都構想廃案後、ひそかに高まる大阪維新「内部分裂」への懸念

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「個人的な考えですが、住民投票に負けたのは、ポジティブな数字を並べ、大阪市民の目をくらますような戦略に走ったことが大きな理由だと思います。多くのリベラル層が冷静に判断し、反対に流れてしまった。上層部はそれでも『この主張で押し通せ』の一点張り。古いタイプの一部の上層部の旗振りに、若手議員はついていけませんでした」(維新の会・市議会議員)

維新の会の念願であり、存在意義ですらあった大阪都構想が僅差で否決されて2週間が経つ。その間に、党代表である松井一郎代表が辞任と政界引退を発表。党内では早くもその総括を求める声と、不穏な動きが現れ始めている。

冒頭の議員はまず、敗北の原因を分析する。

局面を動かしたのが、毎日新聞が投票日の直前に出した『市4分割でコスト218億円増」という報道でした(注:行政サービスを実施するために毎年必要なコスト「基準財政需要額」の合計が、現在よりも約218億円増えることを市財政局の試算したことを毎日新聞が報じた。その後、同局の東山潔局長は試算を撤回)。これまで党が訴えてきた『都構想で数字が良くなる』という主張について、市民があの報道で疑問を持ち始めたのは間違いない。

党幹部らはあの報道に一斉に『ひどい報道だ!』と反発しましたが、そもそも私に言わせれば、党が打ち出していた数字はすべて良い面だけを切り取った非常に曖昧なものでした。

・10年間で最大約1・1兆円の歳出が削減できる。
・大阪都誕生による経済効果が1兆円ある

…など、ほとんどの数字がコロナ前に試算したもので、妥当性に欠けると思っていました。市役所の中でも、『いくら何でも無理がある』という声があったくらいですから。

だから議員の中には、維新の会の幹部に対して『住民にしっかりと説明すべきだ』『説明会も開いて、クリーンでクリアな内容にしないといけない』という声を挙げた人もいました。でも、全く取り合ってくれませんでした。ともに都構想推進で戦ってくれた公明党に関しても、『あいつらは信用できないから、行動を見張って逐一報告を入れろ』と、選挙活動そっちのけで行動監視を命令された議員もいた。

自分たちの都合が悪い議題になると、デマ、デマの一点で押し通す姿勢には呆れ返ってしまった。松井さんの責任というより、一部の老害とも呼べる幹部に責任があると思います

松井代表が政界引退発表したことで、党内は更なる混乱が生じている。長らく維新の会の構造的欠陥と指摘されてきた「中堅層の人材不足」が顕在化しつつあるからだ。さらに、都構想が否決されたことにより維新の人材流出が進む、という見方も強い。先出とは別の維新の会・市議会議員が続ける。

「都構想が否決され、党内はしばらくお通夜のような状況になりました。そこに追い打ちをかけるように松井さんが辞任を発表した。古株の議員や本部職員は、『党というよりは松井さんについていく』という人が多いんです。それぐらい、あの人への信頼は厚い。

その松井さんが辞意を表明したことで、既に市議や府議の中には離党して、他党に移ると言っている議員もかなりいますよ。

最大の問題は、党を引っ張っていける人材が、吉村知事以外は見当たらないことでしょう。党内で幹部候補と見られているのが、国政への出馬も表明している守島正議員、横山英幸議員くらいですから。ただ、リーダーシップを取るには若すぎる、という声も上がっています。

府議会の森和臣議員を全面に出す、という見方もありますが、いずれにしろパンチが弱い。次回の首長戦がある2年半の間に新しいカリスマを見つけられないと、大袈裟ではなく維新の会は空中分解してしまう可能性が出て来る」(維新の会・市議会議員)

空席となった党代表を決める代表戦が21日に開催される予定で、既に吉村知事も出馬の意向を固めている。しかし代表選に積極的な議員はおらず、吉村知事が出るなら勝ち目がない、とほとんどの議員が白旗を挙げている状況だという。今後は吉村知事を中心とした体制に移っていくことが濃厚な状況だ。

「松井代表というまとめ役がいなくなることで内輪もめが増え、幹部達の権力闘争が勃発していくとみています。『支持がまだ落ち切っていない今の段階で国政へ転身を』という議員も多く、公認権の奪い合いになってしまう。すでに地方も含めたほぼ全ての選挙区で候補者の選定は終わっていますが、つい先日も次回の解散総選挙を見越し、高槻市では池下卓議員と松浪健太議員がバチバチにやり合っていましたからね」(維新の会・府議会議員)

維新は都構想廃案からわずか1週間後には、「府と市の広域行政を一元化条例」と「総合区設置」制定を検討すると記者団に表明している。リトル都構想とも呼べるこの案は、簡単にいえば市を残したまま特別区ならぬ「総合区」を設置するというもので、議会では4つの特別区から8つの総合区移行へと向けた検討が進むと見られている。

記者会見では都構想再挑戦を否定した吉村知事だが、維新の会にとって悲願である都構想へのこだわりは捨てきれていないのだろうか。この会見は市民だけでなく、党内でも波紋を呼んでいる。

こうなってくると気になるのは、政界引退を表明した松井氏が院政を敷くような体制になるかどうかという点だが、維新の会のある幹部はその可能性を否定する。

「都構想が可決されれば、松井代表を国政へ送るという準備はしておりました。ただ、住民投票で負けた以上、本人が国政に出るというようなことはありえないでしょう。そもそも松井さんは大阪のことしか興味がない人で、近年は持病を患い体調面が優れなかった面もある。引退後はコメンテーターやメディア関係の仕事をこなしていくと思われます。

やしきたかじんさんに憧れており、強面でどことなく顔も似ている(笑)。ああいうタイプの人は、関西のテレビ局では需要が高いですから。ナニワのご意見番みたいな立ち位置につかれたいのだと思います」

一方で永田町周りでは、松井氏の国政進出を指摘する声はいまだ根強い。維新の会との連立を目論むとされてきた菅義偉総理の動きも気になるところだが……。

「松井氏が近畿の比例ブロックで出馬するのでは……という声は聞こえてきます。仮に自民党の議席が減ることになっても、維新が取るようであれば菅さんにとっては歓迎材料ですから。ただ、あれだけはっきり政界引退を発表した松井氏が国政進出となれば、双方への批判が噴出する可能性もある。慎重な判断が求められるだけに、あくまで水面下での動きになっているのでしょう」(自民党・国会議員)

都構想という共通の目標を失い、激震が走る維新の会。冒頭の維新の会市議会議員はこう嘆息する。

「結局、吉村さんを中心に若手が結束して、都構想の敗北の原因を分析し、膿を出しきる。そして今のベテラン勢がすべてを取り仕切っている状況を変えていかないと3年後には維新はもたない…それぐらいの強い危機感を持っています」

都構想否決を契機に先行きの見えなくなった維新の動向は、市政にどのような影響を及ぼすのだろうか。吉村知事の手腕に注目が集まっている。

  • 取材・文栗岡史明

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