「菌の専門家」が推測する、ドラえもんが充電ナシで動ける仕組み

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夢のサステイナブルバイオテクノロジー”の結晶が「ドラえもん」!?

ロボットなのに、ドラえもんが充電してるシーンは見たことがない。「漫画だからね」と片付けてはいけない。“発電菌”を使えば、ドラえもんのように食事をして動く“ガスト(胃)ロボット”は実現可能らしい。この微生物発電を研究している東京薬科大学応用生命科学科教授の渡邉一哉氏に聞く。 

「ドラえもん」は、なぜ充電しなくても動いていられるのか? それは、「ドラえもん」が、SDGs“夢のサステイナブルバイオテクノロジー”の結晶がだから!?(写真:アフロ)

食べたものから電子が生まれ、エネルギーに。人間も、ドラえもんも基本は同じ!? 

ロボットなのにどら焼きが好物。食べたものをエネルギーにして動くネコ型ロボット、ドラえもん。22世紀からやってきたという設定だが、そのころには本当に食べ物を食べて動くロボットができるかもしれないと言うのは、東京薬科大学教授の渡邊一哉氏。

「人間は酸素を吸って、食べ物をエネルギーに変えて生きています。食べ物(有機物)を分解する際には、酸化反応で電子が発生します。細胞の中に取り込まれた酸素が、その電子を受け取って水になります。この電子の放出・受け取りが“発電”と同じような仕組みなのです」(渡邊一哉氏 以下同) 

電子が流れて体が動く。もしかしたら、人間の体もドラえもんと同じ?

「我々の細胞の中のミトコンドリアには電子を流すタンパク質が並んでいて、有機物が分解されると、電子が流れ、エネルギーを蓄える物質が合成されて、運動などに利用されるんです」

腸内や環境中で有機物を分解するために重要な役割を果たしているのが微生物だが、

「酸素がないとき微生物は、発酵など別の代謝をして有機物を分解するようになります。糖を分解して乳酸を作る乳酸発酵は、その一つです」

土の中にも微生物がたくさん住んでいるが、酸素がないので、発酵のような状態で生きていると言う。

「そういう過酷な状況で生きている微生物の中には、電極を入れて、電子が流れるようにすると、どんどん増えるものがある。それが『発電菌』と言われるものです」 

「田んぼ発電」の様子。現在の技術は、稲一株で数ミリワットの発電が可能だと言う。「サステイナブルバイオテクノロジー」、それは生物の力をSDGsの実現に役立てていくことだ

「田んぼ」で発電! 「下水処理場」で、水を浄化しながら発電も可能!?

土の中には1gにつき1億匹以上の微生物がいると言われる。この中には未知の発電菌も無数にいると考えられている。これらの発電菌を使って発電しようと渡邊氏が行っているのが、「田んぼ発電」だ。

稲1株の周りに電極を埋め、稲の根から出てきた有機物を食べて発電菌が出した電子を電極に集める。現在、稲一株で数ミリワットの発電が可能だと言う。

「稲1株で発電できるのはわずかですが、田んぼの水温を測るセンサーは数ミリワットあれば十分。そこで測った温度を農家のパソコンに飛ばして温度管理に役立てることはできます」

微生物を使った発電システムはもうできているのだ。それなら、活躍の場は広そうだ。家庭からだって生ゴミは出る。それを使えば電気代はタダに?

「家庭からは生ゴミやトイレや風呂などの生活排水として有機物が排出されますが、その量は発電には十分ではありません。エネルギー効率が50%だとして計算すると、1日にその家庭が必要とする電力量の10分の1ぐらいにしかならない。マンションのような集合住宅で生ごみを集めたら、パブリックスペースの電気がまかなえるかもしれない。そのくらいのイメージです」

ならば下水処理場はどうか。 

「実は微生物がいちばん活躍しているのが下水処理場なんです。巨大な微生物タンクに下水を流し入れると、そこにいる微生物が有機物を食べて水をきれいにしてくれる」 

だったら、そこに電極を入れれば発電できるのでは?

「そうなんです。もともとはそれが目的で研究を始めたのですが、下水の中には雨水も含まれていて、有機物濃度がそれほど高くない。加えて発電装置の費用が高くて、なかなか導入に至らないんです」

では、食品工場は?

「可能性はあると思います。毎日生ゴミがたくさん出ますし、それを処理するための費用もバカにならない。けれど、やはり費用がネックになって、なかなか実現できません」 

菅義偉首相は所信表明演説で、国内の温暖化ガスの排出を2050年までに「実質ゼロ」とする方針を表明した(写真:アフロ)

菅首相の「2050年カーボンニュートラル宣言」も微生物のチカラで実現可能!?

微生物から直接発電させる技術は開発途上だが、実はすでに微生物を使って発電するシステムもある。メタン生成菌を使って、生ゴミなどからメタンガスを作り、それを燃やして発電に利用する嫌気消化システムだ。すでに実用化している企業もあり、酒造企業の中には、売電するほどのところもあると言う。

「微生物の中には次世代のクリーンエネルギーと言われている水素を作るものもあります。微生物が代謝する過程で、電子が出てきたり、メタンガスや水素が出てきたりする。微生物を使ったエネルギーを普及させることは、持続可能な社会を作るうえで、とても大きな役割を担うと思います」

地球温暖化、プラスチックゴミなど、今さまざまな問題に直面している。

「環境問題の原因は、人類が地下資源に依存しているからなんです。今はエネルギーだけではなく、洋服もプラスチック製品も石油で作られている。石油がなくなったら、こういうものは作れなくなるかもしれない。 

理想の社会は、地表でものが循環している社会だと思うんです。バイオテクノロジーを使って高機能な繊維を作る植物を開発したり、廃棄物を利用してエネルギーを作ったり。地表で生産されるバイオマスがうまく循環利用できるようになれば、豊かで安定した社会が持続できると思います」

微生物を利用してメタンガスを作る技術も素晴らしいが、メタンガスから電気を作るには、「燃やす」というプロセスが必要になる。微生物電気なら、余計なプロセスは必要ない。

「有機物を10倍さらに100倍の速さで食べて発電するようなスーパー発電菌を見つけたら、コストの問題も解決するかもしれない。ドラえもんのような食べ物をエネルギー源とするロボットが登場するのは、思ったより時間がかかりそうです。けれど、微生物発電の研究を進めて行けば、将来的には我々の生活に役立ってくれるんじゃないかと思います」

発電菌の一つに”シュワネラ菌”というものがある。今はバイオプラスチックの原料が作れるのではないかと注目を集めていると言う。

「日本のように人口密度が高いところでは廃棄物がたくさん出る。そういうものをうまく循環利用する技術が必要になるのは間違いない。社会がその方向に早く進めばいいなと思います」

さて、ドラえもんが生まれた22世紀には、どれだけのことが実現化されているのだろうか?

 

渡邊一哉 東京工業大学理学部卒業。東燃株式会社、海洋バイオテクノロジー研究所(微生物利用領域長)、JST ERATO橋本光エネルギー変換システムプロジェクト(微生物グループリーダー)、東京大学先端科学技術研究センター(特任准教授)を経て、2011年5月から東京薬科大学生命科学部生命エネルギー工学研究室教授。

  • 取材・文中川いづみ

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