吉沢亮のベスト・アクト! 将棋映画『AWAKE』のエモさの理由 | FRIDAYデジタル

吉沢亮のベスト・アクト! 将棋映画『AWAKE』のエモさの理由

棋士になれなかった男が「コンピュータ将棋」でかつてのライバルに挑む。斬新で異端、なのに「王道」な一本

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新型コロナウイルス一色に染め上げられてしまった、2020年。当たり前が当たり前でなくなってしまった世界で、改めて、映画という「娯楽」であり「芸術」のありがたみを感じた方も多かったのではないか。そんな苦難の年を締めくくる一本を、何にするべきか……。個人的には、12月25日に公開される将棋映画『AWAKE』を推したい。

『AWAKE』2020年12月25日(金)より新宿武蔵野館ほか全国ロードショー。出演:吉沢亮 若葉竜也/落合モトキ 寛一郎/配給:キノフィルムズ/©2019『AWAKE』フィルムパートナーズ

<あらすじ>
奨励会(日本将棋連盟のプロ養成機関)の同期として、幼いころからしのぎを削ってきた英一(吉沢亮)と陸(若葉竜也)。だが、プロ入りがかかった大事な一戦を落とした英一は、自ら夢をあきらめ、奨励会を退会。失意を抱えたまま大学に進学するが、そんな折「コンピュータ将棋」と出会い、プログラム開発に没頭。やがて、彼の作り上げた将棋プログラム「AWAKE」は、棋士になった陸と再び対決することになる――。

「主人公が棋士ではない」異端の設定

『AWAKE』は、2017年に開催された「第1回木下グループ新人監督賞」のグランプリを受賞した脚本の映画化作。脚本応募総数241作品の頂点となる(ちなみに、準グランプリは今年中村倫也主演で映画化された『人数の町』)。

本作は、2015年4月に行われた「コンピュータと人間の将棋対決」である、将棋電王戦を基にしている。この一戦に採用された将棋プログラム・AWAKEの開発者が、かつて奨励会員だった、という驚くべき事実や、勝負の結末が実に劇的なものだったことから、当時話題を集めたそうだ。

©2019『AWAKE』フィルムパートナーズ

本作が異端なのは、将棋映画にもかかわらず、主人公が棋士ではないこと。棋士になれなかった若者をメインに据え、ライバルとして棋士を置くという構造になっているため、「持たざる者」「敗者」の物語の意味合いが強い。いわば、観客側に極めて近いところから出発するのだ。

たとえば今、マンガ好きの中で話題を呼んでいる『怪獣8号』は、怪獣の討伐隊に憧れていた男が夢かなわず、討伐された死体の清掃業者として生きる物語。そこから大逆転を図っていく姿が、共感を集めている。人気漫画『宇宙兄弟』も、会社をクビになった兄が宇宙飛行士になった弟に引っ張り上げられ、かつての夢だった宇宙飛行士を再び目指す物語。 今はマンガを中心に挙げたが、ある種のジャイアントキリング的展開は、読者や観客にとってカタルシスを感じられるものといえる。

ただし、将棋において難しいのは、持たざる者が描きづらいことだ。というのも、そもそも持たざる者はプロになれないため、強者と同じフィールドで戦うことができないから。 しかし『AWAKE』は、そうした限界を打ち破った。将棋界で生きられなかった男が、“異種格闘技戦”で成長したライバルと戦う――史実を基にしているとはいえ、何ともグッとくる内容ではないか。

©2019『AWAKE』フィルムパートナーズ

試合内容がどうであれ、今後もうプロになることはできない。かつての夢は、かなわないままだ。それでも、戦いの場に挑む主人公・英一。残酷な現実に挑む彼を見つめるのは、同じくプロになれなかったが、新聞記者として将棋の魅力を発信する同期、透(寛一郎)だ。この構図も、「プロになれなくても、青春は終わらない」という本作のテーマを浮き彫りにし、強く心に訴えかける。

主人公が「私たちの分身」になるエモさ

また、「将棋を知らない人にも届くように」という山田篤宏監督の気配りが、作品の“エモさ”をより高めている。棋士・藤井聡太氏の活躍や、メディアミックスされた漫画『3月のライオン』等々、将棋ブームが一般層まで広がっている感はあれど、将棋の細かいルール等は、知らない方も多いはず。そんな部分を鑑み、『AWAKE』では、将棋映画ではありつつも「一見さんお断り」の内容にはしていない。

