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旭川から医師が悲痛証言「医療崩壊は音を立てずに起こる」

「第2の孤独死」どこで、死ねばいいのか。これは日本中どこでも起こりうる悲劇だ

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北海道旭川市で、ついに「医療崩壊」が起きた。

新型コロナウイルスの感染者は国内で過去最多を更新し、12月12日、ついに1日の感染者数が3000人を超えた。

北海道第2の都市、旭川市では、市内の病院など9か所でクラスターが発生し、自衛隊の医療チームが支援に入った。

旭川市は日本最北の医療の砦だが、今この圏内に、機能している緩和ケア病棟はひとつもなくなってしまった 写真:共同通信社

「医療崩壊」した旭川で今、何が起こっているのか。旭川医科大学准教授で緩和ケア専門医の阿部泰之氏が、現場の悲痛な状況を話してくれた。

医療崩壊は静かに起きるんです

「『医療崩壊』というと、ひっきりなしに救急車が到着するとか、野戦病院のように屋外にテントが立てられ、慌ただしく人が駆けずり回っているイメージがあるかもしれませんが、じっさいは違います。もっと静かに起きているんです。今、旭川の医療は、音を立てずに崩れていっているのです。

現場の医師として、とても怖いです。焦るばかりで、どうしたらいいかわからないんです。この先どうなるのか、正直、想像もつきません。

クラスターが発生した吉田病院は、地域で認知症や介護が必要な患者さんを積極的に受け入れてくれている病院です。認知症の患者さんに『マスクつけて』『部屋から出ないで』と24時間お願いするのは無理なんです。まずはじめに言いたいのは、吉田病院はけっして悪くない、ということ。どこの病院も施設も精一杯やっています。

ぼくのいる旭川医大病院などの『急性期病院』は、ある種、花形のように語られることがありますが、その先端医療を支えているのが、今回クラスター発生した吉田病院のような慢性期患者さんをみる病院です。

それは厚労省の目指すシステムのひとつですが、こうした病院は、ふだんから予算も人手も足りていません。そのなかで『感染症対策』を求められている。

日本の病院は、感染症前提で作られていない

日本の多くの病院は、感染症が蔓延する前提で設計されていません。厚労省が勧める基準は、そもそも結核を基準にしていて、通常なら必要ないし、設備投資に莫大な資金がかかります。

なぜ病院で?と言われますが、病院でクラスターが発生したのは、日本の医療システム上、ハードもソフトも充分ではないことが理由です。これは全国どこでも起こる問題です。病院やスタッフは、精一杯なんです。

zoomでインタビューに答えてくれた阿部医師。疲労は限界にきているという

一部の報道では、急性期病院にだけ取材をして『クラスターが発生した病院からの重症患者が来て大変だ』というようなものがありました。取りようによっては『大変な人を押しつけられた』とも読めるのですが、そもそもそうした患者さんたちを吉田病院に送っていたのは急性期病院です。むしろ吉田病院が今まで面倒を見てくれていた患者さんが戻ってきただけとも言えます。

コロナを扱う大病院は、全部の病棟で人手が足りていません。コロナの場合は感染対策のためのフル装備が必要です。ふだん診ている患者さんよりも手がかかるため、他の病棟からも人員を補充しています。コロナの病床を確保するために、他の科の病床を減らさなければなりません。入院患者数に対して必要な看護師の数が決められていますが、今はそれが確保できないのです。

がん患者も、心臓疾患の方も、今までだったら入院してもらっていた方々がふだん通りには入院できない状況になっています。

そして、「第2の孤独死」が

コロナの患者さんが増えることで受ける影響は、コロナ病棟だけではありません。それによってどんどん別のところが、積み木が崩れていくように崩壊していっているのです。最後の積み木がいつ崩れるか予想がつきません。一人で奮闘してもどうにもならず、無力感に苛まれています。

そんななか入院できた患者さんは、孤独になってしまう。家族に会えないから。そのまま亡くなったら「第2の孤独死」です。入院させたら面会できませんから、自宅で看病したい、看取りたいというご家族もいます。そのための訪問診療医もキャパがいっぱいになってきています。

旭川は、北海道の北側かなり広い医療圏の中心です。日本最北の医療の砦なんです。にもかかわらず、緩和ケア病棟(ホスピス)は2つしかない。それが今回クラスター発生した吉田病院と旭川厚生病院でした。つまり、この地には緩和ケア病棟がゼロになり、安心して最期を迎えられる場所がなくなってしまいました。

入院できない、家で訪問診療も選べない。どこで死んだらいいのか。患者さんもご家族も不憫でなりません。無力感です。僕が悩んでもしょうがないんですが、なんとかならないかと悩んでいます。

音を立てて崩れたほうが、まだまし

今、病院はとても静かです。入院患者と面会するデイルームは使用禁止になり、ご家族も来なくなりました。エレベーターホールも、シーンとして誰もいません。でもベッドは満床なのです。満床だけど静まりかえっている。こんな状況は見たことがありません。音を立てて崩れていってくれたほうがまだましです。本当に怖い。ゾッとします。

日本の医療従事者は、平時でも休みが取りづらく、個々の献身的な使命感によって成り立っていました。コロナ禍に、その問題が一気に表出してしまいました。

ブルーインパルスはいらない

今、必要なのは、医療従事者の手当です。旅行してる場合じゃないし、感謝のブルーインパルスは飛ばさなくていいです。

大病院の医療従事者のなかには感染の可能性があることから自宅に帰らず診療を続けている人もいます。専門家の人手が足りません。結婚や出産などでリタイアした潜在的な医療従事者が現場に戻ってこられるような施策があれば…と思います。そのために、予算を取れないでしょうか。

それから、時限的な規制緩和。たとえば、急性期大病院の医師は特別な場合を除いて訪問診療ができません。ニーズは増えているのに診療報酬がないため仕事として動けない。ぼくは今、無償で訪問を続けています。一時的な規則の見直しにはお金はかかりませんから、『第2の孤独死』を避けて『安心して生きられる・死ねる場所』のために、検討できないでしょうか。

一般の方は、マスクを着用し帰宅時には手を洗うこと。布やウレタンではなく、ウイルス飛散や防御効果の高い不織布マスクを選んでください。それだけでもずいぶん違うはずです。

そして、頑張っている者を責めたり差別をするのではなく、励ましてほしい。クラスター発生病院や医療者への中傷を耳にするたび悲しくなります。特別なことではなくていいんです。個別に『ありがとう』と言ってくれるだけで頑張れます。対立するのではなく、それぞれの立場でできることを探していくしかありません」

地域医療を下支えしている病院や、集団生活をしている施設は全国にある。旭川で起きていることは、日本中どこでも明日にでも起こる、あるいはすでに起こっているかもしれないのだ。「医療崩壊」は、大きな音を立てない。静かに迫ってきている。

阿部泰之:1972年、長野県生まれ。医師・医学博士・旭川医科大学病院緩和ケア診療部准教授。旭川医科大学卒業後、整形外科医に。がん医療に触れるなか必要性を感じて緩和ケアの道へ。医療と介護の橋渡しのニーズをとらえ「医療者・介護者・福祉者のためのケア・カフェ®」を創設、代表を務めている。

  • 取材・文和久井香菜子写真共同通信社

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