バイオベンチャー「テラ」の株価が暴落しているワケ | FRIDAYデジタル

バイオベンチャー「テラ」の株価が暴落しているワケ

メキシコで開発した新型コロナ治療薬「プロメテウス」は本物だったのか

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画面右端が新型コロナで亡くなったオルティス医師。中央右がセネ社の藤森徹也社長(当時)で、中央左がメキシコ・イダルゴ州知事だ(画像は「国際新型コロナウイルス細胞治療研究会」のホームページより)
画面右端が新型コロナで亡くなったオルティス医師。中央右がセネ社の藤森徹也社長(当時)で、中央左がメキシコ・イダルゴ州知事だ(画像は「国際新型コロナウイルス細胞治療研究会」のホームページより)

12月21日、メキシコで一人の医師の訃報が伝えられた。かつてトラスカラ州アピサコ市で市長も務めたアレックス・オルティス医師が亡くなったのだ。その1週間前に新型コロナ感染症を発症し、治療の甲斐なく、多臓器不全を起こして急逝したという。

実はこのオルティス医師はその晩年、日本のある会社と深い関係を築いていた。

2020年4月、ジャスダックに上場している東京大学医科学研究所発のバイオベンチャー「テラ」社(東京都新宿区、代表・平智之氏)と「セネジェニックス・ジャパン」社(以下、セネ社、東京都千代田区、代表・藤森徹也氏=当時)は、共同で幹細胞を用いた新型コロナ特効薬を開発すると発表した。

2社は日本で「国際新型コロナウィルス細胞治療研究会」なるものを立ち上げ、その共同発起人には鳩山由紀夫元総理とバラク・オバマ前米大統領が名を連ねるとして、オンライン会見を開催した。

「国際新型コロナウイルス細胞治療研究会」の設立当初、共同発起人としてアナウンスされた日米元首脳。現在は同会のホームページから削除されている
「国際新型コロナウイルス細胞治療研究会」の設立当初、共同発起人としてアナウンスされた日米元首脳。現在は同会のホームページから削除されている

さらに5月下旬にはメキシコのトラスカラ総合病院で、冒頭のオルティス医師を責任者として新薬の治験を実施中とも公表。その結果、テラ社の株価はストップ高が続き、2020年春には1株100円程度だったものが、6月9日には2175円にまで急騰した。実に20倍である。

しかし、FRIDAY6月26日号掲載の「東大医科研発の創薬ベンチャー 新型コロナ治療薬開発は本当か?」という記事で、私がトラスカラ総合病院に取材したところ、同病院の事務員が「アレックス・オルティスという医師はうちの医療部門には存在しません。日本の会社による(新型コロナ感染症の)治験や診療法の話も聞いていません」と回答。

記事の掲載とともに、治験の疑問点がクローズアップされ、テラ社の株価は半値程度にまで暴落した。全世界の治験情報を網羅するサイト『Clinical Trials』にもそれらしき登録は一切なく、疑念はさらに深まったのだった(なお、大阪大学発のバイオベンチャーで、新型コロナワクチンの開発を進めるアンジェス社の治験情報は同サイトに登録されている)。

それでもテラ社とセネ社は「メキシコで新薬の開発が進んでいる」と強弁してきた。7月下旬にはイダルゴ州知事オマル・ファヤド氏が、テラ社とセネ社の新型コロナウィルス重症患者用治療薬『プロメテウス』による幹細胞治療で、重症患者30名中26名が回復したと話す動画をホームページで公表。すると、再び株価が上昇、1438円まで回復した。

しかし、イダルゴ州知事の演説を検証すると、「ファセ・ドス」(フェーズ2)が完了したと2本の指を立てて強調しているにもかかわらず、日本語字幕を見るとまるで治験が最終段階であるフェーズ3まですべて完了し、明日にも販売できるかのように誤解させるものだった。

そのため、翌営業日には東証の注意喚起が行われ(業務提携の経過に関する不明確な情報が生じているため)、再び株価はストップ安となった。

さらに東証からは12月1日付で「適時開示すべき事項について直ちに開示が行われず、 改善の必要性が高いと認められるため」として、改善報告書の提出命令が出された。

テラ社の社外取締役とセネ社の代表取締役を兼任していた藤森徹也氏は、12月2日付でセネ社の代表取締役を辞任している。11月下旬から「国際新型コロナウィルス細胞治療研究会」のホームページにメキシコでの「現地レポート」を連続して投稿していた藤森氏だが、12月1日を最後に更新がぱったりと止まった。

テラ社は12月15日が締め切りの改善報告書を提出したものの、東証が納得のいくものではなく、「内容が明らかに不十分」として1月7日を締め切りとして再提出が命じられている。

テラ社とセネ社によれば、共同開発された新薬プロメテウスは、30名の重症患者のうち、26名が回復する画期的なものだった。しかし、オルティス医師は自らも幹細胞治療を受けたにもかかわらず、不幸にも新型コロナで命を落とした。

12月22日時点で、テラ社やセネ社、国際新型コロナウィルス細胞治療研究会から「治験責任者」だったはずのオルティス医師への追悼の言葉はない。肝心のオルティス医師をプロメテウスで救えなかったテラ社の行く末は混沌としている。

中央左がテラ社の平智之社長。民主党の元衆議院議員で、鳩山元首相と親しいという。中央右がセネ社の藤森徹也社長(当時)。現在は退任し、テラ社の社外取締役を務める(画像は「国際新型コロナウイルス細胞治療研究会」のホームページより)
中央左がテラ社の平智之社長。民主党の元衆議院議員で、鳩山元首相と親しいという。中央右がセネ社の藤森徹也社長(当時)。現在は退任し、テラ社の社外取締役を務める(画像は「国際新型コロナウイルス細胞治療研究会」のホームページより)
  • 取材・文タカ大丸

    1979年、福岡県生まれ岡山市育ちの多言語話者。『モウリーニョのリーダー論』や『ジョコビッチの生まれ変わる食事』など翻訳書多数。9月半ばよりYoutubeチャンネルを開設し、テラ社の徹底追及を続けている。詳細は同チャンネルで。

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