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トランプが負けたら「アメリカ全土で暴動・テロが起きる」の深刻度

米大統領選後に警戒すべき危ない妄想系極右たち

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米・中西部州での集会で熱烈な支持者の歓迎を受けるトランプ氏。後方にQアノンのマークが見える 写真:AFP/アフロ

米大統領選が11月3日(日本時間4日)に行われる。米国での各事前調査ではバイデン候補がやや有利な情勢だ。もしこのままバイデン候補が勝利した場合、トランプ支持者の中には、それを「不正選挙だ」として認めない人々が出てきそうだ。

トランプを支持する「危ない」集団とは

トランプ支持層の中には過激な集団が存在する。なかでも「Qアノン」という陰謀論を信じている人たちは、絶対に負けを認めないだろう。

Qアノンとは、Qと名乗る人物が2017年からインターネットの匿名掲示板で広げた荒唐無稽な陰謀論を指す。アノンはアノニマス、つまり匿名という意味だ。

Qアノンが展開する陰謀論にはいろいろあるが、メインはこれだ。

「米国政府は、じつは既得権益層である影の権力者たち=ディープステートに支配されている。トランプ大統領は彼らと戦う真の英雄だ」「民主党のリベラル政治エリートたちは異常な小児性愛者で、じつは裏で非道な児童売春をしている。トランプ大統領は彼らと戦う真の英雄だ」

「陰の悪者と戦う真の英雄」とは、バカバカしい陰謀論だが、恐ろしいことに米国では、トランプ支持の保守派の集会で、Qアノン支持を公言したり児童売春デマを信じて「子どもたちを救え」と叫んだりする人がいるなど、それなりの影響力を持っているのだ。

日本にも「米国のディープステートが~」などと公言する国会議員もいるので米国を嗤(わら)えないが、米国では大統領選と同時に行われる下院選で、候補者のうち少なくとも25人がQアノン支持者とみられる。そのほとんどが、当然だが共和党である。

このうち当選確実なのはジョージア州のマージョリー・グリーン氏。コロラド州のローレン・ボーバート氏も当選可能圏内にいる。どちらも銃を構えた写真をSNSでよく発信している女性だが、その姿こそトランプ支持層のコアな人々と重なる。全米ライフル協会などの銃規制反対を掲げる層である。彼らのなかから「ディープステートの陰謀による不正選挙だ」として、トランプ敗北を認めない人々がおそらく出てくるだろう。

もちろん、トランプ敗北を認めない人々が皆、武装して暴れるかといえばそういうことではない。トランプ敗北を認めない人々でも、その大勢は穏健な抗議行動に留めるだろう。

しかし、銃を持ち出して抗議行動をする人が一定数でてくる。おそらくその中心になるのは、全米やカナダに広いネットワークを持つ「プラウド・ボーイズ」などの極右グループや、「スリー・パーセンターズ」「オース・キーパーズ」などの極右ミリシア(武装した自警団)で、彼らはそこそこの動員力がある。

プラウド・ボーイズのリーダーと「活動家」たち。このシャコタンカーで「スタンバイ」しているのか… 写真:AFP/アフロ

なかでもプラウド・ボーイズは、今回、トランプ支持を強く打ち出している。プラウド・ボーイズは前回の大統領選があった2016年に設立された白人至上主義の極右グループで、現在も継続している人種差別反対デモへの妨害行為で注目されている。

つまりもともとトランプ側に近いグループだ。じっさい、9月29日に行われたトランプとバイデンの候補者討論会で、このグループについてのトランプの発言が大きく注目された。

「Proud Boys,stand back & stand by.」

司会者がトランプに対し、白人至上主義者やミリシアを非難し、彼らに身を引いて暴力に加担しないよう促すかどうかを尋ねたところ、トランプは、自分にはその気はあると答えたものの、続けて「それはいったい私に誰を非難させたいのか」と逆質問。そこにバイデンが「プラウド・ボーイズだ」と口を挟んだ瞬間、トランプはなんと「プラウド・ボーイズよ、下がってスタンバイせよ」とカメラ目線で言い放ったのだ。

プラウド・ボーイズのメンバーたちは大喜びだ。トランプから直々に「指令」が出た!とばかりに、SNSに「了解です。僕らは準備ができています」と書き込んだメンバーもいた。

まるで、現職の大統領が極右の暴力行為を認め、煽っているかのようなやりとりだ。トランプの失言なんだろうが、プラウド・ボーイズの側はこれを旗印に、もし選挙でトランプが敗北となれば、暴力的な抗議行動の先頭に立つことも予想される。騒動の火種をトランプ自らが作ったといえるだろう。

お揃いのTシャツに星条旗柄のマスク。体に「Proud Boys」ロゴのタトゥーをしている人も 写真:ロイター/アフロ

ただ、彼らのほとんどは「テロリスト」というわけではない。荒っぽい示威行動は得意だが、堂々と組織を上げて武装闘争を行うようなことはできないだろう。

しかし、彼らの人脈の末端から、あるいはシンパのような立場の人間から、過激な行動をしたがる輩が出てきてもおかしくはない。とくに、多くの人間がバイデン勝利を認めない行動を起こした場合、そうした光景がTVやネットで放送されると、それに刺激を受け、自分こそは正義のヒーローだと妄想して暴発する個人、あるいは少人数の仲間内グループが出てくる可能性がある。