本作は、序盤から「プロになるための厳しさ」「将棋に青春をかけても、報われない切なさ」をしっかりと描き出すことで、我々が人生経験として持っている「夢、挫折」とリンクさせる。たとえば、「受験」や「就職活動」など、競争を勝ち抜かなければならない事態はだれしもの前に立ちはだかるものだし、その中で選ばれなかった悔しさや絶望感も、理解できるもののはず。

©2019『AWAKE』フィルムパートナーズ

「自分には将棋しかない」と思っていても、才能は平等ではなく、勝ち続けなければプロにはなれない――。この残酷さは、将棋だけでなく様々な分野に置き換えて考えられるだろう。主人公を「私たちの分身」として応援したくなる構造が、巧妙に仕組んであるのだ。

さらに、映像表現にも注目いただきたい。山田監督はニューヨーク大学で映画を学んだ国際派で、従来の将棋映画にあった重厚で泥臭い表現とは一線を画す、メタリックな色彩とスタイリッシュなカメラワークが印象的な“今風”のエンターテインメントに仕上げた。背後から英一を回り込むように映すカメラ、画面のどこかに「青色」を忍ばせる色彩感覚など、画的な面白さが多々感じられ、視覚的にも飽きさせない。

現時点での吉沢亮のベスト・アクト

そして最終兵器といえるのが、人気若手俳優・吉沢亮の投入である。イケメン俳優として認知されている向きはあるが、類まれな美貌を抜きにしても彼の演技は多層的で、含蓄に富んでいる。もともと吉沢自身、ザ・イケメンな主人公キャラよりも、特異な役を好んで演じてきた。

特に、『リバーズ・エッジ』『青くて痛くて脆い』『さくら』など、闇を抱える人物を演じるとき、吉沢は抜群にハマる。死体を愛する青年だったり、炎上を仕掛けようとする学生だったり……。若き日のブラッド・ピットではないが、自らの美しさを封印し、欠落した人間を演じるとき――むき出しの演技力が、顔を出すのだ。

©2019『AWAKE』フィルムパートナーズ

本作においては、対人コミュニケーションを嫌がり、神経質で、集中すると寝食を忘れてしまうほど自分の世界に入り込んでしまうキャラクターを、見事に体現。もともと得意だった「目の演技」に、頭のかき方から立つとき・歩くときの前傾姿勢、キーボードを打つ際の手首のスナップ……身体性までも、完璧に役に合わせている。

このハマり具合は、現時点での吉沢亮のベスト・アクトと言っても過言ではないレベルで、吉沢本人の努力はもちろんのこと、彼の出演作を観まくって徹底的に研究したという山田監督の努力の跡が、明確に感じられる。

©2019『AWAKE』フィルムパートナーズ

ライバル役を演じた若葉竜也においては、棋士にしか見えないレベルにまでなりきっており、役者であることを忘れるほど。人と目を合わせず、抑揚のない早口でしゃべる感じや、対局中の振舞い方など、驚くほどに棋士そのものだ。

これまでにも『葛城事件』や『愛がなんだ』『台風家族』など、役柄ごとに全く違う演技を披露してきた演技派だが、いよいよ手が付けられない存在になってきた。なんでも、友人に棋士がおり、協力を仰いだというが、それにしたって、ここまでの完成度にはできないだろう。

そんな両者が“対決”するクライマックスは、ただただ目線を交わしただけでも、奮い立つような緊迫感と、感慨が押し寄せてくる名シーン。吉沢と若葉という役者同士ではなく、英一と陸という役の人生が再び交差する瞬間には、映画にしかない奇跡が詰まっている。

このように、『AWAKE』は「斬新」と「共感」、そして「王道」が好バランスで保たれているため、見逃すには実に惜しい逸品。2020年を笑顔で終わらせ、来たる新年を最高の状態で迎えるために――。ぜひチェックいただきたい!

『AWAKE』
2020年12月25日(金)より新宿武蔵野館ほか全国ロードショー

出演:吉沢亮 若葉竜也/落合モトキ 寛一郎/馬場ふみか 川島潤哉 永岡佑 森矢カンナ 中村まこと
監督・脚本:山田篤宏
将棋協力:日本将棋連盟
将棋電王戦協力:dwango DENSO DENSO WAVE プログラミング協力:コンピューター将棋協会(CSA)
製作:木下グループ 制作協力:ザフール 制作・配給:キノフィルムズ
【2019年/日本/日本語/119分/カラー/シネマスコープ/5.1ch】

  • SYO

    映画ライター。1987年福井県生。東京学芸大学にて映像・演劇表現について学ぶ。大学卒業後、映画雑誌の編集プロダクション勤務を経て映画ライターへ。現在まで、インタビュー、レビュー記事、ニュース記事、コラム、イベントレポート、推薦コメント等幅広く手がける。

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