薬物中毒・ホームレス経験を猫が救った…ウソのような素敵な話 | FRIDAYデジタル

薬物中毒・ホームレス経験を猫が救った…ウソのような素敵な話

ストリート・キャット「ボブ」が教えてくれた奇跡と愛とセカンドチャンス

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「人はだれでも、やり直せる」ー壮絶な体験から、猫との出会いで人生を変えた青年。ほんとうにあった奇跡の物話とボブのこの表情…世界中にファンがいる 写真:平川さやか

「ボブとぼくは前世で互いに知りあっていたのではないかと思うときもある。不思議なほどぼくたちはすぐに深い絆で結ばれたのだから。ボブはぼくの親友で、ぼくの人生をちがう方向へーもちろん、いい方向へー導いてくれた。

誰にでも幸運は訪れるし、かならずセカンドチャンスはめぐってくる。ぼくとボブが手にしたように」

世界一有名な茶トラの猫「ボブ」。全世界で1000万部のベストセラーになった『ボブという名のストリート・キャット』シリーズには、薬物に溺れホームレスになった青年ジェームズが、じっさいに経験した出来事が綴られている。

人生を変えた「ふたり」の出会いはどこにあったのかー?

イギリス、ロンドンの街で一時は路上生活をしていたジェームズ・ボーエンさんは「猫との出会いで人生が変わった」という。お伽話みたいな、でも本当の話だ。

「ストリート・キャット ボブ」シリーズの書籍を前にしたボブ。マフラーはファンからの贈り物だ

2007年3月の寒い夜、ボブがやってきた

「アパートメントの廊下に座ってた。近所では見かけない猫だったけれど、暗いなかでも独特の雰囲気が感じられて、惹きつけられたんだ。(略)好奇心と知性をたたえた目でじっと見つけられると、こちらのほうが猫のテリトリーに迷い込んだ気分にさせられた」①

ボブとの出会いを、ジェームズさんは著書のなかでこう語る。

このころ、薬物依存症から抜け出すための治療中で、生活費を稼ぐために路上で弾き語りをしていた。その日暮らしで自分が食べて行くのに精いっぱい。とても猫を飼う余裕はなかった。

でも、足をケガしていたので病院に連れて行き、治るまで面倒をみようと決めた。いずれ出ていくだろうと思っていた。しかし猫が、ジェームズと暮らすことを「選んだ」。

「ロンドンには昔からたくさんの野良猫がいて、生き残りをかけて毎日のように流れ歩き、喧嘩を繰りかえしている。ぼくと暮らそうと思ったのは、もしかしたら、この猫はぼくのなかに自分と似たものを見たのかもしれない」①

ボブと名付けて、「ふたり」の生活が始まった

「朝ぼくが目を覚まして身体を起こすと、ボブはベッドルームの隅にある自分用のベッドからのっそり出てぼくのそばまで来る。それから甲高い声をあげはじめる。ぼくが反応しないと、ちょっともの哀し気げな声に切りかえる。本当に泣いているみたいに。

こちらがのろのろしていると、おねだり攻勢を強め、マットレスの上に立ちあがり、大きく見開いた緑色の目で射るように見つめてくる。それはもう、かわいいなんてもんじゃないんだ」②

ボブと巡り合ったころ、ジェームズは路上で演奏していたが、あるトラブルがきっかけとなって「ビッグイシュー」の路上販売者になった。これは、ホームレス状態の人の社会的自立を応援する事業で、雑誌「ビッグイシュー」を1ポンドで仕入れ、2ポンドで売ることで日々の収入が得られる、ホームレスの人々に働く場を作ろうという取り組みだ。日本でも展開していて1冊450円の雑誌を1冊売るとそのうち230円が販売者の収入になる。もともと、イギリスで始まった活動だ。

