コロナ猛威のなか「2万6000人試合」をJリーグが開催する背景

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2020年1月1日、国立競技場で行われたサッカー天皇杯決勝・神戸-鹿島戦。観衆は57597人集まった。4日はこの時より約3万人減るが、感染者ゼロに抑えられるか(写真:共同通信)

新型コロナウイルスが猛威をふるう中、政府は12月23日、1万人以上を収容するイベントの入場を定員の50%以内とする開催上限を急遽見直す方針を決めた。観客動員を5000人以内に抑えるというものだ。

しかし、この日以前に発売されたチケットについては定員の上限が認められたため、日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)は今年で28回目を迎えるカップ戦のルヴァン杯決勝・FC東京―柏戦(来年1月4日・東京国立競技場)の開催を決めた。

チケットは即日完売しており、最大約2万6000人の観客が集まる。あえて試合を開催する理由は、選手やクラブ関係者、サッカーファンの期待に応えるだけでなく、東京五輪の開催にも関わっているという。その意外な背景を迫った。

東京五輪開催を実現するための”アシスト”になるか

「Jリーグはお客様と共に、サッカーを続けることを大事にしてまいりました。国民の皆さまの健康が第一であることは揺るぎません。(中略)東京五輪・パラリンピックに向けても、コロナ禍でより安全に大会を運営するために新しいスポーツの在り方を、皆様と一緒に作り上げていきたいと思っています」

Jリーグを通してコメントを出した村井満チェアマンはルヴァン杯決勝を予定通り2万6000人の観客を迎えて行うことを決めた。ルヴァン杯決勝のチケットは毎年5万枚近く確実に売れる。コロナ禍とはいえ、あえて払い戻しもせずに試合前日の23時59分まで公式ルートでのチケットの出品や購入も可能にした。その理由をJリーグ関係者はこう耳打ちする。

「試合当日、国立競技場の感染対策における、様々なデータを取るためです」

7月から9月にかけて行われる予定だった東京オリンピック・パラリンピックは新型コロナの影響で1年延期。その後、国立競技場では行われたイベントは全て無観客だった。2万6000人規模の観客動員は4日のJリーグ・ルヴァン杯が初めてとなる。そこで国立競技場における本格的なコロナ対策の調査を行うというのだ。

まず、各入場ゲートの混雑状況をグラウンド録画活用して競技場の大型ビジョンやJリーグ公式チャンネルで流す。空気の淀みや流れをデータに残すことは、新型コロナウイルスの感染症対策には極めて重要なアイテムになる事はわかっている。スタンド、コンコース、売店など約30台の機器を使い二酸化炭素(CO2)の濃度を測定する。空調設備を備えたビルには「建築物衛生管理基準」が定められており、CO2濃度が1000ppmを超えると換気が必要とされている。この濃度が上がるほど感染のリスクが高くなる。その生データをとるのだ。

観客席に向けてもカメラ4台、レーザーレーダー3台を駆使して1、観客同士の距離2、拍手や万歳などの10種類程度の行動を調査、個人情報の観点から「顔や本人確認ができる情報は十分に配慮して行う」(Jリーグ関係者)。また観客のマスク着用の有無もあえてスタッフを観客席へ動員して目視で行うことも決めた。

実はルヴァン杯決勝は昨年11月7日に行われるはずだった。しかし柏レイソルが13人の感染者を出してクラスターと認定。「中止にして両クラブ優勝にすべき」という声もあった。しかし、開催を決定し、その代替日程が1月4日の午後からとなった。あえて延期してまで強行することを決めた背景は、東京五輪開催のアシストをしたい、という思いの一端があるに違いない。

26000人収容しても、コロナ感染は防げるのかどうか、多くの関係者が関心を寄せている(写真:共同通信)

