50代と80代の母娘がホームから飛び込み…悲痛な自死の背景 | FRIDAYデジタル

50代と80代の母娘がホームから飛び込み…悲痛な自死の背景

土曜日23時07分。小田急線玉川学園前駅で起きたこと

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11月28日土曜日23時10分ごろ、東京町田市にある小田急線「玉川学園前」駅で人身事故があった。週末の深夜、駅のホームから線路に踏み出したのは、50代と80代の女性。ふたりは親子だった。

玉川学園前駅のホームは長い。端から端まで350歩のこの場所で1時間を過ごし、ホームの中ほどから、ふたりは一緒に線路に踏み出した
玉川学園前駅のホームは長い。端から端まで350歩のこの場所で1時間を過ごし、ホームの中ほどから、ふたりは一緒に線路に踏み出した

駅のホームには、その1時間ほど前から、ふたりの姿があったという。とまどうように、迷うようにいるようすが、駅のカメラの映像に残っていた。そして23:07、2番ホーム中央付近から特急ロマンスカー「はこね72号」新宿行きの通過列車に飛び込んで亡くなった。

新宿から快速と各駅停車を乗り継いで33分、東京郊外の住宅地にある小さな駅のホームで、ふたりはなにを話したのだろう。ともに生きてきた母娘にはどんな思いがあっただろう。

駅で過ごした1時間のあいだ、夜のホームにはおよそ10分に1本、新宿に向かう各駅停車が停車していった。その電車から降りる人、乗り込む人たちを、どのような思いで見ていたのだろう。寒くはなかったか、心細くはなかったか。誰かに、助けを求めることはできなかったのだろうか。

新宿までいく最終の各駅停車が22:56に発車した10分後に、玉川学園前駅を通過する最終の特急列車がやってきた。

「特急通過のときって、けっこう怖いですよ。ぼくは仕事で慣れてますけど、それでも怖いから、ホームの端を避けて奥の壁のほうに身を寄せるんです」

大きな音を立てて特急が通過する玉川学園前駅のホームで、この駅で働く男性はそう言った。

ホームには小さな待合室があった。週末の23時台は「利用者は少ない」という
ホームには小さな待合室があった。週末の23時台は「利用者は少ない」という

地続きにある「ふつう」と「困窮」

女性の自死が増えている。今年10月、日本で自ら死を選んだひとは2153人。昨年の同じ月と比べて4割増えている。女性の自死は82.6%増。今年、とくに女性の自死が激増している。

「死にたくなる背景は複合的であることが多いですが、なかでも生活困窮は自殺リスクを高めます。コロナ禍で影響の大きい職種、雇用形態が女性に多かったため、相談件数も増えています。今、女性たちに起こっていることに、現場も困惑しています」(都の自殺相談窓口で対応するカウンセラー)

11月16日の早朝に渋谷区幡ヶ谷のバス停で殺された64歳の女性は、そのときの所持金が8円、ホームレスの状態だったが、今年の2月までは「ふつうに」働いて暮らしていたという。

「解雇にならなくても、シフトが減らされて収入が半減したりして、これまでギリギリやれていた人がばたっとくるケースが多い。もう他人事ではない『地続き』なんです。

自殺しようとするとき、人は混乱しています。けど、死のうと思ってホームにいたとき、たまたま携帯電話が鳴って踏みとどまれたケースもあります。ちょっとした声かけではっと我にかえることがあるんです」(同前)

週末の深夜に電車に飛び込んだふたりになにがあったのか。経済的な理由、健康上の理由、ほかにも、なにかあったのかもしれない。なにがあったにせよ、それを訴える、助けを求める道はなかったのだろうか。生きていくことに力尽きそうなとき、頼る場所はどこなのか。

「気になる人がいたら、声をかけてみる。相談にきた方には話を聞いて、状況に応じて地域の保健所や福祉事務所、関連機関につなぎます。生活保護の申請のため役所に同行することも。今、どこの窓口もいっぱいですが、頼れる場所はあります。諦めないでほしい」(同前)

「自助」の国、日本には、それでも福祉や生活保護の仕組みがある。オリンピックを開催しようという国力があるのだから、市民が最低限生きていく「生活」を維持することは可能なはずだ。生きることを諦めることはない。

「4人家族。有職の男性、専業主婦、子ども2人」

新聞などで「標準世帯」のモデルケースになるこの家族構成は、じつは、日本の世帯の4.6%しかない。非正規雇用率は38%だ。

女性の自死が激増している。12月に入り、困窮する人がますます増えていくことが予想される。声をあげることは恥ずかしいことではないし、かっこ悪くもない。生活を守るための保護を求めることはけっして間違っていない。

「もう、こんなことは嫌です」

困っている女性の相談窓口にもなれたらと、10月から「夜のパン屋さん」を開いている料理家の枝元なほみさんは言う。

「変えなければ」

小田急線玉川学園前駅の2番ホームには、小さな待合室があった。11月28日土曜日の夜遅く、10分おきに到着する電車を見送りながら1時間、駅のホームで50代と80代の母娘は、なにを思っていたのだろう。互いの手のぬくもりを、あるいは冷たさを感じながら踏み出した一歩は、あまりに重い。

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