「出前館」創業者が前社長を訴え裁判に…いったいなぜ⁉

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師走の真っただ中の12月18日、東京地裁で、ある民事裁判が始まった。原告は花蜜幸伸氏、被告は西村利江氏。

名前を聞いてもピンとこないだろうが、実はこれ、いま注目のフードデリバリー企業「出前館」の創業者と、11月まで同社の会長を務めた中村利江会長との間で争われている裁判なのだ。

いったい、二人の間で何が起こったのか。背景を追ったーー。

今年一番、街中でよく見かけたバイクかもしれない(写真・AFLO)

絶好調企業

「で、で、出前館、出前がすいすいすーい」

ダウンタウンの浜田雅功がノリノリのハッピ姿で歌うあのCМで有名な(株)出前館。フードデリバリー業界で日本最大級のシェアを占める同社は、10月15日、20年8月期の連結決算が103億円と過去最高の売上高を達成したと発表した。コロナ禍、宅内ビジネスに追い風が吹いているとはいえ、驚きの数字だ。

しかし、この日業界の耳目を集めたのは、この「過去最高の売上高」報告ではなかった。「出前館の顔」として長年同社を牽引してきた中村利江会長が、2020年11月26日を限りに退任することを発表したのだ。

「中村会長はメディアにも積極的に登場し、『出前館』の知名度と業績を向上させた立役者ですから、退任発表には業界関係者は驚きを隠せませんでした。

退任後はエグゼクティブ・アドバイザーになったとのことですが、経営の第一線から身を引くことに変わりはないでしょう。同社からは、『本人の強い要望』としか説明はありませんでした」(全国紙経済部記者)

同社ホームページをみると、「(中村氏の)在任中の功労に報いるため、退職慰労金として贈呈総額1億円以内とする旨の議案を本株主総会に付議いたします」と書かれており、任期満了に伴う円満退社であることが分かる。

中村氏は退任会見前にも新聞や雑誌などにたびたび登場し、今後の事業展開について積極的に語っている。週刊女性10月13日号では、ロングインタビューが掲載されているのだから、外から見ればまさに「電撃退任」というほかない。

退任の理由は今後本人の口、あるいは出前館の関係者から語られるのかもしれないが、そんななか、現在中村氏が裁判中であることが判明したのだ。しかも彼女を訴えたのが、出前館の設立創業者・花蜜幸伸氏(51)であるというから、驚きだ。

(編集部注:冒頭にある西村利江氏とは中村氏のこと。現在は姓を「西村」に変更している)

なぜ創業者が「成長の立役者」を訴えたのか。花蜜氏本人が取材にこう答える。

「創業者として、彼女の過去の発言についてどうしても看過できないものがあった。そのことについて、彼女に謝罪を求めたいのです」

花蜜氏は和歌山県の高校を卒業後、単身大阪に渡り、バイトでためた300万円を元手に、21歳の若さで91年にバイク便の会社を創業。当時配達価格が高止まりしていたバイク便業界に「低料金」をウリに、事業を軌道に乗せた。大阪市内に小さいながらも自社ビルを所有するまでになったが、31歳の時にバイク便事業から撤退、「出前館」の前身である「夢の街創造委員会(株)」を設立している。

「インターネットの急速な普及とともにバイク便の利用者が激減し、この事業に未来はないと思いました。そんな時、『ザ・インターネット』という映画の中の、主人公がパソコンでピザを頼むシーンを思い出したんです。

近い将来、ネットで食べ物を注文するのがスタンダードになるだろう…と思っていろいろ調べてみたら、日本はもちろん、アメリカでも当時はネット宅配事業を展開している会社はなかった。『いま始めれば世界初だ!』と思い、知人に出資を呼びかけ、65人から1億円を集めて会社を立ち上げました」(花蜜氏)

花蜜氏は、会社設立の1999年9月から02年1月まで、代表取締役社長、会長として経営に当たってきた。

一方、前会長である中村氏は、リクルートなどを経て01年7月「夢の街創造委員会」に取締役として就任している。

2002年には花蜜氏の会長就任に伴い中村氏が社長に就任。一時期、他社に移るなどの変遷を経て再び同社に戻ってきた。19年に同社が「出前館」と商号変更をした後も、社長、会長として、今回の退任に至るまで経営トップとして経営に携わってきている。

