山手線「開かずの踏切」廃止で見えるJR東の重要な転換点 | FRIDAYデジタル

山手線「開かずの踏切」廃止で見えるJR東の重要な転換点

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事故発生の予防だけではない

山手線の駒込~田端間に「第二中里踏切」という踏切がある。目白~池袋間の「長崎道踏切」が2005年に廃止されて以降、山手線に残る唯一の踏切である(山手線に並行する山手貨物線には踏切が存在する)。

そんな第二中里踏切について11月26日、東京都北区とJR東日本が「廃止に合意した」というニュースが飛び込んできた。

第二中里踏切はピーク時に1時間あたり47分も開かない「開かずの踏切」としても知られ、2017年には国土交通省から「改良すべき踏切道」に指定されている。報道によれば、踏切から約200m北東に陸橋を建設する都の計画が今年度中に国交省から認可を得られる見込みとなったため、完成後の踏切の廃止に合意したという。

陸橋の建設はJR東日本が担当し、完成には10年ほどかかる見込みで、陸橋自体の完成は、早くても2030年ごろになる見通しだ。

線路と道路が交差する踏切は、鉄道にとって事故の発生しやすい危険個所のひとつだ。交通安全白書によれば、全国で発生した踏切事故の件数は1999年の465件から、2009年は327件、2019年は208件と減少傾向にあるが、依然として2日に1回以上のペースで踏切事故が起きている計算だ。

そもそも東京は踏切が多い街である。少々古いデータになるが国土交通省によれば2014年度末時点の東京23区の踏切個所数は620か所で、面積で東京を上回るニューヨークの48か所、ベルリンの46か所、ロンドンの13か所、面積でほぼ同等のソウルの16か所と比較して、文字通り桁違いに多い。線路を高架化または地下化して踏切を除去する連続立体交差化事業も進んでいるが、多額の費用と長時間を要することから、踏切問題の抜本的な解決には至っていない。

踏切廃止のニュースは、将来的な鉄道の自動運転化ともリンクする。JR東日本は「第二中里踏切の廃止は安全性向上を目的としたもので山手線の自動運転化とは直接関係するものではない」としているが、一方で踏切の廃止が結果的に自動運転実現の追い風になることは否定しない。

JRが打ち出したビジョン「変革2027」の中身

2018年7月、国内の人口減少を含めた社会情勢の変化を先取りする形で、JR東日本は2027年を目標年次とするグループ経営ビジョン「変革2027」を発表した。その中で「ドライバーレス運転の実現」を掲げ、2018年12月には山手線でATO(自動列車運転装置)を用いた自動運転の試験を行っている。

ATOとは出発ボタンを押すと列車が発車。信号や制限速度に従って走行し、駅に到着したら自動的に停車する装置だ。機械が運転操作を担えるようになれば、運転士は要らなくなる。

自動車の自動運転とは異なり、鉄道の自動運転は技術的にはほぼ完成されており、「ゆりかもめ」「日暮里・舎人ライナー」「横浜シーサイドライン」など一部の新交通システムでは20年以上前から無人自動運転を行っている。これらの路線では駅にホームドアが完備され、人や車両が立ち入ることのできない高架線を走ることから、人間による安全監視がなくても安全を担保できるという理屈だ。

山手線でも既に、東京駅、新宿駅、渋谷駅を除く全駅にホームドアが設置されており、残る2駅にも順次設置を進めていく計画だ。しかし、物理的に独立した輸送機関である新交通システムとは異なり、他路線と線路や駅がつながっており、踏切も残る山手線では完全無人運転の実現は困難だ。

そこでJR東日本が目指すのは、動力車操縦者免許という電車の運転免許を持たない係員が先頭車両に乗り込み、前方の安全を確認しながら、万一の際は非常ブレーキを操作するという形のドライバーレス運転だ

同社の社員約53000人中、運転士は約7300人にも達する。運転士の養成には厳しい適性検査と1年近い講習課程を経て、難関試験に合格する必要があり、長い時間と多額の費用を要している。運転資格を持たない係員の添乗で電車の運行が可能になれば、運転士の養成コストを引き下げることが出来る上、要員確保のハードルが下がり、限られた人材の有効活用が可能になるといった効果が期待できる。

運転士を添乗員に置き換えるドライバーレス運転では人員削減の効果は少ないが、この他にも車掌が乗務しない「ワンマン運転」化も同時に進める方針で、乗務員の省力化は今後ますます進むことになるだろう。

JR東日本は2020年度の新卒採用・中途採用から、従来「プロフェッショナル採用」と称していた鉄道現業職の採用枠を「エリア職」に改称している。プロフェッショナル採用は「鉄道事業を支えるプロとして、地域に密着し、現場第一線で活躍」する職種とされていたが、エリア職では「東日本の各エリアを軸にしたビジネスフィールドで地域社会の発展に深く貢献」する職種とされており、「鉄道事業」の文字が消えている。つまり今後は、鉄道の省力化によって浮いた人員を、鉄道以外の分野にも広く活用していくというメッセージである。

その最中に降って湧いたのが今回のコロナ禍であった。鉄道会社を取り巻く環境は急激に変化した。JR東日本が掲げた「ドライバーレス運転の実現」は、人口減少社会の進展により2030年頃に訪れる利用者と担い手という2つの不足への対応を見越したものだった。

ところが新型コロナの影響で鉄道利用者は大きく落ち込み、10年後に訪れるはずだった未来が突如、眼前に現れてしまったのだ。

鉄道事業を持続可能なものとするためには、ドライバーレス運転など省力化を一層強く推し進める必要がある。JR東日本は山手線と並行して新幹線のドライバーレス化に向けた技術開発も進めており、2021年11月から新潟駅と車両基地を結ぶ約5kmの区間で回送列車を用いた試験走行を実施する予定だ。全線が高架化または地下化され、独立したシステムである新幹線の方が、ドライバーレス運転の導入は早いとの見方もある。

JR東日本は4月から9月の上半期で2643億円もの赤字を計上した。鉄道の業績回復には時間がかかる見込みで、JR東日本の深澤祐二社長は民放のインタビューで2027年に運輸業と非運輸業の割合を現在の7対3から5対5まで引き上げる考えを示している。

そのためには鉄道から非鉄道へ人材のシフトが重要になる。山手線の自動運転化を始めとする運転業務の省力化は、JR東日本の将来を左右する重要な布石といえるだろう。

  • 取材・文枝久保達也

    (鉄道ジャーナリスト)埼玉県出身。1982年生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)に11年勤務した後、2017年に独立。東京圏の都市交通を中心に各種媒体で執筆をしている。

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