「ダルビッシュを唸らせた男」早大・早川の早慶優勝決戦への決意 | FRIDAYデジタル

「ダルビッシュを唸らせた男」早大・早川の早慶優勝決戦への決意

伝説の早慶6連戦から節目の60年目。歴史的決戦の再戦なるか

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155キロを記録した8月の春季リーグ・明大戦の早大・早川隆久(写真:時事通信)
155キロを記録した8月の春季リーグ・明大戦の早大・早川隆久(写真:時事通信)

今年のドラフト会議で最多の4球団から1位指名を受けた早大の左腕エース・早川隆久投手が11月7日から東京六大学野球伝統の一戦、早慶戦に挑む。優勝が決まるライバル決戦は、両校8試合を終えて6勝2分で首位の慶大は1勝1敗で優勝、5勝3分の早大は1勝1分で逆転優勝となる。ちょうど60年前の秋、早慶が優勝をかけて戦った「早慶6連戦」も対戦前は2位だった早大が制し、今でも語り継がれている。

コロナ禍の中、開催されたこの秋のリーグ戦で伝説再現となるか。主将・早川の心境を追った。

アマチュア球界最高の左腕と称され、卒業後も野球を続ける早川にとっても、ライバル・慶大に対する思いは特別だった。

「これまでも優勝のかかっている慶応を何回も自分達は跳ね返してきた自信もある。夏はやられたのでやり返したい。4年生は団結して。集大成です」

新型コロナウイルスの感染拡大により、春のリーグ戦は約4カ月遅れて8月に1試合総当たりの変則方式で開催。この時の早慶戦は早川自ら2本のホームランを許して優勝争いから脱落した。だが、一方で慶応の完全優勝を2回、阻んだ自負もある。

新型コロナによって取り巻く環境が激変した2020年。その外的要因を早川はプラスの時間に変えた。引力に逆らって伸びていくストレート。ツーシーム、カットボール、スライダー、チェンジアップはそれぞれ、変化量は自在。ドラフトで指名権を獲得した楽天の石井一久GMの「今年一番いい投手」というコメントに異論を挟むものはいないだろう。ただ、3年生までの早川はドラフト候補のひとりではあったが、突出できる結果は残していない。大学3年を終わった時点でのリーグ戦の記録は7勝12敗だった。

「負け越していて、早稲田に貢献できていない。自分がドラフト候補で騒がれるなんて実感がない」と、ついこの間までこう言って恐縮していたほどだ。

だが、自粛期間で早川は自身を見つめ直す。東京都内のグラウンドが使用できないため、寮へ器具を持ち込んでウェートトレ、周辺の坂道ダッシュなどで体幹を鍛え、シャドウピッチングでフォームを固めた。

「特別な時間で貴重な経験になった。4月から6月まで思うような練習ができないからこそ、真価を問われる期間でした。なりたい自分にどうやってなるか、自己分析をして計画を立てて練習をしました。結果に繋がったので自信になりました」

探求心があれば成長できる、という持論があり、地道な練習を積むだけでなく、細部まで突き詰めないと気が済まない。

「例えば体の各パーツにはそれぞれの役割がある。抽象的ですますと理解できない。どれだけ掘り下げられるか」

大学のゼミでメカニックを専攻して野球に生かす。ストレートと変化球を投げるときの骨盤などの使い方の違いを自らを実験台にして研究して卒論を書くという。

その成果は今年最初の公式戦となった春のリーグ戦でしっかり現れた。8月9日の明大との初戦で、自己最速155キロを記録した。

<いやいや 左で155キロって(笑)・・・>

海の向こうからシカゴ・カブスのダルビッシュ有が反応してツィートした。その剛球は国内どころか、瞬く間に海外に衝撃ニュースとして伝わったのだ。早川はこう明かす。

「ダルビッシュさんに評価していただいて嬉しい気持ちと、これから対戦するバッターに155という数字を意識させることが出来て、助かります」

これで一気にドラフト協奏曲のトップランナーに躍り出る。磨きにみがいた直球と、早川に備わる五感の鋭さで、大ピンチをしのいだゲームがある。10月4日、法大2回戦の六回表、4対6の劣勢。1死満塁で早川はリリーフに立つ。迎えるのは3番打者だった。

「あれ以上、点を取られるとゲームは終わる。三振を取ればリズムに乗れる。捕手からカットボールのサインが出ましたが、首を振りました。バッターは真っすぐを捨てている、と感じたのでストレート勝負。甘目でも強いボールで三振を狙いにいきました。抑えたら(自分たちに)流れが来る確信がありました」

