元・殴られ屋が北千住に「駆け込み無料食堂」を開いたワケ | FRIDAYデジタル

元・殴られ屋が北千住に「駆け込み無料食堂」を開いたワケ

コロナ禍にオープンした「子ども&大人食堂」店主を変えたできごと

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「いつも腹が減っていた」という経験から、だれでもいつでも暖かいものを食べさせる「無料食堂」を開いた人がいる。

コロナ禍の今年、いつでも誰でもここに行けば「温かいもの」が食べられる駆け込み無料食堂を開いた
コロナ禍の今年、いつでも誰でもここに行けば「温かいもの」が食べられる駆け込み無料食堂を開いた

だれひとり、飢えさせないという気構えで

「おなかが空いているなら、いつでも、だれでも食べにおいで」

オープンしたのは2020年1月。「銀鮭専門割烹ウチワラベ」が開店するのは17時からだが、「駆け込み無料食堂」は、経営する内田洋介さんが仕込みのためにお店に入る昼の12時ぐらいから、いつでも利用できる。お店に行って入り口で「無料食堂を利用したい」と伝えるだけ。理由などはいっさい聞かない。子どもだけでなく、大人でもだれでも、利用できる。

それじゃとくに困っていなくても利用する人がきませんか?

「最初はちょっと心配しました。けれど、これまでに一人もそういう人は現れない。こちらが本気でやっているということがわかるんでしょうね」

NYでホームレスに。パン屋の裏口でもらったパンの味

そもそも内田さんが無料食堂をやろうと思ったのは、アメリカでの経験があったから。

今から14年前。24歳のときにアメリカに行った。当時、プロのキックボクサーとして、将来を期待される存在だった。キックボクシングだけではなく、子どものときから沖縄古流空手を習い2段の腕前をもつ格闘家でもあった。「格闘技の修行をしたい」という思いだけで渡米してしまった。

「ロサンゼルスに行ったはいいけど英語は話せない、お金もあまり持っていない、無謀でしたね。けどひょんなことがきっかけで、ギャングに空手を教えたりしてました。調理師免許を持っていたので、その後リトルトーキョーの寿司割烹で働き、3年ほど経ったころ、帰国する前に自由の女神を見たいと思い、ニューヨークへ行ったんです。ところが、ロスとニューヨークでは物価が全然違う。あっという間に日本に帰るためのお金もなくなってしまいました」

そこで何をしたかというと「殴られ屋」。

「資金もかからないし、格闘技の練習にもなると思って」

仕事もお金も住むところもなくなり「殴られ屋」を。いつもお腹を空かせていた
仕事もお金も住むところもなくなり「殴られ屋」を。いつもお腹を空かせていた

1分間10ドル。サンドバッグのように殴られるわけではなく、もちろんよける。見事ノックアウトしたお客さんには賞金40ドル!という商売だ。人気だったが、警察に止められ、あえなく廃業。

「その日からホームレスです。路上生活。ニューヨークの地下鉄は24時間動いているので、地下鉄で寝たり。地獄でした。

冬の夕方、マンハッタンのチャイニーズタウンにおいしそうなパン屋さんがあって、そこにパンの匂いを嗅ぎに行ったんです。

匂いを嗅ぎながら、道に落ちている雪を食べていたら、お店から中国人が出てきて、『何をやってるんだ』と。『ごめん、迷惑だよね』と言って帰ろうとしたら、『待て』と引き止められた。で、お店のパンを袋にいっぱいくれたんです。涙が出るくらいうれしくて。美味しくて」

その後、炉端焼き屋に職を得て、路上生活から脱出。しかも、そのお店が高級店だったので、収入が「爆上り」した。

「それであのパン屋さんに恩返ししようと思って、その日のパンを全部買い占めようと1000ドル持って行きました。そして、『今あるパンを全部買いたい』と言ったら、ものすごく怒られたんです。『そんな金があるなら、10ドルずつホームレスにあげてこい。それで助かる人もいるだろう。パンを買い占めるなんて、ただの自己満足だ。その考え方を直さなくちゃダメだ』と。

その通りだなと思いました。しかも、その中国人は20代で、僕より年下なんです。若いのに、僕よりずっとしっかりしてる。それまで人のために何かするということを考えたこともなかったんですけど、180度変わりました。せっかく頑丈で力のある体があって、アメリカでいろいろ経験して、それを使わない手はないだろうと思ったんです」

子どもも、大人も「温かい美味しいもの」を食べにきて

帰国後、児童養護施設や子ども食堂でボランティアを経験。その経験から、だれでもOKの「無料食堂」開設に至った。

「子ども食堂は、資金難などで途中でなくなってしまうところがすごく多いんです。頼りにしていた人にとっては、途中でなくなるのは、めちゃくちゃかわいそうじゃないですか。だったら、継続的にできるシステムを作ろうと。

まず飲食店をオープンして、家賃や人件費をぐんと下げて運営したら、その分無料食堂にかかる経費に回せる。そうすれば継続してできるんじゃないかと考えて開いたのが、この店なんです」

この場所が、命を繋ぐことも
この場所が、命を繋ぐことも

古民家をリノベした店舗は、狭いけれど清潔感があり「家」を感じさせる。一人で切り盛りしているため人件費もかからないと言う。

1日何人ぐらいが無料食堂を利用しているんですか?

「それが1人、2人なんです」

コロナ禍で経済的に追い込まれている家庭も多いなか、隠れている困窮世帯が多いのではないかと危惧する。現在、ソーシャルワーカーなどと連携をとりながら、無料食堂の利用を促している。

「必要としている人は、たくさんいるはず。じつは来年もう1店舗、無料食堂を増やす予定なんです。子どもだけでなく、大人も、親子も、どんどん利用してほしい」

この食堂に行けば、だれでも、温かい美味しいものが食べられる。そんな場所が「ある」という事実が、こんなにも心を温める。

「銀鮭専門割烹 兼 駆け込み無料食堂 ウチワラベ」

東京都足立区千住寿町14-7 電話:03-6806-1308

お店は、古家をリノベした複合施設「せんつく」の1階にある。ここでは料理やものづくりの教室、イベントなども開かれ「千住の拠点」を目指している
お店は、古家をリノベした複合施設「せんつく」の1階にある。ここでは料理やものづくりの教室、イベントなども開かれ「千住の拠点」を目指している
  • 取材・文中川いづみ

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