<究極は首を鍛える死刑囚>怒りと悲哀に満ちた「獄中川柳」の世界
人権を獄で叫べば不良囚
三密の監獄で作る防護服
これらは『救援川柳句集』という本に収められた、全国の受刑者たちが詠んだ川柳だ。受刑者支援団体「救援連絡センター」の機関紙『救援』に掲載された句をまとめたもの。09年3月から毎月募集し、10年半ほどかけ今年で400句ほどが集まった。選者で自身も10代から川柳を作っている、乱鬼龍(らん・きりゅう)氏が語る。
「刑務所から毎月、20句ほどが送られてきます。その中から3句選び、新聞に掲載するんです。1ヵ月で100句詠む猛者もいる。基本的にはハガキで送られてきますが、投函の自由もないのか弁護士事務所を通じたり、長文の手紙が同封されていることもあります。軽犯罪者から死刑囚まで、立場も様々。塀の中で人生を見つめ直している彼らの心の叫びに、感銘を受けます」
自分の罪を省みることで、何かを訴えたいと考える受刑者は多い。彼らが獄中で俳句を作り、詩を書き、精密な絵を描くことはよく知られている。受刑者の川柳も、その一環で集められた。句集には、刑務所での悲哀や理不尽さを詠んだ句が多い。
残刑とともに奥歯が減ってゆく
エアコンを看守がケチり熱中症
刑務官口の悪さは天下一
ぬれぎぬを着せて殺して正義面
死刑囚が詠んだと思われる句には、人生の最後を前にした独特の迫力がある。
死刑囚あなたに夢はありますか
究極は首を鍛える死刑囚
足音が近づく度に死を思う
無実の罪で服役した人もいるのだろう。冤罪に対する怒りも凄まじい。
間違いで済むか獄中十七年
冤罪がわかった時にはもうあの世
ぬれぎぬを着せて殺して正義面
刑務所内で受ける不当な対応への不満、冤罪で服役するやるせなさ……。そうした感情が、受刑者の関心を世相に向けさせるようだ。政治不信に関する句も目をひく。
歯向かえば皆テロリスト共謀罪
トランプの袖に隠れる安倍総理
腐敗した官僚汚染を除染しろ
「重罪を犯した人たちの多くが、親との縁を切られ離婚を強いられています。身寄りがなく、思いのたけを伝える相手もいない。毎月送られてくる川柳には、受刑者たちの魂の叫びが詰まっているんです。川柳から、彼らの置かれている状況や思いの一片でも知ってもらいたい」(前出・乱氏)
先の見えない獄中生活にも、ちょっとした光を見いすこともある。句集には、心が和まされる川柳もいくつかあった。
もういくつ食べると出られるこのお節
鶯に元気授かる獄の庭
ありふれた言葉がしみる面会所
受刑者の川柳を集めた句集は500円。お問い合わせは「救援連絡センター」まで。電話03-3591-1301 FAX03-3591-3583 E-mail:kyuen2013@gmail.com