「今日食べさせるものがない」全国で聞こえるシングル母の悲鳴 | FRIDAYデジタル

「今日食べさせるものがない」全国で聞こえるシングル母の悲鳴

これ以上、飢えて命を落とす人を出してはいけないー「赤信号」の女性たち

  • Facebook シェアボタン
  • X(旧Twitter) シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン

12月11日、大阪市のマンションで母娘とみられる2人の亡骸が見つかった。死因は「餓死」。亡くなってから数ヶ月経っていたとみられるふたり。体重は30キロ。室内には食料がほとんどなかった。

女性の困窮が止まらない。現代の日本で餓死する親子がいるという現実。わたしたちはいったい、どんな地獄に暮らしてるのだろう。

どうか、命を落とす前に、自ら死を選ぶ前に、どこかに繋がってほしい。

生活史研究家・阿古真理氏が悲しみと怒りを込めて書いた。

飢える母娘…今は、いつの時代なのだ

テレビを観て、泣いてしまった。

12月5日放送のNHKスペシャル『コロナ危機 女性にいま何が』を観た。番組は新型コロナウイルスの経済への影響から苦境に陥った、年齢もライフスタイルも異なる5人の女性をルポしていた。

バブル崩壊、阪神淡路大震災、リーマンショック、東日本大震災、そしてコロナ。経済が危機に瀕するたび「崖っぷち」に追いやられるのは主に女性たち。この30年、同じことが繰り返されている。

貯金が底をついたという人、生活の足として欠かせない車の売却を検討する人もいた。シングルマザーが、シニアが、子どもたちが、コロナ禍で日々の暮らしを脅かされたのはなぜなのか。

これ以上、子どもには…

登場したひとり、4歳から17歳の4人の娘を抱える大阪の女性は、1年前に離婚し、今春の就職が決まっていたがコロナで内定を取り消された。ハローワークで22時から朝5時のスーパーの品出しをする仕事を見つけたが、アルバイトの掛け持ちで家計を助ける高校生の娘に「ママが体調を崩したら、元も子もない」と言われ断念。中学3年生の娘は「できるだけ早く働き家族を支えたい」と作文に書く。5歳の3女はクリスマスのプレゼントをサンタに望むが、買う余裕はない。「これ以上子どもに迷惑をかけたくない」と彼女は途方に暮れる。

番組は、NHKと独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)が行った全国男女6万8000人のアンケートから、5000人を詳細に分析した結果も報じた。コロナ禍で仕事に影響を受けた女性は26%あまり。男性の1.4倍にのぼる。

解雇や雇止めに遭った女性たちの33%が再就職できずにいる。アンケートで「精神的に追い詰められた」と回答した女性は26%に及ぶ。

今年10月に自殺した女性は、前年同月比で82.6%増加したと警察庁が発表した。

今はいつの時代なのだ。社会保障が、適切に機能していないのではないか。

非正規雇用の現実

34年前、女性が男性と対等に働ける道を開くはずだった男女雇用機会均等法が施行されたが、同じ年に労働者派遣法も施行。適用範囲を広げる改正が繰り返され、非正規で働く女性の割合は平成を通じて上昇し続けた。

総務省の労働力調査によると、非正規は1990(平成2)年に女性雇用者の38.1%、2017(平成29)年には、なんと55.5%に増加している。男性社員と同等どころか雇用の安定すら期待できない女性が多数派になってしまった。

非正規雇用の拡大は男性にも及んでいる。1990年には8.8%、2017年には21.9%と、男性雇用者の5人に1人が非正規になった。今、現役世代で「共働き」の女性は専業主婦の倍以上いるが、夫の収入だけでは生活が回らないこともその要因の一つだ。女性の苦境は、同時に男性の困難でもある。

夫婦共働きでも苦しい。ひとり親の家ならなおさらだ。厚生労働省「全国ひとり親世帯等調査」によると、シングルの親は2016年、141万9000世帯あり、86.8%を母子世帯が占めた。その37.6%が年収200万円未満で、45.1%が生活を「大変苦しい」と感じている。

未来を先食いしてきたツケ

企業は非正規雇用者を、安い労働力あるいは雇用の調整弁として雇う。確かに短期的にはそうした雇用は企業の負担を軽くする。しかし、人件費を出し惜しんだツケを企業と私たちまでも払わされているのだ。安易に使い捨てた人たちに経験を積ませていれば、会社に、社会に、大きな利益をもたらしたにちがいない。しかし、雑巾のように人を使い捨てにしてきた。その「ツケ」の一つが、コロナ禍の女性たちの苦境。平成を通じて、日本の経済界は「未来を先食い」し続けてきたのである。

ついこの間まで「ふつうに」暮らしていた人が、日々を生き延びることで精いっぱいで考える余裕すら失い、将来設計を立てるどころではなくなっている。使い捨てにされる人たちは、いったん職を失えばもう、食べる手段が見つからないかもしれない。絶望感が、人を死に追いやる。

子どもたちも苦労を強いられる。経済難が親の不仲やDVに結びつく。両親が離婚する、自殺する、心中させられるかもしれない。そこまで深刻でなくても、我慢をしなければならない場面が増える。将来を夢を描くどころではなく、進学もおぼつかなくなる。子どもの貧困率が7分の1にものぼる国は「潜在能力を伸ばせない若者」を量産している。

民間団体が必死に支援を

貧困率が高く、自殺者が増えている日本で、女性たちは今、あえいでいる。年末に向け、民間の支援団体には女性からのSOSが殺到しているという。

「今日、子どもに食べさせるものがない」「今夜、寝る場所がない」そんな切羽詰まった女性たちの悲鳴に、当面の支援に、今、民間団体が必死に対応している。が、長期的にみたとき、動くべきは「公」しかない。人を使い捨てにするのではなく、将来の大きな実りにつなげるために育てることが必要だ。

非正規雇用で目先の利便、利益を求める時代は終わりにしなければならない。国は、人を安定的に雇う企業に支援を、活力ある社会を作るために高等教育の無償化を、そして労働者派遣法の廃止を検討する時期が来ている。

なによりまず、今困窮している国民に早急な支援を。

もう一度いう。今はいつの時代なのだ。社会保障が適切に機能しているとは、とうてい思えない。

阿古真理:生活史研究家。ジェンダーや「食」を中心にした暮らしをテーマとする。著書に『母と娘はなぜ対立するのか』(筑摩書房)、『料理は女の義務ですか』『小林カツ代と栗原はるみ』(ともに新潮新書)、『ルポ「まる子世代」』(集英社新書)など。

  • 取材・文阿古真理写真tenhana

FRIDAYの最新情報をGET!

Photo Selection

あなたへのおすすめ記事を写真から

関連記事