松下洸平が2020年にブレイクしたシンプルだけど納得の理由
『スカーレット』から始まったサクセスストーリー!
彼の2020年を振り返ると、コロナ禍であったこともすべて好転劇になってブレイクへとつながっている。彼の一年間を振り返りつつ、2021年さらなる飛躍を勝手に予想&妄想してみようか。
繊細、デリケート、優柔不断の3大イメージをコンプリート
まずは松下のブレイクのきっかけになった朝ドラ『スカーレット』(NHK総合・2019〜2020年)での、十代田八郎役。ヒロインの夫役で登場したけれど、役名を獲得するまでには何度もオーディションを受けたという苦労も。
朝ドラといえば時代背景も昔なので“男を立てる”という風潮の中、八郎は生業としていた陶芸の才能を妻に越されてしまう。そして小さな夫婦間のトラブルが続いて、ついに別れることに。離婚は朝ドラで珍しい展開だ。ちなみに実話では、アシスタントの女性と駆け落ちしてしまうのだが、朝ドラではそこは回避していた。もしそのまま浮気男を演じたとしても、彼の繊細そうなビジュアルから、朝ドラとは思いがたい、ドロドロっぷりの物語が期待できたと思う。
OA当時も『#八郎沼』というハッシュタグが、ツイッターで何度もトレンド入りしていた。その大騒ぎぶりを見ながらやはり、女は男に優しさを求めているものだと改めて思い知らされた。おそらく松下は女性の願望を体現できる、適任の優男王子だったはず。
そんな女性たちの期待を抱えながら作品は3月末に終了。ちょうど自粛が求められ始めていた時期だ。ただ世間の状況とは相対するように、彼のシンデレラストーリーはここから始まる。
その後、7月に『MIU404』(TBS系)、『世にも奇妙な物語 夏の特別編』(フジテレビ系・ともに2020年)と人気作品からのオファーが続いていく。
10月、朝ドラの『#八郎沼』とハッシュタグをつけた女性軍の士気が上がる役が、
オンタイムで見ていたけれど、ハマり役以外の言葉が見つからなかった。有名すぎる映画『卒業』に見られるような、結婚式会場に花嫁を奪いにくるパターンは時々ドラマや作品で見かける。逆パターンとして『ロングバケーション』(フジテレビ系・1996年)で、ヒロインの葉山南(山口智子)が結婚式当日、花婿が逃げてしまうというパターンはあった。でも花婿が現場から奪われてしまう……とは誰が想像しただろうか。愉快すぎる展開にニヤニヤしてしまった。
ドラマOA中に上昇する、トレンド王子の名も欲しいままに
朝倉役のイメージを引きずったまま、10月スタートの連続ドラマ『#リモラブ 〜普通の恋は邪道〜』(日本テレビ系)の出演と続く。こちらの作品、コロナ禍のマスク、消毒、ソーシャルディスタンスといった、不具合に感じるものを全て反映したドラマとして話題を呼んだ。人気の水曜22時放送枠は、他の予定もあったはず。それを全て覆して時代をそのまま表現する内容になったのは、仕事の早さに感動した。
この作品で主役の波留が演じる、大桜美々の恋の相手役・青林風一(通称・青ちゃん)として、連ドラの二番手まで上り詰めた。この役こそ“優男”のイメージが本領を発揮。青ちゃんは何かと期待されて入社したホープだったものの、結果を残せず人事部へ。彼女が久々にできてもセフレがいると言われて玉砕して、最終的に好きになったのは、オンラインゲームでやり取りしていた美々だった。
告白も彼女側=美々からの壁ドンでスタートをして、なかなか濃厚接触まで進まない、純度あふれる恋愛関係。そのほかにも「女子かよ!」と突っ込みたくなるほど、職場で恋バナを重ねていた青林。ピュアさと、進まない恋のもどかしさをバランス良く演じていて、また“青ちゃん”はツイッターのトレンドにも返り咲いた。ボディラインの細さ、心の琴線がどこにあるのか分からないようなデリケートさ。今まで“優男”がここまでドンピシャにハマる俳優がいただろうか?
これはあくまで希望的な予測だけれど、彼には敢えてパブリックイメージを変えるような強さを押し出す方向には出ないで欲しい。“優男”を演じることができる俳優として、浮気、恋の心変わり、借金&DV男と、女の敵役を進んでテレビドラマを盛り上げて欲しいなあと思う。
文:小林久乃
エッセイスト、ライター、編集者、クリエイティブディレクター、撮影コーディネーターなど。エンタメやカルチャー分野に強く、ウエブや雑誌媒体にて連載記事を多数持つ。企画、編集、執筆を手がけた単行本は100冊を超え、中には15万部を超えるベストセラーも。静岡県浜松市出身、正々堂々の独身。女性の意識改革をライトに提案したエッセイ『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ刊)が好評発売中。
写真:共同通信社