プロ野球、Jリーグの観戦者の感染はわずか2人

Jリーグの感染症対策は日本野球機構(NPB)とタッグを組んで進めてきた。東京五輪の延期が決まった昨年3月上旬から日本野球機構(NPB)とともに設立した「新型コロナウイルス連絡会議」の専門家チーム(座長 賀来満夫・東北医科薬科大医学部特任教授)を発足。3人の専門家と各地域には8人のアドバイサーを置く体制を敷いた。

新型コロナウイルスの感染状況に伴う、競技の開催時期や観客動員数などの意見を求めて、判断の材料にしてきた。12月15日、年内最後に開かれた会議ですでに22回を数えている。

プロ野球は7月10日から上限5000人で観客動員を開始。セパ両リーグで計720試合、観客動員数は482万3578人だった。感染者の報告は2人。「482万人分の2」は、驚異的な数字として専門家の中でも称賛された。

新型コロナウイルス連絡会議に出席する東邦大教授・舘田一博氏は「仮に感染者の数字がこの10倍(20人)いたとしても非常に低く抑えられている」(舘田一博・東邦大教授)と評価。Jリーグもコロナ禍で延期こそあったが、全1074試合(J1〜J3)を消化して観客動員数は339万4186人。Jリーグは感染者数こそ公表はしてないが、観戦に行って感染した人は、現時点で判明しているのは2人だ。

連絡会議の専門家チームの出席者の一人、三鴨廣繁・愛知医科大大学院教授は「これまでJリーグとNPBが多くのデータを集めてきたことでこの感染症の色々な事情がわかってきた」。また賀来座長も「6万人規模のスタジアムで6万人の観客が入った時に、入場チェックやトイレなどで複合的な感染症対策をやっていくとかなりリスクが下がってくる」と明かす。

この会議は原則非公開だが終了後必ずオンライン会見は行われ、コロナ対策の検証は確実に進んでいることをうかがわせる。7月4日に再開したJ1では国立競技場では1試合も行っておらず、検証内容を立証するテータが何もないことが、東京五輪開始に向けた懸案事項になっていた。

1月4日、国立競技場で行われる試合は、コロナ禍で26000人を集めたスタジアムでコロナ感染を防げるかのいわば「実証実験」の場となる。試合結果もさることながら、関係者はきっとその後にはじき出されるであろうデータをかたずをのんで待つことになる。Jリーグ関係者によると、東京五輪の大会組織委員も見に来る予定だという(昨年末時点の話)。

開催に奔走したJリーグだが、身内からの「逆風」も突きつけられた。上部団体の日本サッカー協会はルヴァン杯決勝が開催される3日前の2021年元旦、同じ国立競技場で天皇杯決勝を行ったが、12月26日に行うはずだった一般販売を中止。先行販売のチケットも31日まで払い戻しを受け付けることを決めた。

「今の感染状況の中で(政府の示した)5000人という数字に寄り添い、近づけていきたい」(日本協会・須原清貴専務理事)。感染症対策のデータを取ることも「予定していない」(同)。Jリーグとは違う対応だ。

さらに国際サッカー連盟(FIFA)が来年5月U-20代表(インドネシア)、同10月U-17代表(チリ)の2つの世代別W杯の中止を12月下旬、突然決めた。IOC以上に世界のスポーツ界に影響を持つFIFAが、来年になってもコロナ禍の世界の状況が「十分なレベルに正常化されない」という判断をしたことになる。

東京五輪開催可否については、未だに国際オリンピック委員会(IOC)から正式な決定はない。ルヴァン杯で集める感染症対策のデータは「東京五輪開催に向けて必ず役にたつ」(専門家チーム)といい、大会組織委員会にも提出予定だ

昨年末段階で、Jリーグは決勝が開催できなかった場合の措置・対応も発表してきた。開催にいたるまでには、様々な苦悩やぎりぎりの判断があっただろう。開催がコロナ禍の日本に希望の光を灯すか。名勝負の宝庫と言われる大会だけに、まずは何事もなく無事に終わることを願うばかりだ。

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