新婚イ・ボミの告白 コロナ禍で感じた「夫と日本への感謝」
~結婚後初めてのシーズンを終えた1年間の密着レポート~
2020年シーズンはイ・ボミにとって、心境的にとても複雑な一年だったに違いない。
それは自身の公式インスタグラムで、韓国語と日本語で打ち込んだメッセージからもよく伝わってきた。特に慣れない平仮名で一生懸命に打ち込んだであろう日本のファンに向けてのメッセージからは、イ・ボミらしさが十分に伝わってきた。
<2020年シーズンが あっというまに 終わりました。
コースでファンのかたたちと あうことができず おわってしまったのが ホントにざんねんです。まんぞくのいく せいせきでは なかったけど ケガせず げんきなじょうたいで ぶじに おわれたことに かんしゃします>
結果が残せなかった不甲斐なさとファンに会えなかったことには残念さをにじませるが、コロナ禍の中でもゴルフができたことへの感謝の気持ちを述べていた。
今季は日本ツアーに出場したのはたったの3試合。新型コロナウイルスの感染拡大の影響と日本政府の水際対策で来日がずれ込み、11月6日に開幕した「TOTOジャパンクラシック」が初戦となった。成績は67位タイと振るわなかったが、続く「伊藤園レディス」では3位タイと優勝まであと一歩に迫った。
2017年以来の復活優勝はおあずけとなったが、自身の最終戦となった「大王製紙エリエールレディス」でも15位タイとまずまずの結果を残している。2015年と2016年に賞金女王のタイトルを獲得した全盛期のプレーにほど遠いとはいえ、徐々に感触をつかみつつあるようだった。
すべての試合を終え、イ・ボミはこう振り返っている。
「ファンのみなさんの前でプレーできなかったのが信じられません。今年がこれで終わったのかと思うと変な気持ちです」
もちろんスイングに関しては、まだ修正点はある。
「打ちたいイメージとは違う逆球が出ると、まだスイングで迷ってしまう。マネジメントに気が回らなくなるのを早く直したい。体力が落ちると体が起き上がって、スイングがブレてしまうので体力をつけたい」
今年のオフシーズンは、日韓の行き来で隔離が続くことを考えると、日本で過ごすことが得策だろう。いずれにしても十分な練習環境を確保し、来年のシーズン開幕に向けて準備することに力を注ぐつもりでいる。
今年の日本ツアーは、渋野日向子をはじめとする“黄金世代”や今季3勝しているルーキーの古江彩佳や笹生優花ら“プラチナ世代”の活躍で盛り上がりを見せているが、彼女たちが台頭する前まではイ・ボミやキム・ハヌルら韓国勢が、日本ツアー人気をけん引する時代があった。
今もなお、イ・ボミの日本での人気に陰りはなく、今年来日してからもメディアで扱われる回数は確かに多く、それは韓国でも同様だった。2011年から日本ツアーを主戦場にしているが、長らく韓国を離れていたにも関わらず、母国でも人気プロであることを実感したのが今年の韓国ツアーだった。
コロナ禍で今年3月からの日本ツアーは中止を余儀なくされ、開幕は6月の「アース・モンダミンカップ」からとなった。当時、ほとんどの韓国人選手たちは、いつ開幕するか分からない試合を待つよりも、母国で過ごしたほうが安全ということもあり、一時帰国していた。
昨年12月に俳優イ・ワン氏と結婚したイ・ボミも新婚生活が始まっていたこともあり、家族で共に過ごすことを優先しつつ、日本に行ける日を首を長くして待っていた。
そんな中、世界のツアーに先駆けて韓国女子ツアーが5月から開幕を宣言。日本ツアー20勝を達成し、韓国の永久シードを持つイ・ボミは出場権を持っていたため、実戦から遠ざかることなく、コンスタントに試合には出場できていた。
現に5月から9月まで、9試合に出場。ただ、トップ10入りは「済州サムダスマスターズ(7月30日~8月2日)」の9位タイの1回だけで、満足する結果は得られなかった。
「韓国ツアーを離れて10年も経つと、初めてプレーするコースがほとんど。コース攻略は簡単ではありません。日本のコースとは芝質が違うので、そこもうまく対応しきれなかった部分です。体力的な影響も大きい」と苦悩を語っていた。
