藤浪晋太郎がすべてを語った「本当に悔しかった。誰がイップスや」 | FRIDAYデジタル

藤浪晋太郎がすべてを語った「本当に悔しかった。誰がイップスや」

直撃インタビュー !見失ったフォーム、コロナ感染と遅刻騒動。 悩みに悩んだプロ野球界の至宝を復活させた3人のレジェンド

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直撃取材に応じる藤浪晋太郎。「トレードに出すべき」との声に対しては「環境のせいではない。あくまで自分の問題」
直撃取材に応じる藤浪晋太郎。「トレードに出すべき」との声に対しては「環境のせいではない。あくまで自分の問題」

暮れなずむ町を長身の男性がしずしずと歩いていた。大阪有数の湾岸エリアとあって、周囲には腕を組んで歩くカップルや水辺でたたずむ会社員らがひしめいていたのが、男が近づくや、口をアングリと開けて見上げている。男は彼らより頭一つ、いや、三つも大きいのだ。

――フライデーです。背が高いですね。

本誌が声をかけると一瞬、目を丸くしたが、「野球の話を聞きたい」と告げると、藤浪晋太郎(26)は白い歯を見せた。

「小学生の時点で180㎝ありました。自分の唯一の取り柄です。不器用で、野球センスのない男ですから……」

自虐的なのは藤浪がこの5年間、悩みに悩んだからだろうか。だが今年、球界の至宝はたしかに復活の兆(きざ)しを見せた。

「3月にコロナに罹(かか)って、治癒したかと思ったら5月には寝坊で練習に遅刻して、先発でなかなか結果が出なくて――いいことも悪いこともいろいろあった。ありすぎたシーズンでした」

重要な転機となった一年を振り返る。

聞き流せなかった言葉

――球界第一号の新型コロナ感染者。その一報が出た後、藤浪さんが男女混合の食事会に参加していたことが判明して「合コンクラスター」と大炎上しました。

「球団には最初から『会食には女性も参加していた』と正直に話していたんです。別に悪意があったわけじゃなく、情報が錯綜(さくそう)していただけだと思いますけど、テレビで球団社長が『選手7名で会食した』と説明するシーンを見て『これじゃ、自分がウソをついたみたいになる』と頭を抱えました。ただ、その後の遅刻に関しては、完全に気持ちの緩みが原因です。

自分のスマホはアラームが作動しないことがある。怖いので普段はベルがジリジリ鳴る目覚まし時計を別に二つセットしているんですが、あの日に限ってセットするのを忘れ、スマホのアラームも鳴らず……。『このタイミングで重なるか』と落ち込みましたけど、『もうおしまいだ』とまでは思いませんでした。逆に『何が何でも野球で結果を出すしかない』と切り替えることができた」

――強いですね。ネット上には「藤浪は限界」「トレードに出せ」など罵詈雑言(ばりぞうごん)が溢れていましたが、ご覧になりましたか。

「エゴサーチはしないので……ただ、スマホを見ていると、イヤでもネットニュースの見出しが目に飛び込んでくる。とくに『Yahoo!ニュース』は自分の悪いニュースがやたらトップに上がっている気が……『Yahoo!』さんに嫌われているのかな(笑)。まあ、ついこの間はいい記事もトップにしてくれてましたが。自分も人間なんで、悪口を言われたらそりゃ落ち込みます。だけど、『話題にしてもらっているうちが華』と自分に言い聞かせていました」

もちろん、聞き流せない言葉もあった。たとえば「イップス」がそれだ。

「制球難ってイップスで片づけやすいんですよ。ただ、イップスって投げることすら難しい状態を指す言葉です。なのに『いやいやいや、自分は違う』といくら否定しても、『イップスを認めないことには次のステップに進めないぞ』とか『イップスは治らない』と聞く耳を持ってもらえない。ふざけんな、誰がイップスや!と本当に悔しかったですね」

釣り、競馬、ゴルフ、アクアリウムにカメラ、キャンプと多趣味な藤浪。だが、何をしても気分は晴れない。支えとなったのは騎手・武豊(51)の言葉だった。

「豊さんにはとてもよくしていただいていて、時々食事に誘ってくださるんです。あれは去年だったと思うんですが、会食した際にお酒が入った勢いで『武豊であることをシンドイと思ったことはないんですか』と聞いたんです。競馬のファンはおカネを賭けている。生活に直結しているゆえ野次や罵詈雑言のキツさは自分の比じゃないですから。ところが豊さんは『思わんね』と即答したんです。

