病院でも導入で存在感急上昇「新型空間除菌器」開発秘話

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2018年、ポーランドで開かれたCOP24の会議に出席した新井幸子氏(写真:新井氏から提供)

昨年秋からはじまった新型コロナウイルスの「第3波」は感染拡大の勢いが止まらず、新年早々、東京都を含む1都3県で2度目の緊急事態宣言が発令され、他県にも広がりを見せている。

抜本的な解決策を見いだせない中、日本国内で最先端の技術を持つウイルス・細菌を除去する空間洗浄化システム装置が開発され、大量生産の準備が整ったことが注目を集めている。国立病院機構のICU病棟、高級旅館や大手ホテルがすでに搬入しているこの空間除菌器の秘密と世に出すまでの軌跡を追った。

院内感染予防のために開発された

第3波からさかのぼること約半年前。昨年6月に福岡県北九州市で感染拡大が急増し3つの大規模病院でクラスターが発生した。全国どの医療機関も「第2波」への備えをしていた中で起きた集団感染。「地域の医療体制を揺るがしかねない」との懸念が広がっていた中、「北九州のいくつかの医療機関だけは難を逃れたらしい」との噂が広がった。そこには新型コロナウイルスの感染拡大以前に起きた院内感染対策として共通の空間除菌器が導入されていた。

その名は「ステライザ」(SterilizAir)。

創業5年ほどのスタートアップ企業『未来科学株式会社』が世界最先端の技術を駆使した機器やシステムに注目が集まっている。空気中に浮遊しているものから、テーブルなどに付着しているウイルス、細菌、バクテリアまで素早く不活性化させるシステムが搭載され、国立病院機構のICUおよびコロナ病棟を筆頭に、地方の医療施設や大手ホテルや高級旅館、飲食店まで続々導入している。

ある医療関係者がこう耳打ちする。

「国立病院機構には、日本国内でも数少ない、危険なウイルスや細菌を取り扱える環境があります。クラスターはもちろん、院内感染に対するリスクマネジメントにも相当神経を使うので、日本国内のあらゆるメーカーのものを試験的に使っていたと考えられます。特にICUで使う機器については、厳しい基準をクリアしなければ正式導入にいたらないはずです」

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国内屈指の厳しい審査を乗り越えた「ステライザ」はどうやって世に出されたのか。同社と顧問契約を結ぶ新井幸子氏はこう明かす。

「私は企業のブランディングの仕事をしてきて、国内外問わず、企業の方々とお付き合いしてきました。最近は環境問題に重きを置いた仕事をする過程であらゆる分野の博士の方々と交流させていただき、おかげさまで2018年から気候変動枠組条約締結国会議(COP24)、昨年12月にもスペイン・マドリードで行われたCOP25に出席することができました。

実は新型コロナウイルスが発生する何年も前から、気候変動の影響で新種のウイルスや耐性菌のパンデミックが起きやすくなることが懸念されていました。そんな中、新型コロナウイルスが蔓延したのはCOP25の会議直後でした。特効薬もワクチンもない中で、状況を改善する最先端の技術がないかと博士ネットワークをたどっていきました。すると、その技術が日本にあったのです」

新井氏がつきとめたステライザは、1995年の地下鉄サリン事件を契機に、アメリカ国防総省がバイオテロ・ケミカルテロ対策として、現場の指揮官、兵士が防毒マスク、防護服を着用することなく活動することを目的に研究し、初めて実用化した除菌方法で気相活性酸素種「ROSマルチプラズマエア)を生成する技術。国内外で活躍されている日本人の博士がそのメカニズムを熟知しているおかげで、日本で初めての商用化が実現した。

顕微鏡で見た新型コロナウイルス(写真:アフロ)

表面付着菌を無力化するメカニズム

新型コロナウイルスの感染経路には、おもに以下の3つがある。

① 飛沫感染
陽性者や罹患者が喋る時に出る飛沫(唾液の粒)に含まれ、それが直接口や目、鼻の粘膜に侵入して感染する。届く範囲は1~2mとされる。マスクで対応可能。

② 吸込みによる感染
前項の飛沫の極小の粒はとても軽いので、一定時間空中を浮遊する。エアロゾルと呼ばれたりもするが、このウイルスを含んだ空気を吸込む事により感染する。現在換気が叫ばれているのは、この為。マスクで対応可能。