次の4番打者も凡打に打ち取ってピンチをしのぐと、すぐ裏の回に味方が2点を追いついて、貴重な引き分けに持ち込んだ。

過去には相手の声の内容を「伝達行為ではないか」と察知して、相手の思惑の裏をかく投球で抑えたこともあるのだという。

「自分は耳が良くて、聞き分ける能力が高いようなんです」

西東京市内にある寮でたまに仲間とするイントロ当てクイズもダントツに得意。かつて姉の影響で浜崎あゆみ、安室奈美恵などの曲をよく聞いていたそうだ。

秋のリーグ戦は5試合投げて4勝0敗。35回2/3を投げて自責点は1点、防御率0・25。被安打はわずかに12本、与えた四死球は7個だ。奪三振58個で、この秋のリーグ戦の奪三振率は早大の先輩左腕、和田毅(ソフトバンク)の14・06を上回る14・64だ。

早川(右)に指導する早大・小宮山悟監督(左)。この秋に賭ける思いは強い
早川(右)に指導する早大・小宮山悟監督(左)。この秋に賭ける思いは強い

NPB、メジャーで20年活躍し、投手にはよりリクエストが厳しくなる小宮山悟監督は早川をこう評する。

「ストレートも変化球もどれも、文句のつけようがないボールです。140キロ後半で〝スピードが落ちてます〟なんて言われてかわいそう(笑)。2年前、前任の首脳陣から引き継いだ時に、『マウンドでは臆病なところが出てしまう』と言われたんですが、そんなピッチャーがよくぞここまで、成長してくれた。どこに出しても恥ずかしくない」

キャプテンになったことでも自覚ができたようだ。監督直々のキャプテンご指名だったという。早川が振り返る。

「昨年秋の早慶戦の二日目が終わった日の夜、寮の階段で〝来年、頼む〟と。何を頼まれたかと思ったら、キャプテンをやれ、ということでした」

監督は「他に野手の適任者がいなかった」というが、小宮山監督自身も早大でキャプテン経験者だ。早川の将来を見据えて指名した面もあったのではないか。

主将となれば、投げるだけでなく、チームを引っ張らなければいけない。早川自身、「ピッチャーも9人目の野手」と常に口にして全力疾走をいとわない。攻守交替ではベンチ前で仲間の野手を待ちかまえてタッチで迎える。「守ってくれてありがとう。次の攻撃を頼むよ」という気持ちからだという。

指揮官の目論見は的中する。

「キャプテンになって背中で見せて周りも感じ取っている。人は立場や考え方ひとつでガラッと変わるもの。まじめな性格なので10番の重み、責任を持たせていい結果になった。

2年間見てきて、自覚をもって取り組めるようになったことが成長。プロの高いレベルでやるための覚悟を決めろ、と。そこに火をつけることはできたかな。高校代表の他のピッチャーはみんな高卒でプロ入りした。早川は遅れてスタートラインに並ぶけど、逆に4年間でアドバンテージを得たんじゃないかな」

同期のU-18日本代表は西武・今井達也、楽天・藤平尚真、ヤクルト寺島成輝など早川以外の7人全員が高卒でプロに行った。ただ、今季は入団当時の期待に応えられているのは日本ハム・堀瑞輝くらいだろう。早川は大学で彼らをしのぐ存在に成長した。

早慶戦は早川にとって、同期がすでにしのぎを削る舞台に飛び込む前の最後の公式戦だ。11月7日の第1戦で慶大に敗れた時点で優勝を譲ることになる。その一戦必勝の先発に指名されるのはもちろん早川だ。

8月に行われた春季リーグ戦の早慶戦は8月15日の終戦記念日に行われた。この日、石井連蔵元早大監督、前田祐吉元慶大監督の野球殿堂入りセレモニーも行われている。小宮山監督にとっても、慶応の堀井哲也監督にとっても現役時代の恩師。その二人の監督が指揮をとった激闘が60年前の『早慶6連戦』だった。

まず2勝1敗で早稲田が勝ち点で並び優勝決定戦に。2試合の引き分けがあって6試合目で早稲田が勝って優勝を果たす。6試合中5試合に先発し完投した早稲田の安藤元博投手が獅子奮迅の活躍をした伝説の試合だ。

10月25日、立大戦の会見の最後、小宮山監督がとつとつと言葉を絞り出しはじめた。

「星勘定もしていたら、優勝決定戦の可能性も出てきて。これも6連戦から60周年という因縁めいたことも感じる。早川がこれだけのピッチャーになって…。 6連戦の安藤さん、僕が学生の時にグラウンドに来て教えてもらってるんですよ。殿堂入りした石井さんもそうですし安藤さんにもね…。優勝して天皇杯を手にした早川を写真に収めたい。いい形でプロに送り出したいと思ってるんです」

小宮山監督は珍しく何度も言葉に詰まり、息をのみ込んだ。60年前の安藤投手と〝無双〟状態の早川はダブっているはずだ。特別な年の秋。先輩たちにどんな報告ができるだろうか。

  • 取材・文清水岳志

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