お金持ち“刀剣女子”狙い ふるさと納税に「真剣」登場の舞台裏 | FRIDAYデジタル

お金持ち“刀剣女子”狙い ふるさと納税に「真剣」登場の舞台裏 

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開始から12年が経って、すっかり年末の風物詩として定着した「ふるさと納税」。

提唱者の菅さんが、いまや総理大臣なんですから、ますます盛んになっていくことでしょう。最初の頃と違って、毎年のこととなれば、私たちも手慣れたもの。「ふるさと納税ポータルサイト」はどんどん使いやすくなるし、地方自治体も様々なアイデアを繰り出してきます。

そんな中、今年「刃物の町」岐阜県関市からは、返礼品として「真剣」が出品されてきました。「真剣」と書いて〝マジ〟と読む…ってことじゃなくて、正真正銘の日本刀。手続きしないで所持していると、銃刀法違反で逮捕されちゃう、リアル殺傷力のある刀です。

もちろん、納品の際には登録証(銃砲刀剣類登録証)を揃えてくれるそうなので、ご安心ください。寄付金額もすごいです! 300万円なり。

「ふるさとチョイス限定品」岐阜県関市 日本刀土方歳三拵
「ふるさとチョイス限定品」岐阜県関市 日本刀土方歳三拵

値段もさることながら、私がついつい目を止めてしまったのは、その品目名です。「日本刀(真剣) 土方歳三拵」。説明書きによれば、<「土方歳三最期の佩刀」として現存している、和泉守兼定の金具、外装を写した拵となります>だそうです。

返礼品・土方歳三拵の金具。鍔(つば)は七夕意匠で短冊が彫られている
返礼品・土方歳三拵の金具。鍔(つば)は七夕意匠で短冊が彫られている

和泉守兼定! ここでピンと来たあなたは、もしや〝さにわ〟さんですか?

ここ数年、日本の美術館では、ちょっと変わった現象が続いていました。どちらかというと、日陰の身だった日本刀がにわかに脚光を浴び、次々と展覧会が開かれるように。私も、徳川美術館(愛知県)に行った折、陳列している刀の展示ガラスにおでこをくっつけ、食い入るように見入っている女性を目撃したことがありました。

「いったい何だろう?」と思ってからほどなく、彼女たちがゲーム『刀剣乱舞』の愛好家だということを知ったのです。

一応、説明しておきますと、このゲームのプレーヤーは、「審神者(さにわ)」といい、戦士に姿を変えた刀剣の付喪神(つくもがみ)である「刀剣男士」を率いて敵と戦うという設定です。ゲーム中に出てくるイケメンたちは、刀の化身なわけですね。

オンラインゲーム『刀剣乱舞』トップページ。刀剣男士たちは、マッチョ系から王子様まで、さまざまなタイプが設定されています
オンラインゲーム『刀剣乱舞』トップページ。刀剣男士たちは、マッチョ系から王子様まで、さまざまなタイプが設定されています

『刀剣乱舞』のオンライン登録者数は、現在210万人以上。その中でも熱烈な愛好者たちは、ゲームのプレーに飽き足らず、刀剣男士のモデルとなった現存する日本刀の来歴を調べ、展示があれば実物を一目見るため全国各地に足を運んでいます。彼女たちの熱意によって、一般公開されていなかった刀が期間限定で展示されることも増えています。

それどころか、昨年には「創建2677年 石切劔箭神社 『刀剣奉納』プロジェクト」で「太刀石切丸」の復元刀奉納を募ったクラウドファンディングが4時間で目標額の1000万円に達し、最終的には目標額の8倍、8000万円近くも集まっているのです。刀剣女子の皆さん、お金持ちなんですね……。お金持ちというより、好きなものにはとことん打ち込んじゃうオタク体質?

そして、行きつくところまでいけば、「本物が欲しい!」という心理になるのも、まぁ当然なのかもしれません。

そこで登場してきたのが、冒頭の関市のふるさと納税、というわけです。

ふるさと納税返礼品、土方歳三佩刀だった「和泉守兼定」は、『刀剣乱舞』の刀剣男士としてはこんな感じ (出典:DMMオンライン『刀剣乱舞』)
ふるさと納税返礼品、土方歳三佩刀だった「和泉守兼定」は、『刀剣乱舞』の刀剣男士としてはこんな感じ (出典:DMMオンライン『刀剣乱舞』)

出品者である岐阜県関市のふるさと納税担当者に聞いてみました。

「関市は刃物製品出荷額1位という『日本一の刃物のまち』。包丁、爪切り、ナイフなどいろいろな製品を製造していまして、そんな関市を皆さまに知っていただきたいと考えています。その一環として、今回の真剣も出品しました。

『刀剣乱舞』がヒットして以来、当市の『刀鍛冶伝承館』の入場者数は1.5倍になりましたし、模造刀(刃がついておらず切れない刀)を含む日本刀関連の返礼品の寄付額は、今年4ー8月期では前年同月比で4.5倍とまだまだ拡大しています」

関市で日本刀関連の返礼品を手掛けている業者の方にも聞きました。今回出品した「真剣」を手掛けている濃州堂さんは、こう話します。

「ふるさと納税での真剣出品は〝誰でも所持できる〟とアピールすることで、これまでにない新規需要を見込んでのことです。寄付額が高額になっている理由は、古来より続く伝統的な技法で、刀身から外装まですべて職人による手作りだから。今後、護り刀(短刀の真剣)も出品する予定でいます」

刀剣女子は、まさに新規需要分野として打ってつけの存在。関市では模造刀の返礼品も多数出品しており、そのラインナップには当然ながら『刀剣乱舞』で人気の作品が含まれています。たとえば、「鯰尾藤四郎」の模造刀は11万7000円と、真剣にくらべればだいぶお手頃。

「模擬刀 鯰尾藤四郎写 鵜首造り 小刀拵」
「模擬刀 鯰尾藤四郎写 鵜首造り 小刀拵」
『刀剣乱舞』での鯰尾藤四郎。和泉守兼定とはだいぶキャラが違います(出典:DMMオンライン『刀剣乱舞』)
『刀剣乱舞』での鯰尾藤四郎。和泉守兼定とはだいぶキャラが違います(出典:DMMオンライン『刀剣乱舞』)

こちらを手掛ける村山刀剣さんは「和泉守兼定はかねてから人気でしたが、鯰尾藤四郎は、『刀剣乱舞』を意識して作りました」と、きっぱり。

なんでも3年ぐらい前から特定の刀匠写しの商品の受注が急増。不思議に思って調べたところ、そこで『刀剣乱舞』の影響力に気がついたそうです。ある通販の企画では問い合わせの7割が女性だったこともあるとか。

こうした自治体は、じつは関市に限りません。たとえば新潟県魚沼市は、資料を基に刀身をコンピューター設計し、切削加工機(マシニングセンター)で削り出すという最先端技術を使った「精密日本刀」(模造刀)を出品。そのラインナップには「山姥切国広」(ミニレプリカ 33万円)、「へし切長谷部」(同 32万円)など、これまた刀剣乱舞でも人気の高い「主演級キャラ」が並びます。

「要望があれば銘入れやご希望の刀身、外装へのカスタマイズも可能です」(濃州堂)、「『刀剣乱舞』を意識した商品の拡充と日本刀の構造が学べるような返礼品を考えています」(村山刀剣)と、関市の業者も口をそろえます。

ふるさと納税も世の中のトレンドに敏感なことが求められている昨今。『鬼滅の刃』の「日輪刀」が登場するのも、遠いことではなさそうですね。

  • 取材・文花房麗子

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