動物写真家が捉えた「自由に生きるネコたちの美しさ」
ミャンマーと北海道、 二つの地で1年間追い続けたネコたちの心温まる家族愛。

「ネコには、決して誰かに束縛されない自由さがある。あるがままに生きる彼らを見ていると、僕たちヒトも自然体でいることが、一番生きやすいんだろうなぁと思うんです」
そう語るのは写真家の岩合光昭(いわごうみつあき)氏(70)だ。1970年にガラパゴス諸島を訪れたことをきっかけに世界各地の野生動物を意欲的に取材し続け、’12年からはテレビ番組『岩合光昭の世界ネコ歩き』(NHK)がスタート。ネコの目線で作品を描くことで定評がある岩合氏が監督を務めた映画『劇場版 岩合光昭の世界ネコ歩き あるがままに、水と大地のネコ家族』が1月8日に全国公開された。
「ネコは共同保育をし、社会生活を営みます。そこはヒトとよく似ている。ヒトもネコも最小の社会は家族。その家族をテーマにしたら、ネコの世界に入りやすいのではと思いました」
舞台は北海道とミャンマーだ。牧場や湖というシンプルなロケーションを選び、ネコたちをより生き生きと描写した。
「ネコに無理強いをしないのは、すごく大切なこと。彼らをよく見ていると、ご飯やパトロール(散歩)の時間が決まっていることが多い。ネコたちが動く時間に合わせ、邪魔をせず撮影するんです。撮影していて、ふとした瞬間に気持ちが片道通行じゃないな、心が通じたかも、と感じることがあります。映画を見てくださる方々にもおそらくその感覚が伝わるんじゃないかと思います」
岩合氏が育ったのは大田区蒲田。身近にネコがいない環境だったが、当時の岩合青年が心奪われた瞬間があったそうだ。
「高校生の頃、たくさんのネコと暮らしている友人がいて。彼がその中の一匹を肩に抱いて僕のすぐそばに来てくれた。目の前にネコの顔が来た瞬間、思わず目頭が熱くなってしまって。ネコを見て泣くなんてかっこ悪いと思って、涙を急いでぬぐったけど、その瞬間ノックアウトされたんですよね。
イヌは隣にいてくれるけど、ネコはそうじゃない。視線が下からだけじゃなく、上から注がれることもある。体の線が美しく、変幻自在で、被写体として素晴らしい。そういったことが魅せられた一番の理由かもしれません」
もちろん今では自宅でもネコと一緒だ。
「オス二匹の兄弟と暮らしています。成長と共に僕らヒトを見る目や接し方が変わってきて、家族になったようで楽しいです。ネコの喜怒は撮れるのですが、哀楽は感じてもなかなか撮れない。そこまでできれば素晴らしいと思うけれど……僕にとってネコは、一生恋していく存在なのでしょうね」
ミャンマーのネコたち
インレー湖のほとりに住むネコとヒトの家族。
子どもがボートで学校から帰ってくると、ネコたちは水辺までお迎えに出かける
北海道のネコたち
いくつかのネコの家族が牧場に集まり子牛とともに生活している。
子ネコたちは搾りたてのミルクを飲みながら成長していく。


劇場版 岩合光昭の世界ネコ歩き あるがままに、水と大地のネコ家族
2021年1月8日(金)全国ロードショー
撮影:岩合光昭、會田園(岩合氏)