路上で「ビッグイシュー」を販売するボブとジェームズ。ときには弾き語り演奏も

「ある日のこと、あまりに退屈だったので、ぼくは歩道に座り、ボブと遊びはじめた。最初は握手みたいなことをしていた。ぼくが手をさしだすと、ボブが前足をのばしてその手に触れる。ボブと遊ぶことで、通り過ぎる人たちの目をよろこばせるだけでなく、ぼく自身がまえよりも楽しく時間を過ごせるようになったんだ」②

ボブとジェームズのハイタッチ。映画のタイトルにもなった、ボブお得意のポーズだ

ボブお得意の「ハイタッチ」の誕生だ。そのうちさらに「高度な技」も開発された。たとえば、ボブの頭から1mほどの高さにおやつを差し出すと、ボブは後ろ足ですっくと立ちあがる。ジェームスの手首を両方の前足で包み込んだとき、ゆっくりボブを持ち上げる。そんな「ショー」も通行人たちの目を引き、いつしか人が集まるようになり、ボブのファンになってくれたのだ。

ジェームズは薬物依存から抜け出した。ボブと一緒に生きることで「人生をやり直す」ことに成功したのだ。

地元紙をはじめいくつかの媒体に取材された。そしてなんと「本を出版しないか」という話が持ち込まれた。ボブとジェームズの「やり直し」の物語が本になり、イギリスだけでなく世界各国で出版されたのだ。

「ビッグイシューを買ってくれるもうれしいけれど、ボブにおやつを持ってきてくれたり、マフラーを編んできてくれたり、みんなに応援され、愛されていると実感するときの気持ちは、言葉ではとても表しきれなかった」②

ボブが与えてくれたもの……それは、かわいらしさで心を和ませるだけでなく、人を信じられなくなっていたジェームズに、信じる気持ち、愛される気持ちを思い出させたこと。そして、どんな人生でも「やり直せる」というメッセージだった。

どこか、思慮深さを感じさせるボブの横顔。知的な表情にはっとする瞬間

危険を察知。ジェームズを危機から救う

ボブはかわいいだけの猫ではなかった。路上で販売していると、いろいろな人がやって来る。ふたりをよく思わない人もいるし、危ない人間もいる。

ある日のこと、通りの向こう側に、いかにも凶暴そうな男が歩道に座り、こちらをじっと見つめていた。ジェームズは男をにらんで、その場を離れた。これで大丈夫と思ったと言う。けれど、

10歩も行かないうちに、とつぜんボブはいままでに聞いたことがない大声を張りあげたんだ。それに続いて『シャー』という声が響いた。と同時に、背後から空気を引き裂かんばかりの人間の悲鳴が耳に飛び込んできた。振りかえると、さっきの男が体をふたつに折り、手を押さえている。手の甲から血が流れていた。男がリュックサックをひったくろうとしたところを、ボブが身を乗り出してその手に鋭い爪を突き立てたんだ」②

こんな危険を察知する能力で相棒ジェームズを守ったボブ。ふたりは離れがたい信頼で結ばれた「親友」になっていた。

ロンドンの街を移動するときは肩に乗って。ときにはリードをつけたボブがジェームズを先導することも

ボブと一緒にクリスマス。「まるで家族みたいだ」

ある年のクリスマス前の数日、電気代もガス代も払えず、外は雪。クリスマスの支度で忙しいなか、ビッグイシューを買ってくれる人は現れず、街に立って途方にくれていた。ところが奇跡が起きたのだ。1人2人と顔なじみがクリスマスカードを持ってやってきて、ボブに声をかけてくれた。カードの中にはお金が……!

「封筒を開けて5ポンド札や10ポンド札が目に入るたびに、ぼくは天にものぼる気持ちだった。カードのメッセージを読んで、涙ぐみそうになった。なんて恵まれているんだろう。(略)1人ひとりの思いやりある行動は、ささやかなものかもしれない。でもそれが積み重なって、たぶんぼくの命を救ってくれたと思う」③

家族との関係に問題があったジェームズは、「家族でクリスマス」の幸せな記憶をもっていなかった。けれども、ボブと迎えるクリスマスはその年で3回目。ボブは地元のスーパーマーケットで買った黒い人工ツリーがお気に入りだ。ツリーの飾り方にもこだわりがあり、枝にはリボンじゃなくて、丸いオーナメントを飾るのが好みだ。色はできればゴールドか赤。ツリーのてっぺんには金色の星。

