桜を見る会、学術会議…共産党機関紙『赤旗』スクープ連発の裏側 | FRIDAYデジタル

桜を見る会、学術会議…共産党機関紙『赤旗』スクープ連発の裏側

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「桜を見る会」の疑惑などを報じた『赤旗』の日曜版。一連の報道で安倍前首相は窮地に立たされている
「桜を見る会」の疑惑などを報じた『赤旗』の日曜版。一連の報道で安倍前首相は窮地に立たされている

東京・代々木にある日本共産党本部。そこから徒歩2分ほどのビルの8階に、共産党機関紙『しんぶん赤旗』の「日曜版編集部」がある。教室二つほどの広さの編集部内に入ると、記者や校閲スタッフの熱気が伝わってきた。日曜版編集長の山本豊彦編集長が語る。

「日曜版のスタッフは40人ほどです。『赤旗』全体でも約300人。日曜版を含め政治部や社会部など21の部署がありますが、大手の朝日や読売新聞に比べると記者の数は一桁は少ないでしょう」

そんな小所帯の『赤旗』、特に日曜版が注目されている。あまり知られていないが、安倍晋三・前首相が主催した「桜を見る会」に関する一連の疑惑が公になったのは、日曜版の報道が端緒となっている。「桜を見る会」のスクープで、今年9月に「日本ジャーナリスト会議(JCJ)賞」の大賞を受賞。『赤旗』は過去にも「九州電力が関連会社に依頼した“やらせメール”」や「ワタミ 選挙ぐるみの“ブラック企業”」など、他社を圧倒するスクープを連発してきた。なぜ記者の数で劣る『赤旗』が、特ダネをモノにできたのだろう。山本編集長が話す(以下、発言は山本氏)。

「例えば日曜版には、大企業の広告が入っていません。タブーがないんです。『ブラック企業』報道(JCJ賞受賞)は、広告のしがらみがある大手マスコミにはできない具体的な会社名を出しての記事が評価されたんだと思います。また『赤旗』は、大手が所属する記者クラブにも入っていません。政府や省庁に慮ることなく、独自の視点で記事が書けるのです」

「桜を見る会」のスクープも、キッカケはささいなことだった。19年9月、記者が明け方眠れずにネットを見ていると、こんな市民のツイッターを見つけたのだ。

〈台風被害は無視して自分のシンパを集める「桜を見る会」には血税大判振る舞い〉

当時は大型台風の影響で、全国的に大きな被害が出ていた。記者が気になったのは「血税大判振る舞い」と言う言葉だ。「桜を見る会」で検索すると、共産党の宮本徹議員のこんなツイートがヒットした。

〈先の国会で、総理主催の「桜を見る会」への支出が予算の3倍に膨張していることを追及しましたが、予算に合わせて支出を減らすのではなく、支出に合わせて概算要求が1766万円から5728万円へ、3.24倍化〉

総裁選にも利用の疑い

共産党本部近くにある日曜版編集部。40人ほどのスタッフで紙面を作成している
共産党本部近くにある日曜版編集部。40人ほどのスタッフで紙面を作成している

調べると、第二次安倍政権発足後の13年以降、例年1万人前後だった同会への参加者が19年には約1万8200人に増えていた。

「ネット検索すると『後援会の皆様と参加』というフレーズや、安倍さんと写真に収まる支援者の画像が続々と見つかりました。安倍さんの支援者が、多数参加していたのかもしれない。『桜を見る会』は首相主催で税金が使われ本来、日本に功労、功績のあった個人が招待されます。そもそも集団が招かれることはありえません。ましてや、安倍さんが自身の支援者を大勢招いていたら、血税を使った公的行事の私物化でしょう」

日曜版の記者が安倍前首相の地元・山口県を取材すると、後援会の参加を裏づける証拠が次々に出てきた。招待状に、東京へのツアースケジュール、前夜に高級ホテルで行われた「懇親会」のお知らせ……。

「最初は、さすがに一国の首相がそこまであからさまなことはしないだろうと懐疑的でした。実際に取材すると、呆れるばかり。招待されていたのは、後援会ばかりでなく夫人の昭恵さんの知人にまで及んでいたんです」

