『刷ったもんだ!』が描く、誰も知らなかった「印刷会社の裏側」

作者・染谷みのるさんインタビュー&試し読みを公開

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私たちが普段から目にしている、本やチラシ、ポスターなどの印刷物。素人目線で見ると、イラストや写真を印刷するだけと思ってしまいがちだが、「完成品」ができあがるまでには、多くの技術や工程、たくさんの人の手が加わっている。

雑誌「モーニング」で連載中の『刷ったもんだ!』(作・染谷みのる/講談社)は、そんな印刷物を作り出す印刷会社の人々を、コミカルかつリアルに描いたお仕事マンガだ。

『刷ったもんだ!』(作・染谷みのる/講談社)1巻書影

元ヤンキーで眼光鋭く、曲がったことが大嫌いな主人公・真白悠(ましろ・ゆう)。中小印刷会社「虹原(にじはら)印刷株式会社」にデザイナーとして就職した彼女は、元ヤンであることを周りに隠し、「私はやり直す」という決意を胸に心機一転仕事に打ち込む。

学校の卒業アルバムや企業パンフレット、行政ポスターから成人向けの同人誌までなんでも請け負う虹原印刷で、クセの強い先輩や同僚に囲まれ、聞きなれない専門用語や慣れない仕事に悪戦苦闘しながら、真白は少しずつ「虹原印刷の一員」として成長していく――。

卒業アルバムと行政ポスター、R18の同人誌が同じ印刷機で同時に印刷されるカオスな状況。これも印刷会社あるあるらしい。『刷ったもんだ!』1巻より

本作には、出版業界、印刷業界で働く人はもちろん、同人活動をしている人にとっても身近で“あるある”なエピソードが満載。また、印刷業界にまったく馴染みのない人でもよく分かるよう、「DTPオペレーターとは」「オンデマンドとは」「同人誌とは」「コミケとは」と作中で丁寧に解説される。

実は作者の染谷(そめや)みのるさんは、実際に印刷会社で働いていた経験があり、現場の空気感を知っているからこそのリアリティが本作の見どころのひとつでもある。

今回は染谷さんに、本作が生まれた経緯や執筆の裏側を伺った。

「最初に描きたいものを聞かれたときに出した案は耳掃除の話だったのですが、連載にするにはニッチすぎるということで、私が最近まで印刷会社で働いていたという話から本作のストーリーが生まれました。ちなみに耳掃除の方は、読み切りマンガとして描かせていただいています。

印刷会社では、まさに主人公・真白がやっているような、印刷物のデザインやデータ作成の仕事をしていました。なので作中の仕事描写は概ね実際にあったことがベースになっていて、どれもこれも思い入れは深いです。

中でもアッセンブリ(※グッズの袋詰めなど、梱包作業)をしすぎて脳内でアッセンブリの全国大会が開かれてしまった件はいつか絶対に描きたいと思っていたので、描けて嬉しかったです(笑)」(『刷ったもんだ!』作者・染谷みのる氏、以下同)

脳内で始まるアッセンブリの全国大会。単純作業が何日も続いていくと、次第に思考力が低下してこうなることも…⁉ 『刷ったもんだ!』1巻より

主人公の真白はとある作家のマンガが大好きなのだが、「相容れない」と思っていた同僚・黒瀬も、実は同じ作品を愛する「同士」であったことがひょんなことから発覚する。

何事にも冷静沈着・理路整然としている黒瀬と、猪突猛進で熱血な真白。正反対の二人はお互い苦手意識を持ちつつ、趣味と仕事の両方を通じて徐々に親交を深めていくことに……。実はこの二人、構想当初の設定からは大きく変化したキャラクターなのだという。

「初期設定での真白は、異常に力持ちなことを隠している明るく元気な猪突猛進女、その相方である黒瀬が関西出身で実は元ヤンという設定でした。

しかし担当さんから『主人公のキャラがツルッとしすぎている』と指摘が入り、それなら黒瀬の元ヤン設定を真白に持ってこよう! と今の形になりました。ヤンキーだった女性が就職して働く話はあまり見たことがないな、と思ったのも決め手のひとつです。二人が『マンガ好き』という共通の趣味を持つのは、『好きな作品が同じ人と付き合うっていいよね』という友人の話に触発された部分もありますね。

