明石・暴言市長の反省「コロナ禍、倒れる人を出さないために」 | FRIDAYデジタル

明石・暴言市長の反省「コロナ禍、倒れる人を出さないために」

明石市は攻めている。困窮者への支援を次々に繰り出す「声の大きい」泉房穂市長にインタビュー

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「街を歩いてると、市民から声がかかるんですわ。今、これが困ってる、ここなんとかしてくれ、あれがよかった、ありがとう、がんばりや、て」

兵庫県明石市。人口29万9750人、神戸の隣町。市長は泉房穂57歳。3期、10年目だ。

「例のあの件で辞任しまして、もう市長は辞めよう、これはあかんと思いました。

けど、市民の方から『今辞めてもらったら困る』と署名活動があって立候補しました。結果、より大きな支持をいただいて再選できた。ありがたくて、泣きました」

「暴言」辞任のあと、髪は真っ白になった。明石市内を歩き回る泉房穂市長の顔は漁師のように日焼けしている
「暴言」辞任のあと、髪は真っ白になった。明石市内を歩き回る泉房穂市長の顔は漁師のように日焼けしている

昨年1月、「いつまでかかっとるんや」「火をつけてこい」と市職員に激昂する2年前の録音音声が公になり、暴言市長として名を知られた。

「反省してます。市長たるもの、言葉使いも行動も気をつけなきゃいけない。猛反省です。それでもまた選んでくれた市民、ついてきてくれる市職員には感謝しかない」

今年度の人事異動は16回

11月26日、明石市は「ひとり親家庭に現金5万円支給」を発表した。これは初めてではない。

5月にまず、一斉にお渡ししました。ひとり親でお子さん育ててるおうちはどこもしんどいやろ、急がなあかん、と、職員総出でスピード給付しました。それと、お店やってはる方らの家賃補助。店閉めたら家賃払われへん、これも急がなあかん。上限50万円家賃2ヶ月分の無利子貸付。

そしたら今度は学費が払われへんと聞いて、市内165人の大学生と専門学校生、希望者全員それぞれの在籍する学校に電話して、市が直接学費を振り込みました。はじめ上限50万にしたら、理系だとこれでは足りんと聞いて、結局100万円に」

コロナ禍で困窮している市民に順々に給付金や補助を実行する。そのため、市役所の職員は「今これ」という職場に大勢を配置して、終わるとまた次の職場に投入する。4月からの今年度は「16回の人事異動があった」という。

「職員はしんどいと思います。つい声を荒げてしまいそうになることもあります。やらなあかんことが多すぎるんです。けど、やったらやっただけ成果が出る。この数年、明石市は人口がどんどん増えてるんです。30、40代の子育て世帯がどんどん転居してくる。だから商店街もにぎわってきて、ますます人が増えてます」

これまでも、子育て家庭への支援や、お年寄りの見守りなどさまざまな施策を実行してきた。

市長の声が大きい理由

「ぼくは漁師の子。みんな朝早くから漁に出て、みんなで助け合う。そんな『村社会』で育ちました。4歳下の弟に障害があってね、そのころの障害児って、近くにある普通の学校には、すぐにはいかせてもらえなかったんですよ。歩くのたいへんなのに、遠くの養護学校に行けといわれる。そんなことあるか、世の中の仕組みがなにか間違ってるって、子ども心に憤ってました。

裕福な家ではなかったし、親族に大学まで行った人はいなかったけど、『変えたい』と思って。猛勉強して東大に入りました」

卒業後、NHK勤務から衆議院議員、そして故郷・明石の市長になった。

「市長にはなったけど、市議会は反対派ばかり。障害者支援、子育て支援の提案をしても、なかなか賛成してくれへん。せやけど、ひとつずつ説明して、ちょっとずつ実現して。そのうち、市民が応援してくれるようになった。はじめは子育て世代、それから商店街のおっちゃんやらが声かけてくれるようになったんです。あいかわらず、市議会に市長派はおらんけど、市民が市長派でいてくれる。

