会社員・作家 くどうれいん「言葉にできない“日常”を文章に」
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多くの人が見逃してしまう日常の一コマを文章に変える作家がいる。岩手県盛岡市在住のくどうれいん(26)だ。
くどうはエッセイ、俳句、短歌などマルチに活動する作家で、’20年にはエッセイ集『うたうおばけ』(書肆侃侃房(しょしかんかんぼう))を発表し、文芸誌『群像』(講談社)で連載も開始した。言葉はどこから生まれるのか。
「日常の細かな部分に目を向けるようにしています。中学生時代から俳句に触れていたので、日常の小さな気づきや心の動きを短くシンプルな言葉で切り抜くクセがついていました。自分に特別な感性やセンスはないと思っています。これまで好奇心にまかせて自分が好きなことを楽しんでいたら、その経験が自然に執筆に活きたという感じです」
くどうが文学にのめりこんだきっかけは、中学生時代に母親に連れられ参加した地元の俳句会だった。
「ある日、地元で俳人の句碑が建立されることになり、そのお祝い会があると回覧板が回ってきたんです。俳人しかいない会に素人の母が参加して、そのまま俳句会に所属。仕事が忙しくなって、俳句を書く余裕がなくなった母は私に俳句を書かせ、『娘の句です』と持って行ったところ、句会のみんなが大喜び。『これから娘も連れてきなさい』と、私も句会に所属することになったんです(笑)」
彼女の文章は、個人的な経験や日常を描きつつ、飾り気のない表現で誰もが共感できる感情を呼び起こしてみせる。‘17年に発表した『わたしを空腹にしないほうがいい』では、日々の「食事」をテーマに、自身の失恋経験や小さな悩みを明るく描いた。
「私にとって言葉をつづることは、ある瞬間をぎゅっとまとめて手元に残しておけるものです。社会という大きな物語に自分自身が消費されないためのものでもあります。私は人生の手綱を自分で握れるように日常に起こることを書き留めておきたいんです」
彼女は会社員として働く傍(かたわ)ら、作品を書き続けている。多忙な生活を送る彼女が‘21年の抱負をこう語る。
「私は自分の実体験を誰かのためではなく、自分のために書いています。それを面白いと思ってくれる人たちに会いにいきたいです。自分とは違った環境で生きてきた人たちが自分の作品をどう受け止めるのかが気になるんです」
彼女の文章はせわしなく生きる現代人に、ありふれた日常の大切さや喜びを改めて教えてくれる。
『FRIDAY』2021年1月22日号より