興収6億円突破『ミッドナイトスワン』への賞賛が止まない理由 | FRIDAYデジタル

興収6億円突破『ミッドナイトスワン』への賞賛が止まない理由

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映画『ミッドナイトスワン』公開後の10月9日、特派員協会での会見で質問に答える草彅剛 写真:つのだよしお/アフロ

草彅剛が美しく儚いトランスジェンダー役を熱演する映画「ミッドナイトスワン」が、第45回報知映画賞にノミネートされた。9月の公開から3週間を迎えた時点で来場者数30万人を突破し、3ヵ月を過ぎた現在もその勢いは衰えず、劇場によっては平日の昼間にもかかわらず満席が続いているという。

日本に比べLGBTQに関心の高い海外からも注目が集まっており、ハワイ国際映画祭、カイロ国際映画祭パノラマ部門での上映のほかに、12月31日からは台湾、2021年には香港での公開も決定している。また、7月に発売された文庫本の売り上げは8万部を突破。さらに、SNSでは「追いスワン」という言葉が生まれ、2回、3回と繰り返し映画館に足を運ぶ人が続出している。

女装姿への違和感を感じさせない草彅剛に賞賛の嵐

草𦿶が扮するのは、新宿のショーパブで働くトランスジェンダーの凪沙(なぎさ)。夜が来るたび薄汚れた楽屋の鏡に向い化粧を施し、純白のドレスをまとい、小さなステージで「白鳥の湖」を踊る。

繁華街のネオンに煌々と照らされたアパートでひっそりと暮らす凪沙のもとにかかってきた、故郷に住む母親からの電話で状況は一変する。

シングルマザーの親戚・早織(水川あさみ)から虐待を受け、育児放棄をされた娘の一果(いちか 服部樹咲)を、一時的に預かってやれないかという内容だった。子供嫌いの凪沙は、養育費目的で預かることにしたが、次第に距離を縮め、片親かつ母からの愛情を知らずに育った一果の痛みに触れるうちに、やがて凪沙の中で、「一果の母親になりたい」という思いが芽生え始める。

多くの観客は、見慣れない女装姿の草𦿶にはじめのうちは戸惑うだろう。だが、ウェーブがかったロングヘアに、赤い口紅。ハイヒールにトレンチコートという出で立ち、口調、仕草など、爪の先まで女性らしさが行き渡るその姿は、女装ではない。凪沙そのものなのだと気付き始めるのにそう時間はかからないはずだ。

メガホンを取るのは、Netflixドラマ「全裸監督」で鮮烈な印象を与えた内田英治。草𦿶のことを「憑依型」と内田監督が表現する通り、その演技を追ううちに、はじめに抱いていた違和感はすっと消え去り、気づけば草𦿶が演じる凪沙はそこにいない。一果のために夜の仕事を辞め、短髪に作業服を着て男性として働く姿にすら、草𦿶の影はない。映し出されるのは、自認する性との不一致にもがき、葛藤し、愛する人のために必死に生きようとする凪沙という人間ただひとりだ。

ある日、一果のバレエの才能を目の当たりにした凪沙は、一果をバレエ教室に通わせるために、性転換手術を受けようと少しずつ貯めてきた貯金を切り崩す。その頃から、凪沙の顔つきが女から母へと変わり始める。

得意のハニージンジャーソテーを2人分つくり、一果と一緒に食べるシーンがある。「おいしい?」「ほら、野菜もいっぱい食べなさい」とサラダにドレッシングをかける凪沙は、母そのものだ。バレエ教室の先生に、うっかり「お母さん」と呼ばれ、あまりのうれしさに笑顔が漏れるシーンでは、凪沙の母性を見事に演じきっていた。

トランスジェンダーの凪沙と、親から虐待を受けてきた一果。社会的マイノリティとして生きる人間の孤独や苦しみを描いた同作は、胸をえぐられるような痛みを覚えるシーンが容赦なく続く。ときおり登場する一果がバレエを踊るシーンが、そんな息苦しさから唯一救ってくれる。

同作の根幹にあるのは愛。夢、希望、生命力に満ちた一果の踊りが、凪沙にとっての生き甲斐だったように、誰かのために生きるということが、いかに美しく、尊いということを教えてくれる。

  • 取材・文大森奈奈

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