そんな中村氏を花蜜氏が「名誉棄損」で提訴した理由を語る。

「一言でいえば、彼女の過去の発言に問題があると思ったからです。

以前から彼女は新聞、テレビなどのメディアに多く登場していますが、その中で、彼女は決まったように自身の成功ストーリーを話していました。それ自体はいいのですが、その話の中に、看過できないポイントがあったのです。

彼女を取り上げるメディアでは、彼女のことを『社長就任に際して、倒産寸前状態の出前館の再建を託された』等と紹介していて、それに沿う形で、彼女もよく『社長就任時の出前館の売上は月約2万円しかなく、一方負債総額は3億円近くあった』といった旨の話を語っています。それを自分が社長になってここまでの会社にした、というのが彼女の語る基本的なストーリー。

ですが、この話は明らかに違っていると言いたい」

いったいどういうことか。花蜜氏が続ける。

「というのも、彼女が社長に就任した時…つまり、私と社長を交代した時の出前館の月の売り上げは、約214万円から約734万円はありました。2万円などということはございません。また、当時の負債額にしても、約2973万円から4975万円。3億円は言い過ぎです。これは、東京地裁に提出した資料からも明確です。簡単に証明できます。

また、彼女は『会社の再建を託された』とも言いますが、私は彼女に再建を託したつもりはありません。私が会長として対外的業務や営業を担い、彼女には社長として社内業務を担当してもらうことで、出前館の競争力を強化しようとしたのです。

元々は彼女が「ほっかほっか亭」のマーケティング担当者時代に知り合いました。そのマーケティング能力の高さを私は評価していて、弊社でも社内業務でその手腕を発揮してほしいと思い声をかけたのです。

それがいつの間にか、彼女が成功物語を語る中で、そうした話になってしまった。

外から見れば、『細かな数字の話なんて気にしなくてもいいじゃないか』と思われるかもしれません。しかし、創業者としてのプライドがありますし、いま、私は別の事業を始めているところです。現在のビジネスに関わる相手が、彼女のインタビューを読み、『なんだ、花蜜という男は無能だったのか』と思う可能性もある。それが既成事実になってしまうと、私の今後の人生にも差支えがあります。

そうした思いから、彼女がこれまで語ってきた話に誤りがあることを証明するために、提訴したのです」

花蜜氏の要求は、全国紙への謝罪広告の掲載と、名誉・信用が棄損された慰謝料として1千万円を支払うこと。氏が言うように、たしかに中村氏は過去のインタビューで「売り上げ2万円」「負債3億円」等の発言をしている。一方、花蜜氏が裁判所に提出した資料(新株式発行並びに株式売出届出目論見書など)を見ると、中村氏が社長に就任した前後の売り上げ・負債が「約2万円」「約3億円」ということはない。

ちなみに花蜜氏は、02年の中村氏の社長就任後、出前館の経営からいったん身を引いたものの、13年に特別顧問として一時期復帰している。花蜜氏いわく、「その際、社内での発言権を強めようと同社株を買い集め始めたが、外資系ファンドの大量の株売却の攻撃にあい、『株価防衛』のために信用買いを重ねた。その時の行為が金商法違反に問われ、16年に在宅起訴され、いまもそのときの追徴金を支払う身」とのことだ。

中村氏がまだ「出前館」の会長に在職していた11月25日、出前館と中村氏宛に本裁判についての見解、および花蜜氏の主張に対する見解を聞いたところ、代理人から、

<(インタビュー等での中村氏の発言については)そもそも花蜜氏の名誉を毀損するものではなく、かつ重要部分について真実であって名誉毀損など成立する余地のない記事を取り上げた、全く理由のないものであり、しかも中村氏のみを被告とし、実際の記事掲載メディアについては一切被告にしていないことなどから、嫌がらせ目的の疑義もある訴訟であると考えており、速やかに棄却されるよう、断固として対応してまいる所存です。>

との答えが返ってきた。

たしかに、メディアではなく中村氏本人を訴えることに疑問を持つ人もいるだろうが、はたして花蜜氏は「嫌がらせ目的」なのか。裁判所が両者の主張をどう判断するのか。

躍進企業の創業者と前社長の裁判ということで、今後の展開にも注目が集まるだが、「出前館の顔」だった中村前会長にとっては、突然降ってわいたような裁判ともいえよう。CМのように「すいすいすーい」と解決する方法は、なかったのだろうか…。

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