「ボブの望み通りに飾りつけが終わると、ボブはそれを世界でいちばん大切なもののように守る。ときどきツリーの下にもぐりこみ、幹に体をまきつけるようにする。動いた拍子にツリーが倒れてしまうこともある。

ボブはプレゼントの箱で遊ぶのも大好きで、ときには包装紙を破く。

クリスマスの翌日、友だちのベルがやってきた。ぼくたちは紙の帽子をかぶり、はさみとセロハンテープを使ってボブ用の帽子もつくった。みんなで帽子をかぶって首からナプキンを下げている姿は、かなり見ものだったろう。家族みたいだ、と思った」

薬物中毒で路上で凍死しそうになったこともあったジェームズ。それがボブという勇敢で聡明な猫と出会って生還した。

「人生は、劇的に変わったんだ

元野良猫、茶トラのボブ。あふれる愛を送り、受け取り、天国にいった。推定14歳

ボブ、天国へ。訃報を受けて「ボブハウス」設立

ジェームズに、愛すること、励まされるよろこび、生きるよろこびを教えてくれたボブは2020年6月15日、交通事故にあって天国へ旅立った。

世界中のファンがその喪失に涙を流した。そして、ジェームズの元にはたくさんのメッセージが届いた。深い悲しみのなかジェームズは言う。

「お互いの人生を支えたボブが『もういない』という事実はとても受け入れられない。ボブと過ごした日々は奇跡のような出来事だった

ボブの存在は、今「ボブハウス」となって生きている。日本の愛猫家であり、「ビッグイシュー基金」の共同代表でもある稲葉剛氏がボブの訃報を受け、「ホームレス状態の人が、ペットと一緒に入居できるシェルター」を作ったのだ。

「感動のあまり言葉を失った。これこそ、最高の追悼。ぼくを救ってくれたボブがこれからも多くの人を救うことになると思うと、悲しみが和らいでくる」

シリーズの最新刊『ボブが遺してくれた最高のギフト』は今月、日本でも発売となり、書店のほか全国のビッグイシュー販売者が750冊限定で、路上で手売りするというギフト企画が実現した。この本の価格1760円のうち半額が販売者の収入になる仕組みだ。

ボブが表紙を飾った日本版「ビッグイシュー」はこれまでに4号。ボブが表紙の号は、イギリスでも日本でも人気だ。日本で8月に発売された「追悼号」は、今でも売れ続けている。その1冊1冊が、販売者の「やり直し」に繋がる。

ストリート・キャットボブがこの世に残した大きな「足跡」。人生はやり直せるという希望、人生を変える力は、たしかに引き継がれている。

ストリート・キャット「ボブ」

 

ストリート・キャット「ボブ」
ストリート・キャット「ボブ」

ジェームズ・ボーエン:1979年、イギリス東南部のサリーで生まれ、オーストラリアなどで育つ。ミュージシャンを目指してロンドンへ。友人の家のソファや床で眠る生活から、路上生活者に。薬物中毒にも悩まされる。路上演奏で生計を立てていた2007年に野良猫ボブと出会う。

ボブ:2007年、ジェームズに出会う。2020年6月15日、不慮の交通事故でその奇跡の生涯を終えた。推定14歳。

ふたりの物語を綴った『ボブという名のストリート・キャット』(辰巳出版)は世界28ヵ国で翻訳され、2016年に映画化もされた。映画第2作『A Christmas Gift from Bob』が現在イギリスで公開中。

引用:『ボブという名のストリート・キャット』①、『ボブがくれた世界』②、『ボブが遺してくれた最高のギフト』③、『ボブが教えてくれたこと』(すべてジェームズ・ボーエン著/辰巳出版)より

写真:平川さやか(『ボブが教えてくれたこと』より)

  • 写真平川さやか中川いづみ

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