慶應のイジメ、月収10万円…東大卒の肩書が重荷で苦悶する人々 | FRIDAYデジタル

慶應のイジメ、月収10万円…東大卒の肩書が重荷で苦悶する人々

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東大の象徴・赤門(東京都文京区)。現在はオンラインで授業が行われ学生はまばらだ

〈仕事がつらすぎる。ストレスがすごい。勤務中は常にプレッシャーを感じていて息がつまる〉

ーー取りあえず仕事は休めば?

〈休むには上司に電話せないかん〉

ーー電話すればいいじゃない

〈無理〉

明け方3時になると、ライターの池田渓氏(38)は友人の加勢良介氏(37、仮名)と、よくLINEでこんなやり取りをした。池田氏と加勢氏は、東京大学に入学した時からの友人だ。加勢氏は法学部を卒業しメガバンクに就職。明晰な頭脳をいかし、ハツラツと働いているのかと思いきやーー。

日本の知の最高峰・東京大学。卒業生は国家官僚や一流企業のエリートビジネスマンになり、高収入を得る人生の勝ち組。一般的には、そう思われていないだろうか。だが現実は厳しい。東大卒ゆえに、どん底を味わう人も多い。

自身も兵庫県内の中高一貫校から東大農学部、同大大学院まで進んだ池田氏は、逆境に苦しむ卒業生を取材。書籍『東大なんか入らなきゃよかった』(飛島新社)にまとめた。以下は、池田氏が話を聞いた「東大うつ」「東大イジメ」「東大プア」の実態だ。

「私大の雄」の敵意

冒頭で紹介した加勢氏は、グループ全体で行員3万人というメガバンクに就職した。加瀬氏は「職場には同じような学歴で話の合う仲間が大勢いるだろう」と考えていた。だが数万人が働くメガバンクでは、東大卒の割合は意外に少ない。以下は18年度の、主な大手銀行への就職人数だ(学部卒、東京大学新聞調べ)。

三井住友銀行:22人。三菱UFJ銀行:14人。みずほフィナンシャルグループ:8人(早稲田、慶應出身者は毎年各行に70人前後が就職している)。

希少な東大出身者として、加瀬氏も当初は目立つ存在だった。

「入行して最初の1年は研修が頻繁にあって、何かとテストを受けさせられるんです。東大卒はテストが得意だから点が取れる。報告書などを提出すると、上司が『まともに書けているのは加勢だけじゃないか。他は幼稚園児か!』と怒鳴っていました」(加勢氏)

だが圧倒的なアドバンテージがあったのは、研修期間中だけ。支店に配属され現場で働き始めると、東大生の弱点を痛感するようになる。加勢氏が続ける。

「東大生はずっと勉強ばかりしてきたから、コミュニケーション能力が低いんです。愛想が悪く、軽妙に話のできない人間が多い。営業に行っても『話が面白くない』『挙動が不審』と言われ、なかなか新規の融資が取れません。営業成績が貼り出さると、みんなの前で上司からこう詰められます。『短大卒のアイツが成績を上げているのに、天下の東大を出ているオマエはなんでパッとしないの? やる気が足りないのかな?』と。プライドはズタズタですよ」

さらに東大卒への妬みから、イジメもあったという。

「慶應を出ている2人の先輩からの嫌がらせが、陰湿でキツかった」

話しかけても一度は無視される、目が合うたびに舌打ちされる、うっかり脚をぶつけたというていで机を蹴られる……。一つ一つは些細な嫌がらせでも、加勢氏の心にダメージが蓄積した。

「偏見かもしれませんが、慶應卒には東大卒を目の敵にしている人が多いように思います。慶應は『私学の雄』とされていますが、東大卒の前ではプライドが傷つくのか常に敵意のようなものを感じるんです」

加勢氏が働くメガバンクで役員の最大勢力は東大卒だが、肉薄するのが慶應閥だという。出世を考えると、東大卒を敵視する慶應出身者がいてもおかしくない。

「一時期は、ストレスでメンタルがおかしくなりました。コツコツとため込んだ処方薬を、アルコールと一緒に飲んだこともある。東大まで出て情けない……。惨めな気持ちでした」

精神的に不安定となった加勢氏は、人事部の指導で半年間休職。職場復帰すると、幸い自分をイジメた先輩2人が異動していた。現在は以前ほどストレスを感じず、仕事ができているという。

「東大出てアホちゃうんか」

東京・文京区にある本郷キャンパスの正門。奥に見えるのが安田講堂の入り口だ

同窓生が少ない地方では、逆学歴差別を受けることが多い。東大文学部を卒業した吉岡聡氏(33、仮名)は、地元・兵庫県の市役所職員として働き始めた。多くの東大生は国家公務員総合職(旧・国家公務員I種試験)を受け、中央官庁に入る。地方の職員になった吉岡氏はレアケースだが、病気がちの両親の近くにいたいと地元での就職を選んだという。イジメは勤務初日から始まった。吉岡氏が振り返る。

「新人には先輩がついて、指導するものだと思っていました。半年は試用期間とされていましたし。しかし初めて出勤した日、先輩に開口一番、こう告げられました。『東大生なんやから見てたらわかるやろ』と。それっきりです。業務マニュアルすらない。意図的なネグレクトだったと思います」

