようと思いました。

11月にクラウドファンディングの締め切りがありますが、同時進行で制作を進めています。完成は来年の4月末の予定です。学校で上映会をしてもらえたら嬉しいですが、YouTubeでも無料公開をしていきます。

ツイッターや公式サイトに専用HPを作り、『被害にあっている人たちへ』という項目を作り、アニメーションで伝えられないことをテキストで伝えたり、『保護者の方へ』とか『学校の方へ』といった項目も作り、被害者に非があるかのようなセカンドレイプをしないよう、接し方についても記しておきたいと考えています」

——コロナ禍で通勤通学時間帯の混雑が緩和されている状態なのではと思いますが、この状況下でも痴漢の被害について耳にすることはありますでしょうか。

「コロナ感染拡大による自粛期間中ということもあり、さすがに今年バッジの販売数に動きは全くなかったです。ただ9月になってからオーダーが入るようになりました。やっぱり痴漢が出て来たんだなと感じています。オーダーがあるということは誰かが困っているということなので。

これまでの流れで言うと3月末、4、5、9、12月は痴漢抑止バッジの売り上げが伸び、痴漢の多いタイミングだといえます。社会人が忙しい時期とも重なり、痴漢は本当に社会とリンクしているなと感じています。そういう意味で、痴漢抑止活動に関心を持ってくださる方が増えれば、痴漢がしづらい社会になると思っています。多くの方に活動を知っていただき、応援してほしいです」

痴漢抑止活動センター

アニメーションのクラウドファンディングはこちら(締め切りは11月20日) 

https://readyfor.jp/projects/scb_action?utm_source=pj_share_twitter&utm_medium=social

  • 取材・文高橋ユキ

    傍聴人。フリーライター。『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』(晶文社)、『暴走老人・犯罪劇場』(洋泉社新書)、『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)、『木嶋佳苗劇場』(宝島社)、古くは『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』(新潮社)など殺人事件の取材や公判傍聴などを元にした著作多数。

Photo Gallery4

FRIDAYの最新情報をGET!

Photo Selection

あなたへのおすすめ記事を写真から

関連記事