「マスターズ初制覇」日本の中継で映らなかったジョンソン涙の理由

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前年の優勝者がグリーンジャケットを着せる「儀式」。昨年、タイガーウッズに1打差で涙を飲んだダスティン・ジョンソンは笑顔(写真:アフロ)

新型コロナウイルスの影響で7ヶ月遅れの開催となった「マスターズ」。招待資格を満たした名手(マスター)しか出られない“ゴルフの祭典”は11月開催も史上初なら、無観客開催も初めて。そんな異例の大会で優勝したのは世界ランク1位のダスティン・ジョンソンだった。

「優勝した今でもまだ夢を見ているようだ。子供の頃からマスターズで優勝するのが夢だったが、タイガー(ウッズ)がグリーンジャケットを着せてくれるなんて、本当に夢のようだ。そんな優勝を弟(キャディ)と一緒に経験できて、信じられないくらい嬉しい。彼と思い出を共有できるのは本当にすばらしい!」

最終日、2位のキャメロン・スミス、イム・ソンジェに5打差をつけて臨んだ18番ホール。2打目を難なくグリーンに乗せると、2パットのパーで優勝を決めた。うっすら笑顔を浮かべて軽くガッツポーズすると、彼は弟オースティンの元に歩み寄り、ハグで互いの健闘を称え合った。その時すでに弟は、感極まって涙ぐんでおり、それにつられてダスティンも目頭が熱くなった。

子供の頃から「このパットが決まれば、このアプローチでチップインさせれば、マスターズ優勝だ!」―――そんなことを想像しながら日々練習をしていたダスティン少年。そしてそんな兄の姿を見て育った弟。その頃の記憶が18番グリーン上で蘇り、思わず込み上げるものがあったのだろう。彼らの生まれ育った自宅は、オーガスタから車で約1時間のサウスカロライナ州コロンビアにあったが、「マスターズ」は最も身近なメジャーであり、ダスティンが最も勝ちたい試合だった。

彼が今回「マスターズ」で優勝するまでの道のりは、決して容易なものではなかった。

今から3年前、彼は大会直前の水曜日の午後、オーガスタで借りていた家の階段で足を滑らせ転倒。体の左サイドを強く打ち「マスターズ」を棄権した。

「こんな状態ではプレーできそうにない。なんてことだ。今がゴルフ人生で最高にいいプレーができているのに」

2017年に入り、「ジェネシスオープン」、「WGCメキシコ選手権」、「WGCデルテクノロジーズ・マッチプレー」と2ヶ月で3勝を挙げていた世界ランク1位の彼は、人生最高と言えるほど絶好調。優勝候補の筆頭格で「マスターズ」に臨むはずだった。しかし、不幸にも思いがけないアクシデントに見舞われ、オーガスタでの優勝は持ち越しとなった。

米国のテレビ向けのインタビューで放映され、日本のゴルフファンは見ることができなかったジョンソンの涙のシーン(写真:アフロ)

そして昨年はタイガー・ウッズとの優勝争いの末、1打差で敗れ2位に甘んじた。今年はコロナの影響で大会は11月に延期されたが、6月のPGAツアー再開後に3勝を挙げ、8月の「全米プロ」では2位タイ、9月の「全米オープン」では6位タイに入る活躍を見せていた。フェデックスカップでも総合優勝。プレーヤー・オブ・ザ・イヤーにも選ばれ、「マスターズ」に向けて3年前の好調ぶりを再び取り戻し、順調にことが進んでいるかのように見えた。

しかし、10月にはコロナウイルスに感染という衝撃のニュース。2週間に渡ってラスベガスのホテル内で自主隔離を余儀なくされた。その間、一歩も外出できなかった彼はゴルフの練習もほとんどできず、部屋の中でひたすら大人しくやり過ごすだけの日々を送っていたのだった。

そしてようやく先週の「ビビント・ヒューストンオープン」でツアーに復帰し2位に入賞。最初は本調子ではなかったが、調整がうまくいき、練習を重ねて感覚を取り戻した結果、「マスターズ」でも初日に65をマーク。ショットもパットも噛み合い、「何をやってもうまくいく気がする。とても自信がある」と記者会見で語るほど自信を回復させていた。

「何度もメジャーで優勝争いをしてきたが、自分の中で本当に勝てるのか?と疑いの気持ちがあった。でも、今回はこうして優勝できることを自分自身に証明できたし、今後もメジャーで優勝できると思う」

「子供の頃からの夢が叶って嬉しい」―――優勝直後のインタビューで話し始めると、その後珍しく言葉を詰まらせ、涙を流した。滅多に感情を表に出さない冷静なダスティンが見せた、人間味あふれる瞬間。

このシーンは米国のテレビ向けのインタビューで放映されたため、残念ながら日本のゴルフファンはこの映像をマスターズ中継内で見ることができなかったが、もしこのシーンをインターネットで検索し、動画で見ることができるなら、チェックしてみてほしい。今年のマスターズが、さらに感動的なものになるはずだ。

「コースでは自分の感情をとてもよくコントロールできていると思うけど、あのとき(インタビューの時)はもう試合は終わっていたからね(苦笑)。この優勝は僕の家族にとってとても大きなこと。僕がいつもマスターズ優勝を夢見て、一生懸命練習しているのをポーリナも子供達も知っている。やっと夢が叶ったから、思わず感情的になってしまったよ」

過去メジャーで何度も優勝争いを繰り返してきたが、スコア誤記やショートパットのミスなどで目の前の大魚を逃し続けてきたダスティン・ジョンソン。念願のマスターズでついにメジャー2勝目を飾ったが、今後「全米プロ」や「全英オープン」でも優勝を重ね、次はグランドスラム達成という偉業に挑んでほしい。

勝った瞬間、弟・オースティンとハグ。オースティンの方が先に感極まっていた(写真:アフロ)
パートナーのポーリーナ・グレツキーとも喜びを分かち合った(写真:アフロ)
  • 取材・文大泉英子

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