「路上生活者を救う声掛けをしたい」支援25年のプロ

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11月下旬、キャプション: 路上生活者の女性が亡くなったバス停に供えられた花束(写真:時事通信)

路上生活をしていたと思われる女性が11月に東京・渋谷区「幡ヶ谷原町」のバス停で殺害された。バス停にいた女性が邪魔だったと一方的に恨みを募らせた実家暮らしの男性が、「痛い思いをさせればいなくなると思った」と袋に石を入れて殴り殺す衝撃的な事件だった。

野宿生活を余儀なくされる理由

2度と同じ悲劇を繰り返さないようにと、長野県駒ヶ根市議会議員の池田幸代さんは、路上生活を強いられる女性を支援するためのノウハウをフェイスブックやツイッター上で発信しつづけた。

池田さんの書き込みに、ユーザーは「どうやって声をかけたらいいのかわからなかった」「私たちが求めていた情報だ」と反応し、連投した最初のツイートがタイムラインに表示されたのは140万回を超えた。

池田さんは、日雇労働者の街として知られる東京・台東区の山谷や新宿区の公園などで90年代から野宿生活者の支援やアウトリーチ活動(支援が必要にも関わらず届いていない人に対して積極的に働きかけて情報、支援を届けるプロセス)をはじめ、路上生活を余儀なくされる女性たちを支援してきた。

「女性が野宿生活に至るのは、いろんな厳しさを抱えているからです。路上では性暴力の危険性もあり、女性ができる仕事も限られてきます。女性だけで語る場が必要だと感じたのです」

そこには、家庭が貧しかったために小学校までしか通えず、非識字だった女性がいた。若くして夫を亡くして姉の家に身を寄せたものの、とにかく働けと家を追われ新宿に行き着いた。別の女性は実兄からの近親姦が原因で、精神的に不安定だった。必然的に生活や雇用の不安定さにも繋がっていた。さらに軽度の知的障害がある女性も就職できず、家族から負担に思われるようになったため路上で生活するしか術がなかった。

もともと裕福でない家族に余力がなくなり、女性たちは一番の拠り所さえ奪われる。「この状況が今、一般社会に浸透してきているようだ」と池田さんは言う。路上にまで出てくる女性たちは、こうして様々な苦労を経て深刻さを抱え、多くの場合、人間関係でも手痛い経験をしてきた。

支援を求めて声をあげることは容易ではないが、一方で手を差し伸べられたからといって、一瞬にして見知らぬ人を信用するにはいたらない。一度で受け入れられる可能性はほぼゼロで、警戒心から支援の申し出を拒否されることは常にある。恐怖心を煽るため立って話さずしゃがんで(座って)話しかける路上の女性には女性が声をかける、などの配慮も重要だ。

大学で福祉を学び、24年以上野宿者を支援してきた経験から、池田さんが勧める第一歩はまずは「お節介な大阪のおばちゃん」になること。

初めは飴玉やチョコレート、寒い時期ならホッカイロなどを差し出しながら近づく。まずは自己紹介しつつ会話をするよう務めること。「一筋縄ではいかない、ということを心得てアプローチする」と言う池田さんは、定期的に姿を見せて言葉をかけることが支援につながる秘訣だとも話す。

こうした情報をフェイスブック上で投稿したところ、同じく生活困窮者支援をしている小林美穂子さん(一般社団法人つくろいファンド)や漫画家のさいきまこさんの目にとまり拡散された。

そこには、ホームレス支援全国ネットワークや監獄人権センターの情報、ビッグシュー基金で発行されている「路上脱出・生活SOSガイド」などのリンクを貼った。

若い頃から活動を続ける池田市議。「手を差し伸べたい」という気持ちをどうやって行動に移せばいいか、池田市議は日々、情報を発信している(撮影:野村和幸)

「困った人」とは、「困っている人」

一連の投稿を書くことを思い立った理由は二つある。一つは、路上の女性たちに対して何か支援のアクションを起こしたいと考えている人たちに呼びかけるため。もう一つは、当事者に届くようにとの願いからだった。

池田さんは現在、家出を免れず外に助けを求めた若年層の女性たちを支援する。SNSで発信することやインターネットに情報を書き込むことは彼女たちの言葉があったからだった。

