芸歴20年の芸人が競い合う「お笑い成人式」の舞台ウラ | FRIDAYデジタル

芸歴20年の芸人が競い合う「お笑い成人式」の舞台ウラ

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無冠の成人芸人、集結

「M-1グランプリ2020」は、マヂカルラブリーの優勝で幕を閉じた。総勢5081組の頂点にたった彼らは、歴代王者の霜降り明星やミルクボーイのように各種メディアを席巻するに違いない。

その大会の熱気が一段落した元日の夕方、BSフジにて開局20周年を記念し「お笑い成人式」なる漫才の特別番組が放送される。

その名の通り、出演資格は芸歴20年以上であること――若手芸人を対象にした「M-1」とはまったく反対のこの大会。ネタを披露するのは、「無冠の成人芸人たち」12組24名だ。

三拍子、磁石、スパローズ、タイムマシーン3号、東京ダイナマイト、Hi‐Hi、マシンガンズ、ラフ・コントロール、エルシャラカーニ、オジンオズボーン、バッドボーイズ、ロケット団…このラインナップに妙な胸の高鳴りを感じてこそ、お笑いファンといえるだろう 。

司会を「M-1グランプリ2002」王者のますだおかだ・岡田圭右、審査員長を相方の増田英彦が務め、観客投票を交えてナンバーワンの座を争う。

「『まだ俺たちにも出られる大会があるんだ!』って(笑)。第7世代が台頭してきたことによって、自分たちの世代の芸人があふれまくっちゃった。もう需要がないだろうと思っていたら、こっち側だけの大会が開かれるなんて」

そう笑うのは、演者の一組である三拍子・高倉陵だ。ツッコミの久保孝真も「拾う神っているんですねぇ」と頷く。芸人界でも評価の高い二人の意気込みを聞く前に、まず、この大会が開催された経緯について触れておきたい。

第7世代とは極北に位置するだろう実力者たちによる大会が、なぜ開催されるにいたったのか? 企画・編成を務めるBSフジ編成局編成部企画担当部長・谷口大二氏に尋ねると、「街角の自動販売機を想像してみてください」と思わぬ答えが返ってくる。

「コカ・コーラやポカリスエットといったおなじみのメジャー商品だけではなく、そのまわりに、大人気ではないけども、そこそこロングセラーかつ少しクセのあるドリンクが数合わせで配備されています」

いつも買おうとは思わないけど、見たことがあるし、飲んだこともある。美味しかった記憶もある。あの頃飲んだジュース――それが『爆笑オンエアバトル』、『爆笑レッドカーペット』などで視聴者を笑わせていた芸人たちだ。

「そういったドリンク類は、東京でいえば港区や中央区、千代田区の自動販売機では、めったにお目にかかることはなくなったかもしれませんが、下町の台東区や墨田区では健在で、今も愛され続けている。しかも、消費税10%のご時世にもかかわらず、80円のものもある(笑)。

主流ではないかもしれないけど、飲みたくなるし、見かけるとテンションがあがったりもします。それに、味…つまり技術や面白さは保証されている。そんな芸人さんたちが集まって、芸を競い合えば面白いのではないかと考えました」(谷口氏)

絶望と希望と

売れる、活躍する。それらの言葉は、何をもってそう言い切れるのか? 無冠の成人芸人たちは、いまの自分たちの境遇をどう考えているのだろうか――。

冒頭に登場した三拍子は、約20年前に東京アナウンス学院の「お笑いタレントコース」で出会い、コンビを結成。卒業後の’03年は、ネタ芸人ブームの追い風に乗って、『笑いの金メダル』などで頭角を現すようになる。『爆笑オンエアバトル』での戦績は22勝3敗。沢村賞レベルだ。

(高倉)「その頃って何も考えずに、このまま売れるかどうかも分からないままいくんだろうな…って思ってました。その頃なりに努力はしていたと思うんですけど、やっぱり先輩や後輩と遊んでたりもしていた。いま思えば、あの時もっと頑張れたんじゃないのかなって。そういうことが、この仕事を続けていくうちに分かってくるんですよ」

決して湿っぽい口調ではない。だが、当時彗星のごとく現れたイメージすらある三拍子からそんな言葉が飛び出すと、言葉の重さをいやおうなしに感じてしまう。失礼を承知で、「いつごろから“分かってきた”と感じたのか」と尋ねた。

(高倉)「やっぱりM-1グランプリの出場資格を失ったときですね。僕らで言うと、5年前。M-1に出られなくなったとき、なんでお笑い芸人をやっているんだろう?って、続ける意味みたいなものを考えました。相方には家族もいますから、今後どうするかといった話を、最後のM-1が終わった後に初めてした記憶があります」