『驕(おご)りとか調子に乗っているとかではなく、武豊だからこそ厳しく言われるんやと考えている。自分が特別な存在やから世間は厳しい。そう考えたら少しは気が楽になるよ』と。『なんでここまで言われなあかんねん』『どうして俺ばかり』という不満が、かなり解消しました。だからこそ、あれだけ猛バッシングされても『野球で受けた悔しさは野球で返すしかない』と前向きでいられたんだと思います」

――制球難に陥った原因は何なのですか。

「プロ4年目の’16年、初めてフタケタ勝利に届かず負け越したんです。何かを変えなきゃ勝てなくなると思い、いろいろな理論を学び、フォームの修正に手を付け、評判のいいトレーニングを取り入れるなかで、本来のフォームを見失ってしまった。うまくボールに力が伝わるタイミングがわからなくなってしまった」

ゴルフ界からの「指摘」

’19年秋と’20年春のキャンプで臨時コーチを務めた山本昌氏(55)は「復活のキッカケを与えてくれた人」だという。

「昌さんの助言は二つ。一つは『ボールをちゃんと捕まえなさい』。卓球やテニスってラケットを被せるように、ボールを切るようにスイングしないと、打球がポーンと上がってしまいますよね。あれに近い感覚です。捕まえ切れていないから、抜けるんだよと。もう一つはリリースの『タイミング』。この2点だけでした」

混乱した頭の整理に役立つ助言は、他競技からも寄せられた。ゴルフのレッスンプロもその一人だ。

「動作解析マニアの方で、自分の投球動画に解説を添えて送ってくれたんです。『ゴルフで言うところのプッシュアウト(打球が右方向に押し出される)の形になっているよ』と。見ると、マウンドを蹴って打者のほうへ踏み出すときに右ヒジを下げ、背中側に引いていた。『プッシュの形』になっていたんです。理論的に同じことを投手コーチも指摘してくださっていたんですけど、『プッシュの形』という表現が感覚としてわかりやすかった。すごくイメージしやすかったんです」

――中継ぎに回り、藤川球児(40)と過ごす時間ができたことで得たものは?

「球児さんって、同僚のキャッチボールを本当によく見ていて、気づいたことをその場でアドバイスしてくださるんです。練習法や技術論……話題はさまざまでしたけど、ピッチャー用語で言う『ライン出し』の話はよくしました」

――打者方向に向かって踏み出すときのベクトルの向きが「ライン」で、身体を「ライン」に乗せて真っ直ぐ腕を振れば、制球しやすくなる、という理論ですね。

「球児さんは一味違いました。通常、投球練習は打者から遠いところ、外角から始めるんですけど、『プレートの右端(三塁側)に立って、右打者の内角にラインを出し、そこでボールを捕まえる練習から始めなさい』と言うんです。抜けたボールが打者に当たるのがイヤで、自分はいつもプレートの左端、一塁側を踏んで投げていたんですけど、三塁側に立ってみて気づいたことがあった。

一塁側を踏むってことはゴルフで言えばティーグランドの左端に立ち、コースに対して右向きで打つ形になる。『プッシュの形』になるんですよ。球児さんの言う通り、三塁側に立って右打者の内角にボールを引っ張り込むように投げれば、多少フェード(シュート)したっていいわけで……」

武、山本昌、そして球児――3人のレジェンドとゴルフ界のアシストを受け、ついにトンネルの出口が見えた。

「迷いがなくなり、余裕が生まれました。これまではマウンドの上でも悩んでいましたが、いまは打者に集中できている」

ソフトバンクの2年連続の4連勝で幕を閉じた’20年の日本シリーズ。巨人惨敗の原因に挙げられたのが「パワーの差」だった。評論家は「セ・リーグにパワーピッチャーがいないのが敗因」と嘆いた。

だが、平均球速も最高球速もソフトバンクのエース、千賀滉大(こうだい)(27)を凌ぐ剛腕がセにはいる。藤浪の復活が〝セ界復権〟の第一歩となろう。

軸足のヒザを少し曲げ、内股気味に前へ踏み出す。理論的にはタブーなフォームが藤浪にはハマったという(撮影:加藤 慶)
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「’15年に肩を痛めたの忘れてるやろ? 絶対影響あるから」など、球児の視線は実に細やか
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山本昌臨時コーチ(左)の指示で「ボールを捕まえる」感覚を養うのに有効だというチェンジアップを練習
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本誌未掲載カット 藤浪晋太郎 直撃インタビュー「本当に悔しかった。誰がイップスや!って思ってた」(撮影:加藤 慶)
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本誌未掲載カット 藤浪晋太郎 直撃インタビュー「本当に悔しかった。誰がイップスや!って思ってた」(撮影:加藤 慶)

『FRIDAY』2021年1月1日号より

  • 撮影加藤 慶(直撃)

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