世界初の「相撲ドキュメンタリー映画」を撮った監督の異色の経歴
「初めて朝稽古を見学したときに、お相撲さんの体のつくりに驚きました。あの下半身は恐竜ですよ(笑)。力士同士がぶつかる音、シコを踏む音……すべてが衝撃でした。間合いで勝負を始める彼らは、まさにサムライです」
相撲への愛を熱く語るのは、現在全国で順次公開されている映画『相撲道〜サムライを継ぐ者たち〜』の坂田栄治監督だ。相撲の世界の内側を撮ったドキュメンタリー作品は世界初。作品も稀有だが、坂田監督の経歴もまた稀有である。TBSの社員で、『マツコの知らない世界』『ズバリ言うわよ!』などのバラエティー番組の総合演出を手がけてきたヒットメーカーなのだ。
「世界初の大相撲ドキュメンタリー映画を作りたい。そう思って、会社に副業届を出して本作を撮りました。
もともと格闘技が好きだったこともあって、『マツコの知らない世界』に出演してもらった元力士で漫画家の琴剣さんに相撲部屋に連れていってもらいました。稽古を見て、いままで相撲のことを知っているようで、実はなにも知らなかったことを痛感しました。
改めて相撲の世界のすばらしさを後世に伝えるためにも、この迫力を映画のスクリーンで見せたいと思ったのです」
坂田監督の言葉通り、映画『相撲道』は相撲の魅力を臨場感のある音と映像で伝えている。立体的な音響を実現するドルビーアトモスを、日本のドキュメンタリー映画で初めて採用。この技術に対応した映画館で観ると、力士がぶつかりあう音や、両国国技館の大歓声に圧倒される。
「なるべく自分が初めて見た時の衝撃を、そのまま伝えようと思いました」と語る坂田監督は、相撲ファンだけでなく、相撲のことを知らない人や外国人にも楽しんでもらうために、わかりやすさにこだわったという。
そのひとつは、幕内力士の強さがわかる表現だ。相撲部屋の稽古場で、幕下の中では強い力士が、十両の力士と稽古してもまったく歯が立たない。同様に、十両の力士は幕内の力士に、幕内でも平幕の力士は大関に簡単にねじ伏せられてしまう。稽古を淡々と追うことで、番付が違う力士の力の差を浮かびあがらせた。
坂田監督はかつて、ボクシングの辰吉丈一郎のドキュメンタリーを制作したほか、現在は獣神サンダー・ライガーのYouTubeも手がける大の格闘技好きだ。改めて相撲の世界を知ったことで、取材をすればするほど相撲にのめり込んだという。
「どんな格闘技にもルールがありますよね。もしもルールがなくて、何をしてもいいのであれば、相撲が最強だと思います。あんなに太い足では関節もとれません。大きな体をした力士同士が、頭と頭でぶつかり合って、額が切れて、脳震とうで一瞬動かなくなって……それでも戦い続ける彼らは超人ですね」
コロナ禍で大相撲は観客を制限して開催されている。2018年に撮影された映像を観ると、今は叶わない大歓声の両国国技館で観戦しているかのような感覚を覚えること間違いなしだ。
(C) 2020「相撲道~サムライを継ぐ者たち~」製作委員会
『相撲道』はTOHOシネマズ錦糸町、ポレポレ東中野ほか、全国で順次公開中。
- 取材・文:田中圭太郎
- 写真:(C) 2020「相撲道~サムライを継ぐ者たち~」製作委員会
ノンフィクションライター
1973年4月生まれ。大分県出身。97年、早稲田大学第一文学部東洋哲学専修卒。大分放送を経て2016年からフリーランスとして独立。雑誌・WEBなどで大学をめぐる問題、教育、社会問題、障害者雇用・バリアフリー 、パラリンピック、宇宙ビジネス、飲食ビジネス、医療、働き方、大相撲など幅広いジャンルで執筆。