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大袈裟太郎が見たアメリカ大統領選「本当の勝者」

民主主義にヒーローはいらない。大袈裟太郎が見たアメリカ。そして大統領選

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2016年、沖縄・高江の米軍基地反対運動に触れたことで、報道や社会に「伝わっていること」と、現場にある「事実」との大きなズレを感じ、マスメディアが取りこぼした情報を発信し記録するため沖縄に移住。以来4年、沖縄、日本、香港、韓国、台湾と取材を続けてきた私、大袈裟太郎(おおげさたろう)。

6月にBLMBlack lives matter)の発端となった、警官による黒人男性ジョージフロイド氏殺害現場のミネアポリスに入った後、ワシントンDC、シアトルと米国を巡った。途中、いきなり殴られたり、トランプ派から催涙スプレーを浴びたりもした。

対立ではなく対話を。アメリカ市民は「未来」を選んだ 撮影/大袈裟太郎

そして今回、大統領選挙を間近で、自分の目で見つめるために10月3日、再び米国ポートランドに入り、現在はフィラデルフィアにいる。

アメリカ大統領選挙は、現地時間の7日土曜日、バイデン候補がペンシルベニア州フィラデルフィアで当確を決め20人の選挙人を獲得、合計270人の過半数を超え、バイデン勝利で幕を閉じた。予想通りトランプ大統領は敗北を認めず法廷闘争に持ち込むが、すでに複数の州で裁判は退けられており、これももう現実的ではない。街の空気を感じればそれは、もうすでに「CRAZY(ばかばかしいもの)」だ。

ペンシルベニアの開票所前には投票日翌日の4日から「STOP THE COUNT (開票を止めろ)」を叫ぶトランプ支持者が集まっていた。それに呼応する形で「COUNT EVERY VOTE(すべての票を数えよ)」を旗印にする市民たちも集い、音楽をかけ踊り、チャントをしてポジティブに対抗した。僕がみたところ、後者がざっと10倍以上の人数で圧倒していた(ときに中指を立てながら)。

両者の間には大勢の制服警官が陣取って警備にあたるが、それでも一触即発の緊張感が漂う。

「COUNT EVERY VOTE 」を叫ぶ市民たちに話を聞いた

「すべての票を数えよ!と声を上げなきゃならないこと自体が変なんだ。異常なんだ。アメリカは民主主義国家。当たり前のことを叫ばなきゃいけないことが悲しい」

その通りだと思う。票を数えるなという人々と票を数えよという人々、民主主義がどちらの側にあるか。これは大人としての踏み絵のような場面だと感じた。

その頃、現場やSNS上で新たなミームが生まれていた。

Make America Normal Again」これはトランプが掲げてきた「Make America Great Again(偉大なるアメリカを取り返せ)」を皮肉るもので「普通のアメリカを取り戻そう」という、米国市民たちの今の気持ちがシンプルに反映されているものだ。

開票所前で踊る人々の傍に、皆が食べたピザの空箱が、身長くらいまで積み上がっていた。これを見たとき、バイデンへの「圧倒的な民意」を私は確信したし、ピザ箱の山は、民主主義を真っ当に機能させたいという彼らの心意気の象徴のように思えた。

先人たちが多くの犠牲とともに手に入れたこの民主主義を、もう一度、積み上げていくのだ。このピザの空箱のように。それは、楽しみながら他者と分かち合いながら、コミュニケートしながら前に進むという米国社会のポジティブさも体現していた。

5日には、この開票所を襲撃しようとした車両が警察に摘発され2名が逮捕、武器も押収された。現場は開票所から歩いてたった2分の場所で、その車両には「Qanon(Qアノン)」のステッカーが貼られていた。銃を構えた州兵が巡回し、あたりの物々しい状況は続いていた。

7日土曜日の昼。ペンシルベニア州でのバイデン勝利が確定した。街には祝福のクラクションが鳴り響き、路上には人が溢れた。紙吹雪が舞い、多くの人がシャンパンを空け、歓喜の声を上げた。そんな騒ぎの中、自転車でホームレスにマスクや医療品を無料配布している人々がいた。

