レイプされ妊娠でも…中絶に「加害者同意」が必要という理不尽 | FRIDAYデジタル

レイプされ妊娠でも…中絶に「加害者同意」が必要という理不尽

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写真:アフロ
写真:アフロ

女性が性暴力を受け、その結果妊娠したとき、医療機関から「加害者の同意がなければ中絶手術ができない」と言われる……。

いま、こうした信じられない“二次被害”が全国で起きているという。

医療機関が加害者である男性側の同意を求めるのは、母体保護法に定められている条件が根拠となっている。

同法には、性暴力被害の結果妊娠した場合「本人及び配偶者の同意を得て、人工妊娠中絶を行うことができる」とある(母体保護法第14条1項2号)。そのため医師らは、性暴力による妊娠であっても、「配偶者」を子どもの父親と思われる人と拡大解釈し、人工妊娠中絶の同意書に加害者の署名を求めるのだという。

この母体保護法の規定について、1996年に出されていた厚生労働省の通達には、性暴力被害者の中絶手術について、次のような文言があった。

「この認定は相当厳格に行う必要があり、いやしくもいわゆる和姦によって妊娠した者が、この規定に便乗して人工妊娠中絶を行うことがないよう十分指導されたい」

女性が「性暴力にあった」と嘘をついている可能性があるので注意せよという内容だ。また昨年に行われた、同省と日本医師会による合同講習会の席上において「強姦の確認は本人の証言のみでよいか」と参加者からの質問に登壇者の一人が「起訴状や判決書など文書による確認が必要」と回答している。

こうした事態を重く見た「犯罪被害者支援弁護士フォーラム」は今年6月、日本医師会に対し、適切な対応と実態調査を求める要望書を提出。厚労省にも申し入れを行っていた。同フォーラム事務次長・上谷さくら弁護士は、被害の実態をこう語る。

「この件は、西日本のある弁護士さんから相談を受けて知りました。相談者は未成年者の元彼にレイプされて中絶を希望している。警察も入って事件になっているが、加害者は逃げていて、まだ捕まっていない。そのような状況のなか、ワンストップ支援センター(性暴力被害者に対し総合的な支援を行う窓口)と連携している病院に行ったのに『加害者の同意がないと手術できない』と言われたということです。

あちこち回っても同じ対応だったらしく、その時に『東京でもそうですか? 地域的な問題でしょうか』という相談を受けたんです。調べると全国で同様の問題が起こっていたことを知りました。

性暴力の結果妊娠して中絶を希望しているのに、同意書の配偶者欄に『加害者の名前を書くように』と言われ、それがすごく屈辱だったという方もいます。また、結局加害者が逃げてしまって所在がわからない場合も多いのですが、そうすると医師に『適当に名前書いといて』と言われることもあるそうです」(犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務次長・上谷さくら弁護士 以下同)

そして10月20日、厚生労働省は母体保護法の施行に関する通達を24年ぶりに改正。問題視されていた文言は次のように変更となった。

「この規定により安易に人工妊娠中絶を行うことがないよう留意されたい」

上谷弁護士は、この通達について「望んだ対応ではなく、事態が改善されるとは思えない」と語る。

「『加害者に同意を求めてはならない』という禁止の通達を出してくれるように求めていたのに、これで終わりなのかと驚いています。禁止にしなければ意味はありません。

あの文言だと、『念のために(加害者の)同意を取っておこう』と考える医師はいるでしょう。24年ぶりに通達が改正された今、またすぐに変更されることは考えにくい。うやむやにしようとしているように感じられます」

医師らが懸念するのは、加害者である男性から「勝手に中絶された」と民事訴訟を提起されることだという。これについても疑問を呈する。

「『嘘をつく女がいるだろう』という前提で話が進んでいて、加害行為をした男から訴えられるかもしれないからそれに配慮しよう、みたいな現状はなんなんだろうと思います。それに、そうした訴訟を恐れているのであれば、実際に提訴された件数や医師が敗訴した件数を公表してほしいですし、少なくとも私は性暴力加害者によるそうした訴訟の話は耳にしたことがありません。

性暴力被害の結果妊娠し、中絶を拒否される中で、ある週数を過ぎてしまうともう産む選択しか残されません。加害者の子供を育てていかなければいけない被害者の人生も不幸ですし、全く罪のない子供も不幸です。養育にかかる費用も発生する。それについて、被害者が医師を訴えることには正当性があります。被害者から訴えられる心配はしないのかと、そちらのほうが気になります。

さらに現状では同意書の配偶者欄に『適当な名前を書いて』という運用が横行しているようですが、仮に、本当の加害者が訴えてきた場合、医師が『適当な名前を書くように指示した』ことが問題になると思います」

そもそも「配偶者の同意が必要」というだけでも国際社会から強く批判されているのが現状だ。女性の「産む権利」「産まない権利」に関わる重大な法律であるだけに、このままうやむやにするわけにはいかない。

同フォーラムでは母体保護法改正の要求も考慮に入れながら、次の対応を検討している。

  • 取材・文高橋ユキ

    傍聴人。フリーライター。『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』(晶文社)、『暴走老人・犯罪劇場』(洋泉社新書)、『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)、『木嶋佳苗劇場』(宝島社)、古くは『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』(新潮社)など殺人事件の取材や公判傍聴などを元にした著作多数。

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