ヤバさ120%の怪作『ばるぼら』で稲垣吾郎が魅せる「狂的な美」 | FRIDAYデジタル

ヤバさ120%の怪作『ばるぼら』で稲垣吾郎が魅せる「狂的な美」

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FRIDAYデジタルでは、新作が連続公開&配信される「新しい地図」の稲垣吾郎、草彅剛、香取慎吾の俳優としての魅力に迫る不定期連載を展開中。

総論&草彅編&香取編に続き、最後は稲垣個人にフォーカス。11月20日に劇場公開を迎える主演映画『ばるぼら』を中心に、彼が魅せる「狂的な美」をご紹介する。

『ばるぼら』2020 年 11 ⽉ 20 ⽇(⾦)よりシネマート新宿、ユーロスペースほか全国公開 ©2019『ばるぼら』製作委員会
『ばるぼら』2020 年 11 ⽉ 20 ⽇(⾦)よりシネマート新宿、ユーロスペースほか全国公開 ©2019『ばるぼら』製作委員会

本シリーズでは、これまで香取慎吾の主演ドラマ『誰かが、見ている』、草彅剛の主演映画『ミッドナイトスワン』を紹介してきた。トリを飾るのは、稲垣吾郎二階堂ふみが共演した手塚眞監督作『ばるぼら』だ。

手塚治虫による同名漫画を、息子である手塚眞が映画化した本作は、一言でいうなら「悪魔主義的な怪作」。売れっ子ながら満たされず、退廃的な生活を送る小説家・美倉洋介(稲垣)が、ある日路上で出会った女性・ばるぼら(二階堂)。美倉は彼女の虜となり、救われもするが、同時に壊れてもいく――。

というのが物語の大筋だが、明快なストーリーが展開していくわけではない。むしろ真逆の、奇妙で奇抜なシーンが重層的に連なった実験的な一作といえる。

日本・ドイツ・イギリスの共同製作である『ばるぼら』は、手塚監督自身が編集も手掛けており、筋を追おうとする観客を翻弄し、あざ笑うようなエキセントリックな内容となっている。さらに、『恋する惑星』(1994年)や『花様年華』(2000年)を手掛けた巨匠ウォン・カーウァイの右腕でもある撮影監督クリストファー・ドイルが映し出す、虚構と現実が入り混じった世界観は、観る者を混乱させるだろう。

小難しい言葉を並べてしまったが、要は得体のしれない新味のものを食べさせられ、「な、なんだこれは!?」と感覚がマヒするような、120%ヤバい映画なのだ(つい先日、SF、ファンタジー、ホラー映画に特化したイタリアの映画祭「ファンタ・フェスティバル」の第40回において、最優秀作品賞を受賞)。

©2019『ばるぼら』製作委員会
©2019『ばるぼら』製作委員会

稲垣自身も、美倉役として過激なシーンに次々と挑戦。ばるぼらをはじめとする幾多の女性との濃厚なラブシーンを見せたかと思えば(二階堂ふみとの体当たりのベッドシーンは見もの)、謎の教団の集会に全裸で参加し、ふらふらと路地をさまよい、酔っぱらいに殴られ、マネキンや犬に妄想を抱き……と、強烈なシーンのオンパレードだ。

それでいて、稲垣特有の、内側から発光するような上品さが損なわれていないから、恐れ入る。むしろ、狂気に染まれば染まるほどに、美しさがギラギラと際立っていく印象だ。

そう、思えば稲垣吾郎という役者は、これまでにもぶっ飛んだ役柄で異彩を放ってきた。暴君・松平斉韶に扮した三池崇史監督版『十三人の刺客』(2010年)での怪演を、いまだ鮮烈に覚えている方も多いだろう。

この映画では、人をいたぶり、凌辱し、あげくなぶり殺すのが趣味という悪鬼のような男を全身全霊で演じ切った。至近距離で人に矢を放ち、気に入った人妻を強引に襲い、夫も殺害(演じているのはブレイク前の斎藤工)。目の前で人が死ぬときゃっきゃと声をあげて笑い、役所広司演じる“十三人の刺客”のリーダーとの一騎打ちの際には、「今日はいままでで最も楽しい」と満足げな吐息を漏らす。完全なサイコパスに扮し、観る者の度肝を抜いた。