その言葉を隣で聞いていた久保は、「高倉さんのバイタリティーがなかったら僕はやめていたと思います」と振り返る。

(高倉)「M-1が終わって、あと1年やってなにもなかったらやめようっていう話をしました。今まで頑張っていなかったわけじゃないけど、せめてこの1年、もう一度ギアを入れなおそうと」

三拍子の高倉(左)と久保

振り返ると『爆笑オンエアバトル』や『笑いの金メダル』の終了に伴い、三拍子の仕事も減少していった。高倉は、カラオケ店やマンガ喫茶などでアルバイトをすることで、糊口をしのいでいたと話す。あえて顔バレしたいがために自らチラシを配り、「三拍子がバイトをしている」と気付かれるように振る舞っていたというから、天性のバイタリティーだろう。

その甲斐もあってか、2014年には『THE MANZAI』で決勝進出を果たす。三拍子健在をアピールした格好だが、“決勝進出”の看板ではブレイクには至らなかった。そして2015年、最後のチャンスを賭けたM-1への出場資格を失い、解散危機にまで発展する。裏を返せば、それほどまでに芸人たちにとって、『M-1グランプリ』は絶対的なものである、ということだ。

(高倉)「新たなモチベーションを作らなければいけないと思って、45歳までに日本武道館で単独ライブをやるという目標を立てることにしたんです。僕たちは2か月に一度くらいのペースで単独ライブを開催しているので、だったら目標は大きく、武道館でライブだ!と」

(久保)「あと5年しかないけど大丈夫ですか?」

(高倉)「(頷く)。決めることで、そこに向けて何が必要かが見えてきたことは大きかったです。今までは漠然と“売れたい”という言葉を使っていたんですけど、『売れるってなんだろう?』と。漠然と願うより、武道館ライブを現実させるためには、どんなことをして、どうお客さんを増やせばいいか、どんな番組に出たら可能性が高くなるか。そういうことをようやく考えられるようになりました(笑)。

テレビのオファーがない、オーディションの数が少なくなっていると言われても、自分の目標があるから、そこまで悩むこともなくなったと思いますね」

(久保)「たしかに活動がやりやすくはなりましたよね」

2018年に放送された「ENGEIグランドスラムLIVE」で、お笑い芸人1000人に「芸歴15年以上でその面白さがまだ世間に伝わっていないが、同業者から見て本当に面白いと思う芸人は?」とアンケートを取った際、一位に選ばれたのが三拍子だった。実力は折り紙付き。だが、二人は「割り切りは、まだついていないですね」と、これまでより一つ低いトーンで語る。

(高倉)「テレビがどうとかじゃなくて、人気がほしいっていう気持ちはやっぱりある。そこは諦めてない。M-1に出れなくなったことで4分ネタを磨くことに固執する必要がなくなったため、自分たちが面白いと思える漫才をいろいろな形でできるようになった。

まだ自分たちにはチャンスがあると思っているから、健康になる意味と、願掛けも込めて、去年からはお酒もやめました。自分が思うダメな理由を全部潰そうと思って(笑)。ひげが濃いのもダメだと思って脱毛もやりました」

(久保)「ひげの濃さは関係ないでしょ」

(高倉)「いや、言い訳できないぐらい全部やってみたい。全部やってみて他の手段が考えられなくなったら、止まるのかもしれない。テレビに出てないから売れてないと言われても、そこに関しては胸を張れるところがあると思ってますね。漫才を見てもらったら分かる――そういう気持ちはブレていない」

同期が売れまくっても

同じ日、「お笑い成人式」に出場したもう一組のコンビにもインタビューを行った。

ラフ・コントロール。吉本のお笑い養成学校「NSC」の東京5期生で、同期にはピース、平成ノブシコブシ、大西ライオンなどがいる。ボケの重岡謙作は、芸歴20年目を迎えた心境をこう明かす。

「まさか20年も売れていないなんて想像していなかったですよ。ただ、最近は自分たちが楽しめるネタを作れるようになってきた。売れるためにというよりも……それはダメなことなのかもしれないけど、お笑いが好きだからやっている気持ちの方が強くなってますね」

ラフ・コントロールの重岡(左)と森木

こちらが驚くくらい、気持ちの良い、通る声で重岡は話す。ツッコミの森木俊介もこう付け加える。

(森木)「40代って立派な大人だなって考えてはいるけど、境目がよく分からなくなってきているというか。40歳を過ぎても若手と呼ばれることもある。楽屋では芸歴20年を越える人たちがミニコントみたいなことをしているし。その一方で、ここからドカンと売れるのは難しいことも分かっている。それぐらいの分別はつくようになっている。だから、いまはもう“ハプニング待ち”です(笑)」