取材を進めると、私物化の疑惑は他にも出てきた。山口県だけでなく、自民党の地方議員も多数参加していたのだ。

「例えば18年は、『桜を見る会』の前日に自民党の『都道府県議会議員研修会』が行われています。『桜を見る会』とセットです。多くの地方議員が、研修や同会で安倍さんと記念撮影をしていた。安倍さんは、12年の総裁選で石破茂さんに党員票で差をつけられています。研修会が行われた18年の総裁選では、逆に安倍さんが石破さんに党員票で圧倒しているんです」

「桜を見る会」は、52(昭和27)年から首相主催で開催されている。7年8ヵ月続いた安倍政権でも、当然毎年行われてきた。なぜ大手メディアは、同会の疑惑に気づかなかたのだろう。

「記者クラブに所属し毎年『桜を見る会』を取材していると、当たり前のこととして疑問を感じないのでしょう。『首相主催なんだから安倍さんの支援者が来ても不思議はないだろう』と。しかし、招かれていない『赤旗』なら『おかしい』と思います。税金が投入されているんです。支援者を優遇し、自身の総裁選に利用していたとしたら看過できません。

日曜版が疑惑の第一報を報じた当初(19年10月13日号)、他のメディアの反応は良くありませんでした。しかし共産党議員が国会で追及したり、ネット上で話題になるとワイドショーが追随。大手新聞社も報じるようになったんです」

共産党のスキャンダルは報じる?

19年に行われた「桜を見る会」の招待状、お土産の升、参加者用のリボン(日曜版編集部撮影)
19年に行われた「桜を見る会」の招待状、お土産の升、参加者用のリボン(日曜版編集部撮影)

「桜を見る会」については、東京地検特捜部も捜査を開始。前夜に行われた「懇親会」の費用約916万円を、安倍前首相側が補填した疑いが持たれている。『赤旗』の追及は、現政権にも及んでいる。今年10月には、菅義偉首相が日本学術会議が推薦した候補者の任命を拒否したことを報じたのだ。なぜ『赤旗』はスクープを連発できるのだろう。

「理由は三つあると考えています。一つは独自の視点です。日本学術会議の件は、候補者が共産党系だったから情報が早かったと言われていますが、真相は違います。『桜を見る会』と同様、公になっている事実が報道のキッカケです。任命を拒否された学者の一人が、フェイスブックに書き込みをしていた。それに記者が気づき、取材を始めたんです。誰でも入手できる情報でも、『おかしい』と思えるかが重要だと思います。

二点目はタブーのなさ。米軍基地でも原発でも大企業の問題でも、馴れ合いがないので気兼ねなく取材できます。

三つ目は共産党の強みです。共産党の支部は、全国に小学校の数とほぼ同数あります。地域に密着し、地元で様々なネットワークがある。例えば安倍さんの地元・山口県に行き、記者が『「赤旗」です』と名乗ってもスグに答えてくれる人は少ないでしょう。共産党の人脈を通じ『○○さんの紹介でうかがいました』と言うから信用される。また大きなネタを報じると、共産党の議員が国会で質問してくれるのも相乗効果になっています」

タブーなき報道を標榜し、国家権力を監視し続ける『赤旗』。最後に、イジワルな質問をしてみた。

ーーもし共産党が政権をとっても、権力を監視し続けられますか?

「現実的には、共産党単独で政権をとることは難しいでしょう。野党の連合政権になると思います。その時、政権が間違った方向に舵を切るようなら迷わず批判しますよ」

ーー共産党内のスキャンダルをつかんだら報じますか?

「問題が起きれば、対応は他の組織と同じです。一般企業でも、不祥事があれば内部で調査するでしょう。『赤旗』は機関紙で共産党の一部。その調査結果を、しっかり紙面に反映します」

大手メディアが政権との距離を縮め、権力監視能力が低下したと言われる昨今。問われているのは報道機関のあり方だ。『赤旗』の存在感は、日に日に強まっている。

「桜を見る会」の疑惑報道にたずさわった記者たち。粘りづよい取材がスクープに結びついた
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日曜版の山本編集長。14年から同職にある
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  • 撮影山崎高資

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