その言葉からも分かるように、イ・ボミにとって慣れ親しんだ場所は、間違いなく日本だ。日本ツアー通算21勝と勝ち星が多いからこそ、いい思い出がたくさん詰まっている。ヤーデージブックを見なくても、攻めどころを熟知しているコースが多く、優勝している試合にはいいイメージが残っているものだ。シード権を持ちながらも、日本に行けない現状がもどかしいことは想像がつくだろう。
来日できない状況が気になり、たびたび近況を確認していた。マネジメント会社を通して、イ・ボミと少し電話で話す機会があった。
その時は「現在の状況ではみんなの健康が第一であって、自分の優勝や成績を心配するときではないと思います」と、ゴルフどころではない心境を告白していた。
それに日本では最大限のサポートのもと、ゴルフに集中できたのも大きい。所属先の延田グループの現場マネージャーや専属トレーナーの渡邊吾児也(あるや)氏のサポートのほか、クラブ契約を結ぶ本間ゴルフのスタッフも現場にいてくれるのも心強い。それらがすべて韓国ツアーではなかったため、「ほぼ1年目の新人のようだった」という。こんな苦労話も教えてくれた。
「試合をするゴルフ場に練習場が当然あると思い、準備して行ったのですが、そこにはなかったんです。練習場はコースの外というので困ったこともありました」
かつて2010年の韓国ツアーで賞金女王にもなったイ・ボミでさえも、10年も離れると勝手が分からなくなるのだろう。
しかし、そんな状況でも唯一、心休める場所があったのは、夫であるイ・ワン氏が常に隣にいたことだ。ゴルフ場の送迎からプレーやトレーニングのアドバイスまで献身的に支えてくれていた。
「ツアーと新婚生活の両立はとても楽しくできています。試合でいいプレーができなくて、私の機嫌が悪いときもたくさん話して気を紛らわせてくれます。一緒にラウンドもするのですが、ゴルフの実力もすごく上がっていて驚きます」
コロナ禍でなかなかゴルフに集中できないなかでも精神面で支えてくれた夫がいたのは、イ・ボミにとって幸いだった。
韓国のゴルフ専門チャンネルでのレッスンや夫婦でゴルフ雑誌の撮影にもチャレンジ。非公式試合「パク・インビ インビテーショナル」でイ・ワン氏がイ・ボミのキャディを務めたこともニュースになった。
「コロナで試合が少なくなりましたが、時間ができたことでそうしたオファーをいただけるのはとてもありがたいこと」と心に余裕ができ、焦らず来日のタイミングを待てたことは大きかった。
来日のタイミングはシーズン終盤となり、前述したように今季は3試合しか出られなかった。イ・ボミに手応えがないのは、きっと成績だけではない。ギャラリーがいない寂しさが大きいはずだ。
かつて2年連続賞金女王になった当時、イ・ボミの専属キャディを務めていた清水重憲氏は「ボミは結果が出るたびに自信を得て、勢いに乗る選手」と語っていた。ファンへの感謝をいつも言葉にするイ・ボミは、ギャラリーの声援を浴びながら優勝カップを掲げる日を思い描いていることだろう。
自身のインスタグラムで、今シーズンの感想をこう締めくくっている。
<みなさん くれぐれも けんこうには きをつけて いちにちでも はやく いままでのような にちじょうを みんなで とりもどしましょう。とおく はなれて いましたが こころの つながった 2020ねんでした。2021ねん げんきなすがたで あいましょ>
日本女子プロゴルフ協会によると、来季は段階的に観客を入れる方向だという。ギャラリーの声援を浴び、モチベーションを上げることで、イ・ボミの真価がより発揮されることを期待したい。
- 取材・文:金明昱
スポーツライター
大阪府出身。新聞記者、編集プロダクションを経てフリーに。サッカーやゴルフを中心に、さまざまなジャンルのスポーツを取材する。著書に『イ・ボミ 愛される力』(光文社)。【X】https://twitter.com/mwkim0727