次の流行は「あの定番素材」…?二極化するスイーツの行方

平成から令和の「スイーツブーム」はこうして生まれた

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マスカルポーネチーズの豊かな香りとほろ苦いコーヒー味が新鮮だったティラミスは、イタリアンのデザートから広がった 写真:AFP/アフロ

「いまや定番のスイーツ、ティラミスの流行はすごかったですね」

さまざまなスイーツが流行した平成。そのブームは令和も続き、とどまるところを知らない。生活史研究家の阿古真理さんによると、食ブームの背景には、女性たちの生き方の変化も大きく影響しているのだとか。阿古さんに聞いた。

ティラミスブームの呼び水になったのは

ティラミスの爆発的なブームは、平成2年(1990)、雑誌『Hanako』で特集されたことがきっかけだった。しかし、ブームとなる下地はその前から作られていたと言う。

1970年代の終わりごろから、フランスのヌーベル・キュイジーヌのお店で修行してきたシェフたちが帰国して、『クイーン・アリス』『シェ・イノ』をはじめとして、人気店がつぎつぎ生まれました。それをハイソなミセス雑誌『家庭画報』などが紹介し、大人の女性が、女性だけでレストランに食事に行くようになりました。それまで、女性だけで外食するというカルチャーはあまりなかったんです。

まだバブルの前でしたが、東京から伊勢志摩まで食事に行くようなグルメの流行を作りだした女性グループの登場です。このころ、イタリアからもヌーボー・クッチーナを学んだシェフたちが帰国してきて、東京でイタリアンレストランを開くようになりました。そんな『イタメシ』ブームからティラミスが登場したんです」

ティラミスブームの5年ほど前、1985年に男女雇用機会均等法が制定され、翌86年に施行された。働く女性も増え、自由になるお金をもてるようになった。そんなときに登場したのがティラミスだったのだ。

「そのころ私は神戸に住んでいて就職活動中だったのですが、OB訪問した先輩にティラミスをご馳走していただき、『これがあのティラミス!』と感動したのを覚えています。『Hanako』で特集された2か月でしたね」

スイーツ人気を拡散するものは

ティラミスを皮切りに、その後クレーム・ブリュレ、ナタ・デ・ココ、ベルギーワッフル、パンケーキと、さまざまなスイーツが「ブーム」になった。

「ティラミス人気がきっかけで盛り上がった外食、スイーツ業界。メディアは新しいスイーツを発掘しようとするし、メーカーや流通も仕掛けようとする。消費者は消費者で、『次は何?』『次は何?』と待ち構えている。それまで関西では行列には『食べ物に並ぶ』という文化はあまりなかったのですが、流行にのるのが楽しくなってくる。今では関西でも、よく行列を見かけます。

『東京ウォーカー』など情報誌が次々創刊され、2002年には『メトロミニッツ』のようなフリーペーパーが盛んに出るようになりました。その後インターネットの影響力も大きくなり、1996年には『ぐるなび』、2005年には『食べログ』のサービスが始まります。2008年にスマートフォンが登場して、日本全国一斉に情報が広がるようになります。そして2017年には新語流行語大賞に『インスタ映え』という言葉が選ばれるなど、見た目が華やかなスイーツを女性たちが競ってインスタグラムにアップし、美しいかき氷などが、あっという間に拡散しました」

そんななかブレイクしたのがタピオカドリンク。水玉模様に見える見た目の可愛らしさとクニュクニュした食感が、女子だけでなく多くの人の心をわしづかみにした。

台湾のカフェ「春水堂」が発祥のタピオカミルクティー。林立していたショップは淘汰され、おいしいお店が残った 写真:西村尚己/アフロ

それにしても、どうしてタピオカドリンクがこんなに人気を集めたのだろう。

「ベースのお茶がおいしかったこと。どんなに見映えがよくても、おいしくなければ流行しません。だからブームが落ち着いた今、おいしいお店だけが残ってますよね。やはり『おいしい』がいちばん大切です(笑)」

スイーツ界「二極化」のゆくえ

令和に知名度を上げたバスクチーズケーキ。きっかけは2018年に東京・白金に専門店「ガスタ」がオープンしたこと。その後ファミレスやコンビニにも広がり、一気に火がついた。

「コロナ禍の現在、お取り寄せが増えていますよね。お取り寄せしやすいスイーツということもあって、バスクはじめチーズケーキ全般に人気ですね」

カルチャーは、大きな流行になると流行が去ったあと忘れられてしまうことも多い。けれどもスイーツは、ブームのあとも消えることなく「定番」として定着していく。スイーツの選択肢は増えるばかり…。

「でもね、スイーツ界もけっこう厳しいと思うんです。子どもの数が減って、集まってケーキをふるまうということが少なくなりました。郊外のケーキ店は経営が難しくなっているところも多い。コンビニが次々に新しい商品を出すこともあって、そのなかでどうやって生き残っていくのか、専門店は戦々恐々としています。

だから、スイーツはますます二極化していくと思います。どこでも手軽に楽しめるコンビニスイーツと、ハイセンスで高級な専門店のスイーツ。中間にあるいわゆる『普通の街のケーキ屋さん」は、地域に根付き、定番のスイーツを守りつつ新商品の開発など努力して生き残っていくことになるでしょう」

英王室ロイヤルウエディングケーキは、たっぷりのバタークリームにバラの生花をあしらった美しい「作品」。東ロンドンにある「Violet Bakery(バイオレット・ベーカリー)」が製作した。600人のゲストが味わったケーキの値段は、£50000(約750万円)。ハリー王子とメーガン妃が選んだこのバタークリームケーキに、世界中のスイーツファンが注目した。日本でも次のブームが期待される

令和の今、流行しそうなスイーツはなんでしょう。

「キーワードは『バター』ですね。フランスのエシレなど輸入のものに加え、国産バターの小さなメーカーも増えました。バターのクオリティはどんどん上がってます。昭和のイメージで一時不人気だったバタークリームは格段においしくなって、バタークリームのケーキを扱うお店はとても人気です。おいしいバターをふんだんに使った焼き菓子は種類も豊富。『バター系スイーツ』に注目しています」

阿古真理:1968年生まれ。作家・生活史研究家。兵庫県出身。食や暮らし、女性の生き方などをテーマに執筆。著書は『何が食べたいの、日本人? 平成・令和食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル新書)、『パクチーとアジア飯』(中央公論新社)、『昭和の洋食 平成のカフェ飯: 家庭料理の80年 』(ちくま文庫)、『なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか パンと日本人の150年』(NHK出版)、『小林カツ代と栗原はるみ―料理研究家とその時代―』(新潮社)など多数。

  • 取材・文中川いづみ写真西村尚己、代表撮影/ロイター/アフロ

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