真白と黒瀬は水と油のような関係性、かつ自分が描きやすいキャラクターというところからいろいろと模索していったのですが、その他の人物は“職場のあの人”っぽくなってしまった人がポロポロいるように思います。現実世界で出会う人たちのキャラ立ちが毎度凄いので、自然と影響を受けてしまいます(笑)」

仕事は適格だがどこか冷たく感じる黒瀬に「どうにもいけすかん……!」と苦手意識を持つ真白。まさに水と油な二人だが、プライベートでまさかの出会いを果たし、お互い驚愕することに…!『刷ったもんだ!』1巻より

本作では、新人の真白が自身の未熟さに悩んだり、大きなミスに落ち込んだり、それでも任された仕事をやり遂げようと奮闘し、できあがった印刷物に思わず「めっちゃキレイやん!」と目を輝かせる姿が生き生きと描かれる。こうしたひとつひとつのエピソードにも、染谷さんの当時の経験が反映されているのだとか。

「(印刷会社に)入社したての頃、私も変に自分の能力を過信していて、人に聞かなくても大体のことはできると思い込んでいました。あと、当時からマンガのお仕事もして二足の草鞋を履いていたので、極力オフのことは明かさないと決めていました。自分で壁を作ってしまっていて……そのあたりも真白とかなり近い心境でしたね。でも、気付けばすっかり居心地よくなっていました。出会った人や環境が本当によかったんだと思います」

虹原印刷に入社したての頃は、「一人でしてかなアカンのや」と気を張り、人に頼るということができなかった真白。しかし、先輩たちに助けられていくなかで、徐々に変化し、成長していく。 『刷ったもんだ!』2巻より

作中では印刷会社の各部署の仕事内容や、複雑な印刷機の仕組みなどが丁寧に描かれているが、これには染谷さん自身の経験に加え、綿密な取材が活かされているという。

「元勤務先の方々とは辞めた後も飲みに行ったりする仲で、会えない中でもLINEなどで事細かにいろいろな質問にお答えいただいています。そのグループ内には幅広い年代・部署の方がいるので、非常に助かっています。

また、連載開始前には印刷会社さんの工場見学もさせていただきました! 最近はコロナの影響で取材は難しくなっているのですが、リモートでの質疑応答や動画などで対応していただき、本当に助けられています。こうして連載を続けられているのも、周りの方々のご協力のたまものですね」

お仕事マンガとしての面白さもさることながら、真白と黒瀬のビミョ~な距離感も気になる本作。職場の同僚というだけでなく、「好きなマンガ」という共通の趣味を持つ二人の関係性は、今後どうなっていくのだろう?

「連載開始時はラブコメにするぞと意気込んでいたのですが、いざ話を進めていくと、『オン・オフを共有できる唯一の仲間』という今の関係性がしっくりきすぎて……。でも、この二人がラブコメしてるサマも面白いだろうなと思うので、今後の展開次第では、発展していく可能性もある……のではないかと思います」

「夜中に一人で帰るのは不用心」と黒瀬に説かれ、なんだかんだで駅まで競争のようになってしまった二人。イマイチ考えの読めない黒瀬に、困惑する真白だが…? 『刷ったもんだ!』1巻より

インタビューの最後に「印刷業界に近しい方にもそうでない方にも、“仕事も大人も、案外楽しい”というのが伝わるといいな、と思いながらいつも描いています。マンガの中ですったもんだしている人たちを眺めることが楽しい癒しの時間になることを祈りつつ、誰か一人でも共感できるキャラ、好きなキャラを見つけていただけたら幸いです!」と語ってくれた染谷さん。

自分の仕事を愛し、誇りを持ち、「虹原の仕事」をやり遂げようと全力を尽くす本作のキャラクターたちを見ていると、なんだか元気が湧いてくる。

「印刷会社ってこんなことまでやるの⁉」「ただ印刷するだけじゃないんだ」と新しい発見が盛りだくさんの『刷ったもんだ!』。マンガを読み終えるころには、身近にあふれる印刷物がこれまでと違って見えるはずだ。

 

『刷ったもんだ!』2巻 11月20日発売!
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『刷ったもんだ!』

  • 取材、文月乃雫

    兵庫県出身、東京在住のフリーライター。アニメやマンガ、料理といった得意分野を活かし、『ダ・ヴィンチニュース』(KADOKAWA)や『レタスクラブニュース』(KADOKAWA)、『マグミクス』(メディア・ヴァーグ)など様々な媒体で執筆。2020年1月よりブログ『ソロ活LIFE』も運営中。

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