MISIA落馬が伝える「テレビで安易に動物を扱う」問題点 | FRIDAYデジタル

MISIA落馬が伝える「テレビで安易に動物を扱う」問題点

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11月15日、報道番組『news23』(TBS系)の取材中に落馬して骨折、全治6週間のケガを負った歌手のMISIA。12月31日に放送される「第71回NHK紅白歌合戦」の出場が決定している 写真:共同通信社

歌手のMISIAさんが、TBS「news23」の撮影中に落馬し骨折、全治6週間のケガをしたことは記憶に新しいが、これまでにも動物を使った番組撮影中にはいろいろな事故が発生している。

1986年には、女優の松島トモ子さんが日本テレビ『TIME21』のロケでアフリカ・ケニアを訪れ、わずか10日間の間にライオンとヒョウに立て続けに襲われた。首にコルセットをはめた姿での記者会見が記憶に残っている方も多いだろう。

たとえ専門家が関わっていても時に事故は発生する。1996年、動物写真家として著名な星野道夫さんはTBSの『どうぶつ奇想天外!』の取材中にロシア・カムチャツカ半島でヒグマに襲われて死亡した。

そして2012年、日本テレビ『ZIP!』に出演していたサモエド犬「ZIPPEI兄弟」は、撮影中ではないが高温の車内に取り残され熱中症で死亡。このように動物を使った番組は人間・動物双方にとって危険が伴うものだ。なぜこのように動物を使った撮影で事故が起こるのか、専門家などに話を聞いた。

まずは、馬を使った撮影では何に気をつけるべきなのか。MISIAさんの落馬事故では、原因は『撮影クルーの動きに馬が反応した可能性がある』とされている。いったい馬は撮影クルーのどのような動きに、なぜ反応したのだろうか。現役の競馬関係者・Aさんの話を聞くことができた。

「特にサラブレッドはそうなのですが、馬は見たことの無いものに敏感で神経質です。見たことのない人や、機材があると『いつもと違う』と思って怖がります。あと、音にも非常に敏感です。厩舎で、雷の音に驚いて死んだケースもありましたし、鹿に驚いて柵にぶつかり、足を骨折して安楽死となった馬もいました」

パラ馬術では、障害がある人が騎乗するため、観客は拍手をせず手をヒラヒラさせることで拍手の代わりにするというルールもあるのだという。それほど音にも敏感なのだ。

「知らない人が多くて、見たことのないものがあると、それだけでまず馬は緊張しています。その上で馬の横を撮影クルーが走るとか、柵の中に入るとか、別のカットが撮りたくていきなり動くとかすると、馬は驚いて飛び退きます。馬の視界は広くて350度近くありますが、そのぶん人より距離感が弱くて、そんなに近くで動いたわけではないと思っても、人より驚きやすいんです」

Aさんによると、時代劇などで撮影に使う馬は「撮影で使う衣装や旗などを、餌を食べている時に置いて見せておき、慣れさせておく」というような工夫をすることで事故を防ぐのだという。「撮影用に訓練された」馬以外を撮影する時には、細心の注意が必要だ。

「昨年には、報道陣が多すぎて馬が集中できなくなってしまい、大会を棄権したパラ馬術の選手もいました。走っている馬をドローンで追いかける撮影をしていたら、馬が驚いて横っ飛びしてしまったこともあります。見慣れないものや、突発事態を警戒して逃げるのは馬の本能です。

撮影の際にはとにかく突発的に動かないこと。耳を後ろに伏せて、目を剥いている時には馬は怖がっています。近づいたり動いたりしてはいけません。こういった習性を理解して細心の注意を払えば、馬は決して危険な動物ではありません。過剰に恐れないで欲しいとも私たちは願っています」

では、馬以外のケースでは何に気をつけたらよいのだろうか。動物を使った番組の制作経験が豊富な、番組制作会社のプロデューサー・Bさんに話を聞いた。まず、海外での動物の撮影は「誰も信じないことが大切」とBさんは言う。

「海外ロケでは、現地のレンジャーや専門家がついている場合が多いのですが、あまりあてにはなりません。『餌付けがしてあるから大丈夫』などと言われて安心したら、全然大丈夫じゃなかったことがよくありました。現地の人は安全基準がゆるいので、申し訳ないのですが信用せずにプロテクターを付けて、遠くから撮影することです」

とある国の撮影では、何日も泊まっていた宿舎の軒下にジャガーが実は住んでいて、最終日にそれに気がついて大騒ぎになったこともあるという。一歩間違えれば撮影スタッフが噛まれて大怪我をしていたかもしれない。海外ロケではとにかく「用心に用心を重ねる」しかないようだ。

では、国内で動物を使って撮影する場合にはどうだろう。ペットなどを使った撮影にもいろいろと難しいポイントがあるとBさんは指摘する。

「犬や猫は動物プロダクションに借りるのですが、事前に会うことができないのが難しいポイントのひとつです。全国の飼い主がプロダクションに登録しているシステムなので、プロフィールを見て、見た目で選ぶしかないので、その子の性格が全くわかりません。撮影に向いているかどうかは『賭け』ですね」

撮影には飼い主も同行するので、「いつも食べているオヤツや愛用のオモチャ」なども持ってきてくれるが、知らない人がたくさんいるので緊張して、全然言うことを聞いてくれないことも多いという。

「とにかく台本も臨機応変に変えていかないと、希望通り・コンテ通りに撮影しようと思ったら時間がいくらあっても足りません。『私たちは動物虐待をしているのでは……』という罪悪感に次第に苛まれてきます。

あと、動物好きなスタッフを選ばないと、怒らせたり、噛みつかれたりして大変です。おっかなびっくり扱っていて撮影中に鳥を逃がしてしまった……なんてこともありました」

そして、最大の敵は「気温」なのだという。

「人間にとっては平気なくらいの暑さだったのですが、スタジオの冷房の効きが悪くて、猫が物の隙間に入ってしまい、出てこなくて大変だったことがあります。撮影中に動物がハアハアし始めたりして『これはまずい』というので冷たいシートなどを敷いて撮影を続けるのですが、5分くらいすると逃げちゃう……。とにかく素早く撮影を終わらせないと。『ZIPPEI』のケースなども頭をよぎりますので、動物の状態を常に気にしています」

最後にBさんは「とにかく動物の撮影では無理をしないこと」と強調する。局のプロデューサーなどから「感動シーンや迫力シーンを撮るように」と無茶な企画や要求をされると現場は追い込まれ、事故につながる危険性が高まるという。当たり前のことだが「動物には人間の都合や考えは通用しない」ということを念頭に置いて撮影に臨まなければならないということだろう。

  • 取材・文鎮目博道/テレビプロデューサー・ライター

    92年テレビ朝日入社。社会部記者として阪神大震災やオウム真理教関連の取材を手がけた後、スーパーJチャンネル、スーパーモーニング、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。中国・朝鮮半島取材やアメリカ同時多発テロなどを始め海外取材を多く手がける。また、ABEMAのサービス立ち上げに参画。「AbemaPrime」、「Wの悲喜劇」などの番組を企画・プロデュース。2019年8月に独立し、放送番組のみならず、多メディアで活動。上智大学文学部新聞学科非常勤講師。公共コミュニケーション学会会員として地域メディアについて学び、顔ハメパネルをライフワークとして研究、記事を執筆している。

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