あのことがあったおかげで猛反省して自分を見直すことができたし、再選されて自信にもなった。結果的には、マイナスだけではなかったです」

大きな声で、力強く語る泉市長。声が…でかい。普通に話していても恫喝レベルに声が大きい。

「声ね、大きいんですよ。漁師町で育ちましたから。漁師は海の上では、大きな声出さないと聞こえませんから。

市長席からね、職員に指示しますでしょ。前は、役所の奥に市長室があって、その手前に副市長室があって、応接やら秘書席やらあったんですわ。せやけど、それやとものすごい大きい声出さなあかんし(笑)。応接をなくして、僕の席の前に市長室の10人くらい職員の席をおいて、もうすぐ目の前で、ばーっとしゃべって、あれやろ、これできんか、と毎日検討しながらやってます」

明石市では、新型コロナの対応だけでなく、以前から子育てや高齢者への支援なども厚い。医療費は高校生まで無料化する予定だという。その財源はどうしているのだろう。

「市に金がないって、嘘ですわ。金をちゃんと使うてないだけ。一定の財源のなかで『やりくり』します。家計と一緒です。例えば子どもが公立校に落ちて私立にいくとなった。さてどうしよう、親は『お金がないから諦めてくれ』というわけには、いきませんよね。そしたら、その費用はなんとか捻出する。そのぶん晩酌を減らす、ちょっと安い酒にする。そういう『家計方式』にしたんです」

家族に対する思いは深い。そして、市は大家族なんだという。

「市民に選ばれた市長が、市民の必要なことをする。これを10年やってきて、人口はどんどん増えてます。出生率も高い。とくにこの2年くらい、あの辞職以降は、かえってやりやすくなったんです。落ちるとこまで落ちて、市民みなさんが署名してくれて、圧倒的な支持で復活できたから。

明石市には、すべての小学校区に子ども食堂があります。これは全国でおそらく明石市だけ。助成金も、領収書やら面倒なことは省いて市が支援してます。

預かってる税金をどう使うか、子育てや障害者や、高齢者、弱い立場の人に重点的に配分してますから不満に思う人もいます。けど、明石市が人気になることで建設業や不動産も景気がよくなりました。地域経済も盛り上がってる。今、10年目にして好循環ができました」

「明石の写真をお借りしたい」と連絡したら、すぐにこれを送ってくれた。市役所から見える明石の海。このスピード感が市を動かしている 写真提供:明石市役所
「明石の写真をお借りしたい」と連絡したら、すぐにこれを送ってくれた。市役所から見える明石の海。このスピード感が市を動かしている 写真提供:明石市役所

誰も取り残さない。「漁師の子」が誓った「世の中を変える」

「明石市は、大家族なんです。例えば犯罪を犯した人。刑務所にいる人に市の職員が面会をします。出所後の生活を支えるんです。『おかえりなさいの街』事業です。

認知症の人、隠したりすることも多いですよね。でも、早期に気づくことで寄り添える。『認知症手帳』を作ったんです。お弁当無料券とかいろんな支援を用意しました。大家族の代わりを行政が担う。お年寄りも子どもも支えるんです。家族やから」

今年、コロナ禍で困っている人は多い。国の施策は追いついていない。

「そんなことしてたら、市政が破綻すると言われたこともありましたが、今、人口が増えて税収も上向いています。困っている市民に、必要な支援をする。子どものころ、障害がある弟、苦労する両親を見て心に誓ったことが実現しつつあります。

今はとにかくコロナで倒れる人を出さないこと。大家族のような市を作りますよ」

今年、市内の高齢者施設で入居者への虐待、児童相談所で判断ミスがあった。市長は会見して謝罪した。

「残念ながら、こういう問題はどこの施設でも起こりうる。そして隠蔽するんです。だから明石では率先して、警察の発表より先に公表して謝罪しました。問題の顕在化です。こうすることで、問題を解決することにつながればという思いです。

市長になって5年くらいはしんどかった。けどあの件以降はかえって動きやすくなったんです。県、国でないとできないことも多いし、もどかしい。でも、明石市の予算規模でできることも、まだまだあります。コロナでそれがはっきりしたんやね」

泉市長の声は大きい。ちょっと、必要以上かなと思うほど、声がでかい。

この大きな声で大家族を率いている。大きな声が明るい未来につながっている。

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