野外でパーティをした若者たちも、余った酒や食べ物を帰り際にホームレスに渡していた。彼らのそういう部分を僕は信頼している。「社会」のためにできる些細なことを自然にこなす人々なのである。

「普通のアメリカ」が戻ってきた日曜日

当選を決めた翌日の8日、日曜日。開票所前にはまだ20名ほどのトランプ支持者がいたが、時々通るUBEREATSの自転車が中指を立てるぐらいで、市民たちはほぼ無視の姿勢になった。日曜で暖かいこともあって、人々は公園などでゆったりと家族や恋人、友人たちとの時間を楽しみながら、「NORMAL  AMERICA(普通のアメリカ)」を確認しているように見えた。

私はこの日、フィラデルフィア近郊の個人宅のパーティに招かれて、ランチをいただいた。

「昨日騒ぎすぎて今日はみんなスリーピー・ジョーだよ」

スリーピー・ハッピー・パーティ。選挙中、トランプがバイデンを「SLEEPY JOE(眠たいジョー)」と揶揄したことをアメリカンジョークにして彼らは笑っていた。

野外で、しっかりソーシャルディスタンスをとったパーティだった(米国では、すでに23万人が新型コロナで死亡しているのだ)。

トランプVSバイデンで、バイデンが勝った。もちろん表面的に見ればそれが事実かもしれない。しかし、勝ったのはバイデンでも民主党でもないと私は思う。勝ったのは、議会制民主主義を求める人々の気持ちである。ひとりの英雄や(誰かにとっての)カリスマが主役になり、すべての決定のイニシアチブを握る構造に米国社会は「NO」を突き付けたのだ。

大統領は主役ではなく、民が主役なのである。大統領は少し眠たいと揶揄されるぐらいカリスマ性のない存在のほうが良いのかもしれない。むしろ多様な意見の調整役として、分断を埋める脇役として、バイデンが選ばれたように思う。

あるポートランド在住の米国人は言った。「これは敵を選ぶ儀式です」「これでじっくり、民主党を批判できる」。今、多くの米国人のなかにこの感覚がある。女性初の副大統領となったカマラ・ハリスは言った。

「Democracy is not a state. It is an act(民主主義は状態でなく、行動なのです)

選挙は終わりではなく始まりなのだ

今、私は、日本の人たちにも声を大にして言いたい。ここアメリカ合衆国で、バイデンや民主党が素晴らしいと手放しで語る者は少ない。ここからまた、米国市民が権力を見つめ、民主主義を積み重ねていく。まるでピザの空箱を積み上げるように。

そう、大統領はその土台にすぎないのだ。市民の望まぬ存在となったとき、大統領は変えることができる。それが今回、米市民の得た成功体験なのだろう。そこに人々は歓喜しているのだ。人々はバイデンの勝利を祝っているのではない、民の勝利を祝っているのだ。

これまで4年間、フェイクニュースに抗ってきた私、大袈裟太郎/猪股東吾としては、現在、日本のリベラル派にまで浸透した大統領選不正選挙デマ(投票率が100%を越えたなど)に、現地との絶望的な解離を感じている。この背景には「トランプは戦争を起こしていない」という印象操作も根深い。

日本でなぜか蔓延する大統領選挙へのデマについては「日本のため」にも、本気の検証が必要である。

大袈裟太郎:1982年生まれ。本名、猪股東吾。リアルタイムドキュメンタリスト/現代記録作家。ラッパー、人力車夫。2016年高江の安倍昭恵騒動を機に沖縄へ移住。やまとんちゅという加害側の視点から高江、辺野古の取材を続け、オスプレイ墜落現場や籠池家ルポで「規制線の中から発信する男」と呼ばれる。 2019年は台湾、香港、韓国、沖縄と極東の最前線を巡り、「フェイクニュース」の時代にあらがう。

Twitter https://twitter.com/oogesatarou

  • 取材・文・撮影大袈裟太郎/猪股東吾

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