知らない環境で完全に放置。吉岡氏は、社会人になって1週間で心が折れかかったという。イジメを受けたのには、理由がある。

「先輩たちの学歴です。彼らは関西大学出身で、職場では『高学歴で頭のいい人』として周囲から持ち上げられていました。東大卒のボクは、目障りな存在だったのかもしれません。事あるごとに皮肉や当てこすりを受けました。『自分は東大出で頭がええのかもしれへんけど、うちらはそうやないねん』と」

先輩たちは、吉岡氏が知らないことがあると大喜びした。「東大出てるのにホンマはアホちゃうんか」。吉岡氏は屈辱感を覚えたが、「そうなんです。東大にもボクみたいなアホはいるんです」と言って業務を習得していった。仕事に慣れてくると、今度は「便利使い」されるようになる。

「膨大な仕事を投げられるんです。『東大卒なんやから難しいこともわかるやろ』と。部署全体にフラストレーションがたまり、雰囲気がどんどん悪くなっていきました。原因はボクのようです。面と向かって『自分のせいやで』と言われたこともあります。理不尽ですよね……」

結局、吉岡氏は1年半で退職。辞める直前にはストレスから胃潰瘍になり、激しい腰痛にも悩まされていたという。その後、地方の大学の医学部に入りなおし、6年間の学びを終え現在は研修医として元気に働いている。

受診料が払えない……

「高卒」と偽って、警備員をしている東大出身者もいる。文学部を卒業した斎藤洋介氏(44、仮名)だ。斎藤氏が文学部の国史科を選んだのは、高校生の時に石ノ森章太郎の『マンガ日本の歴史』に影響を受けたから。卒業後は絵の表現力を使って人にものを伝えようと考え、在学中から1日10時間図書館にこもり宗教絵画などを模写した。斎藤氏が語る。

「出版社に作品のサンプルを持ち込んだら、すぐに企画を任せてもらえるようになりました。ただ、学習マンガを主戦場にしたのが失敗でしたね。万人に読まれるようなものではない。収入が安定せず、飢え死に寸前でした」

半年で240ページの原稿を描き下ろし定価1300円で売っても、印税10%で初版5000部だとすると65万円の収入にしかならない。さらに源泉徴収されるので、実際の振込は58万円ほど。月収は10万円未満だ。30代後半の時に、斎藤氏は大きなトラブルに見舞われる。

「突然、首から背中にかけての痛みと腕のしびれに襲われたんです。ただ病院に行きたくても、行けなかった。国民健康保険に加入していなかったんです。役所からの警告書を無視していたので、自業自得ですが……」

最優先事項は病気を治すこと。そのために、健康保険に加入して3割負担で通院できるようにならなければいけない。しかし未払いの保険料を稼ぐために漫画を描こうにも、印税が入るのは数ヵ月後。斎藤氏は、就職して勤務先で健康保険に入ることを決める。

「アラフォーでまともな職歴のない人間でも、雇ってくれそうな仕事を探しました。見つけたのが、派遣の警備員だったんです」

斎藤氏は、生まれて初めて履歴書を書いた。ただ東大卒でまともな仕事をしてこなかったとわかると、社会性に致命的な問題があると思われかねない。学歴は「高卒」と偽った。それは思い込みだというのは簡単だが、本人は切実にそう思っていた。

「職場で東大卒ということで、イジメられるのも嫌でしたからね。高校を卒業して以降の経歴は、履歴書に一切書きませんでした」

現在の年収は230万円ほど。40代前半の日本人男性の平均年収が569万円(民間給料実態統計調査)なので、かなり低い水準だ。それでも斎藤氏に不満はない。

「血へどを吐きながら何ヵ月もかけて描いたマンガで、納品してから半年後に20万円しか振り込まれないという経験をしていますから。毎月確実に人間一人が生きていけるだけのカネを振り込んでくれるいまの仕事は、本当にありがたいです。病院にも行けますしね」

東大を出ても、イジメや過酷な労働環境に苦しめられる卒業生たち。彼らを取材した、前出の池田氏が語る。

「東大出身者と相性が良くない職種があると思います。一つは営業職。東大卒はコミュニケーション能力が低い人が多く、軽妙な営業トークができません。プライドが邪魔して、頭を下げることも苦手です。二つ目はクリエイティブな仕事。受験で鍛えられたため、与えられた課題をこなすのは得意ですが、まったく新しいものを作るという経験が少ない。また自分の趣味が専門的すぎて世間の興味が合致しないことが多く、発想が一般的に受け入れられないんです。

大事なのは、自分に合わないと思ったらすぐに方向転換すること。能力を発揮できない仕事を続けていても、ストレスがたまるばかりでしょう。東大出身者の多くが、頭の回転が早くマジメなのは事実。実際若いうちに転職したり、個人で活動するようになった東大卒の大半が、その後大きな成功を収めています」

東大卒だからゆえに受ける妬み、ひがみ……。東大を出たからといって、幸せな人生を歩めるとは限らない。社会の理不尽を感じているのは、みな同じなのだ。

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