こうした非現実的な妄想をする危険分子は、どこの国にもそれなりにいるが、米国は銃器の入手が容易なため、その危険度がきわめて高い。

米国内テロ事案の6割以上が極右系妄想型

米国でのテロ事案をウォッチしていると、極右系の妄想型テロはその他のテロよりずっと多いことがわかる。米国では今年、黒人差別反対デモの高まりから、極左系の無政府主義テロの脅威が注目されたが、現実には極右テロのほうがずっと多い。近年、イスラム・テロが警戒されたが、それよりも極右テロのほうが数が多いのだ。

たとえば、米国の大手シンクタンク「戦略国際問題研究所」(CSIS)によると、この四半世紀の米国内テロ(計画含む)のうち極右テロは、他の極左テロや宗教テロを抑えて、全体の57%にもなる。しかも、この比率は過去6年の間に増加しており、2019年および2020年8月まででは、テロ行為全体の3分の2を、極右系によるテロが占めた。

こうした状況に、FBIのレイ長官は2020年2月5日、ネオナチと白人至上主義つまり極右を、国内の脅威の優先事項に引き上げたことを発表した。米国土安全保障省が10月6日に公開した脅威評価年次レポートでも、「白人至上主義が米国内で最も継続的で致死性が高い脅威」と言及されている。アメリカでは、それだけリアルに危険度が高まっているのだ。

もっとも、極右だの白人至上主義だのといってもその組織の多くは、高度に組織化されたものではない。

たとえば10月8日、トランプ大統領とコロナ対策で対立していたミシガン州のウィットマー知事(民主党)の誘拐を計画した13人の男たちが逮捕されたが、彼らは「ウルバリン・ウォッチメン」と自称するグループの仲間たちだった。ウルバリンはイタチ科の動物名で、映画にもなったアメリカンコミックでは有名な超人的ヒーローのことだ。2019年11月以降にFacebookを通じて集まったという。

ウルバリン・ウォッチメンは、ミシガン州ムニッシュの村落にある中心的人物の家で軍事訓練をし、最初は州議会を占拠しようとしたが、警備が厳重だったために知事誘拐に計画を変更したということだった。もともと大した組織でもないが、考えることが極端なのだ。

ウルバリン・ウォッチメンが掲げていたのが「ブーガルー」という考えである。これは、銃規制反対や反体制運動などの信条のために政府と戦う武装闘争・内戦のこと。近年、このブーガルー運動は米国の極右で支持者を拡大しており、実際にそれを掲げ、米国内での内戦を夢見て起こされた妄想型テロが相次いでいる。

危険なグループは他にもある。たとえば「ライズ・アバブ・ムーブメント」(RAM)という南カリフォルニアのネオナチ・グループは、2018年にウクライナに渡って、戦闘経験の豊富な現地のネオナチ勢力から訓練を受けている。

また、欧州にもネットワークをもつネオナチの「アトムワッフェン(核兵器)師団」という小規模の過激派グループもある。これまでも数々のテロ活動を企てており、現在も水面下で活動を続けていてFBIが警戒を強めている。

過激派テロは連鎖する

こうした過激派グループも、前出のプラウド・ボーイズなどのトランプ支持の極右グループがトランプ敗北を認めない示威行動を行った場合、それを追い風に自分たちもテロを企てるかもしれない。そして、仮にそんなテロがまた大々的に報じられたりすると、それに刺激されてまた極右系の個人・仲間内グループの暴発が誘引される危険性もある。テロは連鎖する性質があるのだ。

仮にトランプが勝利すれば極右が暴れるということはない。が、敗北した場合には、選挙の無効を主張して極右グループが示威行動や暴動を起こす可能性は充分にある。さすがにそこからクーデターや内戦などにエスカレートすることはないが、そうした混乱をきっかけに、極右の末端が妄想型のテロを起こすかもしれない。

そうしたテロが米国社会を変えるなどということはあり得ず、起きたとしても単発的な事件に終わるだろう。けれども、過去にはそんな少数の仲間内グループが独自に起こし、168人もの犠牲者を生んだ1995年のオクラホマ連邦ビル爆破事件などの例もあるので、甘く見てはならない。

アメリカの大統領選は、投開票ですんなりと終わりそうもない。選挙後の国内外の混乱を引き続き注視していきたい。

黒井文太郎:1963年生まれ。軍事ジャーナリスト。ニューヨーク、モスクワ、カイロを拠点に紛争地を多数取材。ゴルバチョフ~エリツィン時代、モスクワに居住して、北方領土返還問題をロシア政官界側から長期取材した。軍事、インテリジェンス関連の著書多数。

最新情報を分析した迫力の新著『新型コロナで激変する日本防衛と世界情勢』(秀和システム刊)が話題。

  • 取材・文黒井文太郎写真AFP/ロイター/アフロ

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