彼女たちが一番先に助けを求めるのは、インターネットの検索機能。「未成年、家出、寝る場所」のキーワードを打ち込み、検索結果の上から順にアクセスする。こうした経験を通して、池田さんは「生活に困ったときの相談先や支援窓口の情報量が圧倒的に少なく、助けを求める先がわからない」と感じている。

家出を余儀なくされる若年層の女性たちには、高校進学を断念したり中退する人も少なくない。生活に困ったときに利用できる社会保障制度や、相談できる労働組合、その他の行政サービスなどについて義務教育期間中に教えて欲しいという声がツイッター上でも響いた。

新型コロナウイルス感染が拡大する中で、いつ生活が厳しくなるかわからない。幡ヶ谷の被害女性も派遣登録をして、真面目に働いていたようだった。事業自粛や人数制限などで、需要が激減する中で、女性のような労働者にしわ寄せがあったとも考えられる。こうして収入が減り、家賃が払えなくなったのではないだろうか。

情報さえあれば、住居確保給付金や生活が困窮したときに申請できる緊急小口資金などが利用できた可能性が高い。池田さんはこう続ける。

「とにかく使える行政支援を使って、家のあるうちに繋がっていれば、家を失うことも撲殺されることもなかったのではないでしょうか。いま、彼女のように身につまされている人たちが確かに増えています」

さらには、非正規労働者の半分以上を占め低賃金にもあえぐ女性は、こうして窮地に立たされることが多い。

どこの地域にも野宿寸前の予備軍がいる。「困った人は困っている人」。池田さんは以前、こんな標語を聞いたことがある。 周りが「困った」と思う人は、本人が何かしらに困窮していることだ、という意味である。

こうした人を放置してはいけない、と池田さんは訴える。加害者の男性も同様。地域では「変わった人(困った人)」だとの評判だったと報道されている。

政治や社会がやるべきことは、排除を目的とするような政策を止め、社会保障制度の使いやすさを保証すること。さらには、政治家は貧困者バッシングをしないことである。

役所の窓口は市民にとって敷居が高いと聞いた。池田さんは地方自治体議員として、全国の地方議員をつなぐ「ローカルセーフティーネットワーク」を拡大するために協力者を探している。各地で必要としている人たちが行政の支援を利用できるよう、その敷居を低くするための議員のネットワークだ。また今後は、生活困窮時の緊急対応や支援窓口などについて議会でも取り上げようと予定している。

「幡ヶ谷襲撃事件の加害者も被害者も局所的に争うように仕向けられているだけです。二人は社会の被害者。いろんなことが積み重なってこうした不幸な、辛い出会いが起きた。私たちはみな加害者を免れない。だからこそ、私たちがともにこうした状況を変えていかなければならないんです」

池田さんは、加害者には、他の人には姿が見えなくされている被害者の存在がはっきりと見えていた、と見る。そしてこう分析する。

「自分の不甲斐なさ至らなさを投影して、いたたまれなくなったのではないか。いつ排除されるかもしれないという自分の姿を彼女に見出して攻撃したのではないかと思います」

「自分が見える世界は窓からだけだ」と言っていた加害者は、社会から異端視され邪魔者扱いされてきたのかもしれない。彼女に自分を投影した。

自殺と他者への攻撃は紙一重なのだ。

池田さんはこう言う。

「私たちは被害者も加害者も生まない社会を作らなくてはならない。コロナ感染拡大の中で、貧困が深刻化し、路上に出る人が増える。そういう人たちが殺されずにいられる取り組みが求められています」

撮影:野村和幸
撮影:野村和幸
新聞社勤務、田嶋陽子氏、阿部知子氏、福島みずほ氏の公設秘書などを経て、2019年の統一地方自治体議員選挙で駒ヶ根市議会議員に(撮影:島崎ろでぃー)

◆ホームレス支援全国ネットワークhttp://www.homeless-net.org/

◆路上脱出・生活SOSガイド https://bigissue.or.jp/action/guide/

  • 取材・文松元千枝

    ジャーナリスト。人権や労働など社会的正義に関する問題を主に取材する。共著に『マスコミ・セクハラ白書』(文藝春秋)、『マンガでわかるブラック企業』(合同出版)など、共同翻訳には『ストする中国』(彩流社)があり、2021年1月には共同翻訳『世界を動かす変革の力——ブラック・ライブズ・マター共同代表からのメッセージ』(明石書店)を出版予定。

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