③ 表面付着菌(ウイルス)による感染
前項①②のウイルスを含んだ飛沫等は時間の経過と共に落下し「表面付着菌」となる。その床やテーブルや服に落ちた表面付着菌は塗りたてのペンキの様に、触れると手に付着する。その手で顔を触ったときに口、目や鼻の粘膜から感染する。ある研究では、人は無意識のうちに1日20-30回顔を触る、とのデータがある。マスクでの対応は出来ない。

①②は鼻まで覆うマスクやこまめな換気で対応できるが、③は防げない。そしてこの③のケースでの感染が圧倒的に多い。もし①②のケースが多いのであれば、満員電車が日常の地域では、もっと感染者が出るはずだ。新型コロナウイルス対策で一重要なのは、テーブルや衣類につく「表面付着菌」への対処なのだ。

ステライザのメカニズムを熱弁した本杉亀一氏は、愛知県豊橋市にある電器工事会社「大弘電機」の代表取締役をつとめる(撮影:渡辺充俊)

今、日本国内にある大半の空気清浄機とステライザを比較してみよう。大半の空気清浄機は集塵式という、本体に空気を吸込むタイプ(原理は掃除機と同じ)。部屋の中の汚い空気を本体の中に吸い込み、本体の中で処理をして、最終的に綺麗な空気にして外に出す。部屋の中の空気に含まれる菌やウイルスは処理出来ても、綺麗な空気を出すだけなので、表面付着菌は処理出来ない。この本体内での処理の仕方が各メーカーで違いがあり、そこで競争が繰り広げられている。

一方、ステライザは処理の仕方に特徴がある。本体の中で作った特殊な処理をした気相活性酸素種(ROSマルチプラズマ)を、極超音波で空間上に主成分とする過酸化水素を拡散する。成分が直接部屋中に届くので、表面付着菌(ウイルス)を除菌・不活性化出来るのだ。極超音波拡散方式は、手の届かないエアコンのフィルターなどにも直接効果を届ける事が出来る。

ステライザは昨年にはできていて、情報を聞いた医療関係者も発注があったが、当時はまだ大量生産できる体制が整っていなかった。そこで新井氏が今までのネットワークから大量生産の体制整備や販売ルートの開拓を請け負うことになった。

誰かと協力したい、と考えた新井氏にある2人の顔が浮かんだ。その一人が本杉亀一氏である。愛知県豊橋市で電器工事会社「大弘電機」の代表取締役をつとめる本杉氏とはもともと、東日本大震災後、プロ野球のヤクルト、中日などで投手として活躍した川崎憲次郎氏のチャリティー活動を通して知り合い、仕事上のつながりもあった。新井氏から話を聞いた本杉氏がこう明かす。

「ステライザの力が本当だったら、このコロナ禍の世の中に役立つものだと思いました。自分なりに情報を精査して、これは本物だと認識出来たので、協力させて頂いてます。ただ、この規模の社会貢献をしようとなるとボランティア程度の協力では役に立てないだろうと思い、自分の出来る範囲になりますけども、ビジネスとして成り立つよう、考えながらやっています。

立場上、経営者の方とお話しする機会が多く、『自分だけの富じゃ駄目』『世の中が良くならないといけない』と教えて頂いていました。結果、私も自分だけじゃなくて世の中に何か役に立つことができたらいいなとと考えるようになりました。成功されている経営者の方は、ビジネスの話じゃなくて人柄の話ですごく褒められるケースが多いです。

社員との接し方、取引先との接し方、そして家族との接し方を見て『人に優しい』という共通項があった。僕もそういう人になりたいなと考えたんです」

「巨額の出資オファー」を断った理由

その本杉氏の頭に浮かんだのが、ブラインドサッカー日本代表の高田敏志監督だった。高田氏とは共通の知人を通じて知り合い、サッカー男子、女子の日本代表戦なども一緒に観戦する仲で、のちに高田監督を新井氏に紹介することになる。

高田氏はパラリンピック種目の日本代表を指揮する立場。コロナによって開催が1年間延期が決まり、動揺は隠せなかった。選手の心身のコンディションをもう一度ピークに持っていくことに加え、コロナ対策にも頭を巡らせなければいけなくなった。視覚障がい者は晴眼者よりもずっと多くの場面で手でいろんなものを触りながら物事を把握するため、表面付着菌から感染するリスクは非常に高い。高田氏が振り返る。

