最終回を迎える衝撃作『娘の友達』は現代社会の闇がてんこ盛り
<2020年も多くの漫画作品が話題となった。中でも、特に衝撃的だったのがアラフォーサラリーマンと女子高生との背徳的な関係を描いた作品、『娘の友達』だ。12月31日に、「コミックDAYS」での連載が最終回を迎える本作。今年2月にFRIDAYデジタルで公開され、反響の大きかった担当編集インタビューを再掲する。>
家庭では父親として、会社では係長として、“理想的な自分”を演じるように生きてきたシングルファザーの主人公・晃介。だが、娘の友達である少女・古都との出会いにより、彼の人生は180度変化するーー。
アラフォーサラリーマンと女子高生の話ということもあり、「性的搾取を助長するという抗議が殺到した」とSNSで炎上した漫画『娘の友達』。結果、電話、メール、投書などによる直接の「抗議」自体はなかったというオチだったが、生きることに疲弊した中年サラリーマンが娘の友達に癒しを求め、“抱いてはいけない感情”だと知りながらも心惹かれていくという背徳的な物語は、ネット上で物議を醸している。
はっきり言っておこう。これは単なるエロ漫画でも純愛ラブストーリーでもない。禁断愛、不登校、毒親、鬱……etc.現代社会の闇に切り込んだ社会派漫画だ。
担当編集である週刊モーニング・小見山祐紀氏によると、そこには、ただ「気持ち悪い」だけで片付けてはいけないメッセージが隠されているという。
ーー「性的搾取を助長する」「犯罪教唆だ」などといった抗議が殺到したそうですが、その経緯を詳しく教えてください。
モーニングの公式ツイッターに、15秒くらいの簡単なPVをアップしたんですが、そのツイートに対して「閲覧制限などの、ゾーニングをしてほしい」「気持ち悪い」「PVの内容が不適切だ」など批判的なリプライが30件ほどありました。事実としては以上です。
そもそも本作は、読んでいただければ分かると思いますが、全く性的搾取を助長するストーリー展開になりません。現代社会で生きていると、社会規範として正しいかそうでないかに必要以上に捉われすぎてしまう。そんな人へ向けた問題提起なんです。
不登校の娘のために奔走するよき父親、仕事ができる部下思いの係長として“理想的な自分”を演じる晃介。一方で、親友のお父さんだと知っていながら彼に近づき、誘惑する古都。このふたりの関係こそ、まさに社会規範に捉われている人とそうじゃない人の対比として象徴的ですよね。今の世の中は、なんでもかんでも白黒はっきりつけたがる。もっと中間のグラデーションを認めてもいいんじゃないかと思うんです。
ーーなるほど。そんな対極にいるふたりの関係性を描くうえで、とくに注力している点は?
作家・萩原あさ美さんと僕との間で、話が噛み合わない瞬間が多々あるんですが、それをあえて決着させずに面白がることでしょうか。
例えば、僕が「古都ちゃんがこう言うってことは、晃介のこと好きだということですよね?」と聞くと「いや、別にそういうわけじゃない」と返ってきたり、「古都ちゃんのこの行動って裏があるんですかね」と言っても「いや、これはめちゃくちゃピュアな気持ちです」という風なやり取りがよくあるんですが、そんな自己と他者の価値観の違いをうまく作品の中に落とし込めたらと思っています。他者を理解しようとする気持ちを持ちながら、どこかで「最終的には無理だよな」と感じつつ歩み寄っていくような……。
ーーその戦略的な“ズレ”が、予測不能な展開を招き、焦燥感を煽るんでしょうね。小見山さんが思う作家・萩原あさ美さんの魅力とは?
まず、絵が抜群に上手い。特に表情がいい。はじめて萩原さんの絵を見たとき、「この絵で背徳的な男女の関係性を描いたらハマるだろうな」と直感的に思いました。そしてもうひとつは、とても信頼できる作家さんであるということ。打ち合わせで「こうしたほうが面白い」と編集側から提案をしても、自分が納得しないものは絶対に描かない。テーマを無視した展開主義に陥ることがなく、「萩原さんのフィルターを通していれば大丈夫」という信頼感があります。実写で例えると、アドリブ上手な演技派。どんな脚本でも、萩原さんが演じると絶対に萩原さんの作品になる。そんな漫画家さんです。
ーー表情豊かな古都や娘・美也の目とは一転、晃介は死んだような目をしていますよね。それにはどんな意図が? あの目が恐怖感を煽り、ゾクッとします。言葉を発しなくても心情がリアルに伝わるというか……。
そこが面白いところなんですが、萩原さんのセンスですよね。はじめは、おそらく無意識でそう描いてたんだと思います。最初の原稿があがったとき、僕も「晃介の目、もうちょっとちゃんと描いたほうがいいんじゃないですか?」と言ったんです。でも、結果そこを面白がってくれる読者が多かった。
ーー本作の見どころは?
意気込みになってしまいますが、このふたりの関係性って、読む人によっては、最終的にどんな結論に至ろうが気持ち悪い話なんです。人の考えを0から100に変えることは難しいけれど、そんな拒否反応のある人にも「こういう生き方も否定できなくない?」という問題提起の小さな種になるよう、説得力のある結論に向けて進めているところです。
ーー批判的な意見に関して、どう捉えていますか?
批判的な意見があるのは当然です。現実世界に重ねて見たら、どう考えても気持ち悪い話だと思います。でも、だからといって、最初からシャットダウンしてしまうと議論に至りません。「気持ち悪い」の一言で終わらせない。タブーを踏み越えてどこまで歩いていけるかという挑戦でもあると思っています。
ーー今後の展開を教えてください。
娘・美也、会社、晃介の両親、古都の母など、ふたりの間に立ちはだかる果てしなく高いハードルを、どのようにして乗り越えていくのか。現実の世界であれば、駆け落ちのようにすべて投げ出すという選択肢もありますが、それこそ批判的な人たちからすると「気持ち悪い」で終わってしまう。ひとつ言えるのは、なにも解決しないまま終わることはないということ。ふたりの関係が「成就」するにせよ、「終わる」にせよ、登場人物たちが前を向けるエンディングになると思います。
本作を読んで「気持ち悪い」と思うなら、なぜそう感じるのか? 必要なのは、自身の感情に問いながら本質を探ること。なんでもかんでも「きもい」の一言で終わらせてしまうネット社会が生んだ風潮に、議論する大切さを教えてくれる作品だ。
- 取材・文:大森奈奈