もっとさかのぼれば、1997年に放送されたスペシャルドラマ『踊る大捜査線 歳末特別警戒スペシャル』で演じた立てこもり犯・鏡恭一も、クレイジーなキャラクターであった。薬物常習者であり、クスリが切れるとブチ切れ、猟銃を片手に湾岸署を占拠。目をひんむき、ハイテンションに叫びまくる姿は、お茶の間に衝撃を与えたことだろう。レザージャケットにサングラス、アクセサリーで固め、髪形に異常なこだわりを見せるなど、ビジュアル面でもトガッていた。

2019年に公開された映画『半世界』は、異常性こそないものの、稲垣のスター性を知る者からすれば、こちらもかなり異端なキャラクター。地元でくすぶったまま年を重ねた炭焼き職人で、仕事にも情熱を見出せず、家庭もぎくしゃくしたまま。妻と抱き合っていたところ、酔っぱらった幼なじみがやってきたときには「いまから、セックスなんだよ……」とモゴモゴつぶやく。可笑しいやら、カッコ悪いやら、稲垣吾郎がこんな役を演じる驚きやらで、こちらも意外性は抜群だったのではないか。

©2019『ばるぼら』製作委員会
©2019『ばるぼら』製作委員会

この3本だけをみても、自らの端正なルックスを封印する、或いは善ではなく悪の方向に逆利用する役柄を好む稲垣のセンスや、クールなイメージに反逆するかのごとく目をかっと見開く演技、スイッチが切り替わったようにガッと火が付く感情の瞬間沸騰(ボルテージの上げ下げが迅速で、かつ的確だ)等々、彼の非凡な才能が感じられるが、『ばるぼら』で改めて証明したのは、稲垣吾郎という役者が狂気の中でこそ、光り輝くという事実ではないか。

しかも、『十三人の刺客』や『踊る大捜査線 歳末特別警戒スペシャル』に関しては、元から狂気に染まっていたキャラクターであったが、今回は売れっ子作家が、徐々に狂気に堕ちていく役どころ。これまで以上に人物の“変化”、そのグラデーションが必要となるポジションであり、作品のカラー的に、稲垣の演技に説得力がなければ観客を置いてけぼりにする危険性もはらんでいる。

かなりの難役であったわけだが、キャリアを重ねた稲垣は、自らの嗜好性に円熟の演技を重ね、彼以外には考えられないようなハマり役にまで昇華した。そもそも、稲垣が長い芸能生活の中で培ってきたであろう芸術に対する知識や感性、審美眼が、本作で演じた作家という役どころと絶妙にマッチしている部分も、重要だ。彼自身の歩みが、そのまま美倉の役作りにつながっているといっていい。そのうえで、演者としての力量を見せつけている。

厭世的な態度で周囲に毒を吐いても、美女との快楽におぼれても、全裸で逃げまどっても、傷だらけで地べたを這いつくばっても、『ばるぼら』での稲垣は神々しいまでに美しい。来月、47歳の誕生日を迎える彼だが、今後も“狂美”の世界に誘(いざな)ってほしいものだ。堕ちる覚悟は、とうにできている。

『ばるぼら』
2020 年 11 ⽉ 20 ⽇(⾦)よりシネマート新宿、ユーロスペースほか全国公開
出演:稲垣吾郎 ⼆階堂ふみ
渋川清彦 ⽯橋静河 美波 ⼤⾕亮介 ⽚⼭萌美 ISSAY / 渡辺えり
監督・編集:⼿塚眞 原作:⼿塚治⾍ 脚本:⿊沢久⼦
撮影監督:クリストファー・ドイル / 蔡⾼⽐
制作プロダクション:ザフール
配給:イオンエンターテイメント 宣伝:フリーストーン
スペック:2019 年/⽇本・ドイツ・イギリス/100 分/カラー/アメリカン・ビスタ/5.1ch/R15+
公式 HP: https://barbara-themovie.com

映画『ばるぼら』フォトギャラリー

©2019『ばるぼら』製作委員会
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  • SYO

    映画ライター。1987年福井県生。東京学芸大学にて映像・演劇表現について学ぶ。大学卒業後、映画雑誌の編集プロダクション勤務を経て映画ライターへ。現在まで、インタビュー、レビュー記事、ニュース記事、コラム、イベントレポート、推薦コメント等幅広く手がける。

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