NSCでは、ネタが優秀なコンビやピン芸人は、選抜コース(メンバー)に選ばれ、若いころからチャンスが増えるシステムになっている。二人は入学から約半年後、選抜コースに抜擢された。当時は、売れる可能性があると判断されたわけだ。が、エリートコースに選ばれても、活躍が約束されているわけではないのが芸人人生だ。

(重岡)「ピースとノブコブが、ガっ!と売れていったときは悔しすぎてテレビを観れなかったです。彼らがテレビに映ったら、チャンネルを変えていました。『ピカルの定理』は一度も見たことがないです。これを普通に観るようになったら、お笑いをやめたほうがいいなと思っていましたから」

だが、その心境に変化が訪れる。

(重岡)「又吉が芥川賞を取ったあたりから、いろんな人の生き方があるんだなって思い始めて。笑いを武器にして売れることだけが一つの目標ではなくて、どう生きるかを考えた方がいいのかなと。

少し前に、僕とノブコブの吉村、又吉、5 GAP の久保田、グランジの遠山の5人で飯を食いに行ったんです。又吉は作家、久保田はヨガインストラクター、遠山はラジオのMCとひとつの柱を持って生活しています。僕も現在は、芸人として活動する一方で、清掃会社をやっている。純粋にお笑い一本で食っているのって、吉村だけだなって話になって(笑)。

悔しい思いもしてきたけど、芸人という生き方はひとくくりにはできない。いろんな形がある。だったら、僕なりの芸人の形を作っていってもいいだろう、と」

重岡が語るとおり、彼は2019年春に、エアコンの清掃会社「株式会社世田谷クリーン」を設立する。「お金がないから芸人をやめるしかないという仲間がいる。だったら、若手が働けて、なんとかお笑いを続けられるだけの稼ぎを得られるような場所を自分で作ればいいと思ったんです。そうでもしないと、食えない芸人が世の中にばらまかれ続けるでしょうから」と豪快に笑う。

お笑いを続けるために会社を作る―― 逆説的で、一見強烈なボケに思えるかもしれない。だが、「働く場所はあるから死ぬまでやりたいことをやってくれと伝えています。僕自身もそうだから」。重岡は、大真面目だ。

お笑いは、伝統芸能の世界と違って、芸歴が長いからといって重宝されるわけではない。売れていようが、売れてなかろうが、マグロのように泳ぎ続けなくてはならない。しかも、泳ぎ続けたからと言って報われるわけでもない。

前述の三拍子・久保が笑いながら説明する。

(久保)「やめるやめないでいうと、お笑いってあまり良い仕事ではないと思います。売れてなくても面白いんですよ、お笑いの世界は。面白い人が多いし、仕事自体が面白い。売れてなくても、楽しいからやめられないんですよ。だから、僕は芸人をやめた人って、ちゃんとしてる人だと思うんです。やめてない人……つまり僕らは、ちゃんとしてないんです」

この日の楽屋は、40代芸人たちによるサイドビジネスの話で盛り上がったそうだ。あいかわらずくだらない話で花が咲く。ただ、「子どもの学資保険の話なんかも話しますよね。どうしてる? とか」。ふとした言葉から、20年の物語が伝わってくることも事実だ。

「お笑い成人式」は、同窓会のような牧歌的な雰囲気に包まれることはない。芸歴20年以上のおじさんたちが口角泡を飛ばし、爆笑をかっさらい、競い合う姿は、現在進行形のお笑いシーンにも、寄席にも存在しない、ここでしか紡げないドラマが渦巻いている。もう、目が回るくらいに。

BSフジの谷口氏は、「20年以上も漫才をやっていて、長らくコンテストからも遠ざかっている出演者たちの真剣さ、緊張感を引き出す舞台にしたい」と、継続的な開催を視野に入れている。

「いずれBSフジオリジナルのお笑い番組や賞レースの創設につなげていければと考えています。無冠のお笑い芸人たちが、今後も芸を磨いていくキッカケ作りになるようなイベント・番組として組織立てて進めてていけたらと。人生100年時代、芸歴20年以上の『お笑い成人式』優勝者が、40歳を過ぎでブレイクして、長く愛される人気者になっていったら、それは素晴らしいことだと思います」(谷口氏)

芸人たちにとって、「M-1グランプリ」が青春の舞台だとしたら、「お笑い成人式」は 白秋の舞台だ。彼ら彼女らの生き様を見る機会になる日が待ち遠しい。

<BSフジ開局20周年記念>『お笑い成人式ライブ』
2021年1月1日(金) 17:00~18:55
https://www.bsfuji.tv/seijinshikilive/pub/

  • 取材・文我妻弘崇

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