「パラリンピックの延期が決まった後に、実は私がサッカーでお世話になった恩師の方がコロナで亡くなって、心が折れそうな時期がありまして……。そんな時にステライザの話を聞きました。今もそうですが、手洗い、うがいをしてマスクして、アルコール消毒したとしても、それで完璧に防げるわけでもない。薬も見つかっていないので、解決するのではなく、うまく付き合っていかなければならない中で、ステライザがあることによって、未然に防げる可能性が高くなることがわかりました」

そんな高田監督に対し、本杉氏はステライザを無償で提供した。高田監督はブラインドサッカー日本代表合宿時のミーティングルームや練習場のロッカーなどで使用を開始した。ステライザの効能の理解を深めるために高田監督ら3人で未来科学株式会社の開発者のもとに何度も足を運び、話を聞いた。すると、ステライザの未来はスケールの大きなことに挑んでいることを知る。本杉氏が振り返る。

「今、最優先で取り組んでいるのが『ウイルスや細菌を可視化できる装置を作ることだ』ということでした。

特殊な技術を使ったカメラで、人の体に付着するウイルスや細菌を発見し、それがどういう細菌、どういうウイルスかということを90%以上の確率で合致させる。詳細は言えませんが、カメラの開発はもう終わっています。通常、細菌やその10分の1~50分の1の大きさのウイルスを防犯カメラから可視化することはできないんですが、それを可能にする技術を開発したのです」

人間、誰もが見えないことに対して不安を抱く。新型コロナウイルスも、特効薬やワクチンがないだけでなく、見えないことが人類の不安を募らせている。ただ、これが可視化できるようになったら、ウイルスのある場所にはいかなくなるので、“予防ができる”という意味で画期的だろう。

2019年7月中旬、ブラジル代表と対戦した時、日本代表・黒田智成に指示を出す高田氏。全盲の選手にわかりやすく説明するため、指で背中に書いて指示を出すことが多く、指導の場面でも接触は多い

「ステライザ」や「可視化システム」の情報をいち早くキャッチした大手通信会社のトップや複数の世界的IT企業から、「出資をしたい」と申し出があった。しかし、開発者はすべて丁重に断ったという。そこには開発者が、日本から25年にもわたりグローバルテクノロジーで出ていないことへの危機感と世界的IT企業にビッグデータビジネスを占有されて日本の国力が弱まることへ懸念があった。そしてステライザの開発者の考えに賛同したその一人、本杉氏が内幕話を明かす。

「開発者に出資のお話が来たときに、量産体制が整っていなかったというタイミングの問題もあったと思いますが、それ以前にサプライヤーの権利は絶対手放しちゃいけない、と思っていました。僕らの目的は『コロナを撃退する』『人の役に立ちたい』、そのために『ステライザを普及させたい』ということなんです。

でも出資をしたいという申し出は大抵、経済が優先されるので、僕らが願う『普及』のところを後回しにされる可能性が多分にありました。会社を手放して巨額のお金を手にしたとしても、その後、出資先が興味がなくなって予想よりも早く撤退してしまったら、普及ができないまま終わってしまう。

私はこれまで似たようなケースを何度も見てきました。僕らのフィロソフィーを変えずに事業を継続できる組み先を選ぶ必要があったんです」

多くの企業と向き合ってきた新井氏のネットワークにより、上場企業の協力を得て、大量生産できる仕組みが整った。また、ブラインドサッカー日本代表選手、スタッフからまだ一人も感染者を出していない高田監督はもともと、IT企業でエンジニアの仕事をしていた経験があるため、ビジネスやスポーツ関連の交流の中でステライザについて発信している。新井氏はこう明かす。

「感染症流行時には治療の選択肢がほとんどない中で抗生物質を大量に投与する場合があるため、あらゆる薬剤に耐性を持つ超多剤耐性菌が一部で拡大する懸念がありましたが、変異種が出てきたのはその表れだと思います。でも薬がない今のままでは、感染爆発がおこるたびに経済的な崩壊へのおそれを繰り返すだけです。だとしたら、まずは予防を第一に考えて正しくおそれることが大事だと思います」

世界屈指の空間除菌器の登場で予防への意識を高めることができるか。今後の動向に注目が集まる。

◆ステライザの詳細、問い合わせ先はこちら

HP:https://daikoudenki.jp

メール:info@daikoudenki.jp

左から高田敏志氏、新井幸子氏、本杉亀一氏(撮影:渡辺充俊)

ステライザの秘密  高木ちえ子著

  • 撮影渡辺充俊漫画高木ちえ子

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