なぜいま人気?奥深き「ティーンズラブコミック」の世界 | FRIDAYデジタル

なぜいま人気?奥深き「ティーンズラブコミック」の世界

「ティーンズラブコミック」に描かれるセックスはあくまで女性のためー少女マンガ研究家が読み解く

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「ティーンズラブコミック」というジャンルがある。女性向けのセクシャルな物語を描いて人気の作品群だ。おもにネットで読まれているこのコミックは、なぜ「あり」なのか。少女マンガ研究家の和久井香菜子さんが分析する。

「読む」という行為に対する「性的同意」のなかで、女性好みのエロスを楽しむ 写真:ロイター/アフロ
「読む」という行為に対する「性的同意」のなかで、女性好みのエロスを楽しむ 写真:ロイター/アフロ

1970年代に黄金期を迎えた少女マンガ。自由な発想でさまざまな物語を紡がれていき、少女マンガからはBL(ボーイズ・ラブ)やレディースコミックなどのジャンルが生み出されていった。そして2000年代に新しいジャンルとして生まれたのが「ティーンズラブコミック」だ。

80年代中盤から、一部の少女マンガで「ちょっとエッチな」シーンが描かれるようになった。しかし本格的に「エロ」が描かれるようになったのは90年代、大人に向けて発信された「レディースコミック」から。少女マンガでは表現しない性的描写が多く、エロい漫画の代名詞のようになった。

しかし当時は「女性向けのエロってなんだ?」と模索をしていた時期。フェチもの、肉体描写のリアルなもの、奔放な性愛ものなど多種多様な作品が描かれた。作家のなり手も少なく、素人同然の作品があったりもした。

そうして作品を積み重ねていくうちに、女性読者が好む「世界」が、作り手にもわかってきたのだ。大人向けだからといって絵柄を大人っぽくする必要はなく、奔放な性を描く必要もない。女性向けのエロには、少女マンガと同じように美しくかわいらしい絵柄で、恋愛マンガと同じように男性の強い愛情という物語が求められているのだ。そうして2000年代にマンガの電子化と相まって発展したのが、ティーンズラブコミック(TL)だ。

そんな発展のなか、いくつかの定番ストーリーも生まれた。まずはその「定番TL」をジャンルごとに紹介しよう。

実世界ならもちろんNG「セクハラ的設定」

大塚あきら『部長の夜テクが凄すぎて腰が浮きます疼きます』(アムコミ)

各種TLのテーマの中でも圧倒的人気を誇るのが「社長」「上司」といった会社内の相手との恋愛。社長秘書になったら社長室の隣にベッドルームがあり襲われた、商品開発のために道具を使われイカされた、残業をしていたら襲われたというように、はっきり言って「それ普通はセクハラです」という内容が多い。

この作品は、飲みに行った店で会社の憧れのイケメン上司と遭遇し、誘われるところから関係が始まる。一晩限りと思っていたのに、どんどん部長「が」のめり込み、二人の関係を深めていく。特徴は、行為中に描かれる部長のモノローグや丁寧なテクニック。きっかけはどうあれ、そこには男性側からの献身的な愛がある。

ありえないほどのファンタジー設定で…

環レン『野獣シークと奴隷契約しました』(ぶんか社)

監禁ファンタジーものにも、一定の需要がある。金持ちの家に引き取られたり、学校で生徒会の生徒たちに閉じ込められたり、主人公はいろんな場所やしがらみから出られなくなり、ひたすらいい気持ちにさせられる。また、アラブの王子様「シーク」ものも定番だ。もとは女性向けの恋愛小説「ハーレクインロマンス」に頻出するキャラ設定だったが、それがそのままTLに移植された。

その2大要素を満たすこの作品は、主人公が義父の借金のために奴隷として売りに出されるが、シークの妻としてアラブの宮殿に住むことになり溺愛されるという、まあファンタジーもの。舞台は現代で主人公は日本人だが。シークは彼女を無理矢理破瓜する強引なところがありつつ、その後はサービス満点。注目すべきは、大量の贈り物で表現されたシークの心遣いや、主人公「だけ」を大事にしていること。つまりここにも、男性側からのあふれんばかりの愛がある。

何かしらのワナがある結婚ストーリー

日野塔子『絶倫エリートと身代わり新婚生活』(アムコミ)

結婚ものもまた一定の人気がある。ただし結婚と言っても「契約婚」だったり「政略結婚」だったりと、何かしらワナがある。「こんなに気持ちがいいの……初めて!」という驚きが描かれる必要があるため、主人公は処女だったり過去のセックスはつまらない・辛いものという設定が多い。

この作品は、結婚式直前に失踪した双子の姉の代わりにエリートと結婚することになり、そうと気付かない夫と甘ーい新婚生活を送る話。初夜で、ためらう女性に対して夫は挿入を求めない。そしてめちゃくちゃ前戯が長い。夫はエリートなのに優しく気遣いできて家事全般得意。つまりここには、ある意味「理想の夫」がいる。

TLでは、どの主人公も健気で真面目。「いい男に好かれてサービスされるのは、日頃の思いやりへのご褒美」かのようだ。それを受け取ることは主人公にとって当然の権利。そしてその権利は読者である女性にも与えられる。

これらのTL作品を一般のAVと比較すると明らかな違いがある。それは、女性が男性に一方的に「奉仕」するようなシーンが一切ないこと、男性が女性の体調や痛み(と快感)に気遣いがあること、そして必ずしも行為に挿入があるわけではないこと。なにより、きっかけはともかくセックスをすると、必ずそこから愛が生まれる。そして2人は心を通わせる継続的な関係になるのだ。

作品を読むという行為に対して「同意」が成り立っている

「性的同意」が少しずつ日本でも認知されるなか、TLでも同意のうえの行為が描かれるようになってきた。それでも監禁ものやセクハラまがいの表現が多いことで「女性はやはり無理矢理が好き」と思うのは早計だ。そもそもTL読者は、エロを求めて作品を読むのであり、そこですでに同意が成り立っているからだ。

これらの表現がもし一般媒体で行われたら、炎上必至、間違いなく問題になるだろう。もちろん、現実社会で行うのは犯罪だ。

女性が選ぶTLコミックのなかでの「強制的(にみえる)」性行為は、カップルが刺激のために行うのと同じ「快楽を求めるためのプレイ」だということを、男性はくれぐれも肝に銘じてほしい。

  • 取材・文和久井香菜子

    少女マンガ研究家。著書に『少女マンガで読み解く乙女心のツボ』(カンゼン)。ほかに『首都圏バリアフリーなグルメガイド』(交通新聞社)の企画・編集など、守備範囲は広い。視覚障害者による文字起こし事業、合同会社ブラインドライターズ代表。

  • 写真ロイター/アフロ

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