ローマ教皇が親書 20年の元懲役囚が「出所者の会社設立」の理由 | FRIDAYデジタル

ローマ教皇が親書 20年の元懲役囚が「出所者の会社設立」の理由

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19年11月、ローマ教皇が来日した際に東京の教皇庁で写真を撮った五十嵐氏。教皇は快く撮影に応じてくれたという(画像:五十嵐氏提供)
19年11月、ローマ教皇が来日した際に東京の教皇庁で写真を撮った五十嵐氏。教皇は快く撮影に応じてくれたという(画像:五十嵐氏提供)

面接を受けた企業は100社以上にのぼる。だが、すべての会社から断られた――。

詐欺や窃盗、私文書偽造など様々な犯罪をおかした五十嵐弘志氏(56)は、過去に計3回、20年にわたり懲役に服した。出所したのは11年の年末。生活保護を申請するために都内の区役所に行くと、「仕事をしなさい」と指導された。五十嵐氏が振り返る。

「出所者の就職は、予想以上に厳しかったです。長い間刑務所にいたため、社会の雰囲気はすっかり変わり浦島太郎のような気分でした。パソコンの扱い方すら、まったくわからないんですから。履歴書に、自分の犯罪歴を正直に書くこともためらわれた……。生活保護を受けながら、会社の規模を問わず100社ほど受けましたが、すべて落とされました」(以下、ことわりのない発言は五十嵐氏)

なんとか職につこうとハローワークを訪れた時、職員から心無い言葉をかけられる。

「生活保護を受けて、恥ずかしくありません?」

五十嵐氏が続ける。

「完全にキレましたね。『ふざけんな! 好きで受けているわけじゃないないんだ。他に何に頼ればいいんだ!』と、職員を怒鳴りつけました。腹が立って仕方なかった。真剣に更生しようとする人間に対し、あまりにも無神経な言葉だと思いました……。以来、仕事探しを辞めてしまったんです」

五十嵐氏は、服役中からキリスト教に帰依していた。留置所でたまたま一緒だった日系ブラジル人の話を聞いて、手紙を書きカトリック教徒の弁護士やシスターに接触。刑務所内で、心のより所としていたのだ。

「孤独だったんですよ。家族とも連絡が取れず、死のうと思ったこともあります。ツラくて、情けなくて……。助けてほしかったんです。キリスト教の教えに接し、心が楽になりました。自分のイヤな部分、汚い部分を、素直に見つめられるようになりました」

手紙を送りローマ教皇と面会

ローマ教皇から五十嵐氏に届いた親書。「日本の受刑者のために祈りを捧げます」と書かれている
ローマ教皇から五十嵐氏に届いた親書。「日本の受刑者のために祈りを捧げます」と書かれている

出所後の就職活動を中断した五十嵐氏は、毎日通っていた教会の司祭や修道士らに相談。元受刑者の社会復帰が、どれほどハードルが高いか訴えたのだ。そして、彼らを支援する団体を設立したいと。

「司祭たちは、こう言って背中を押してくれました。『体験者であるアナタだからできることがある。やりなさい』と」

五十嵐氏が理事長となり、出所者の社会復帰を支援するNPO法人「マザーハウス」の認可が東京都から下りたのは14年5月。五十嵐氏は刑務所で一緒だった服役囚たちに、「出所したら支援します」と手紙を書いた。その数は1000通近くになる。

「多くの出所者は正社員になれず、将来設計がしづらい派遣労働の仕事をしています。正社員への門が狭い要因は、社会の認識の低さがある。出所者の多くが、なんとか更生しようと努力しているんです。社会は『元犯罪者』という偏見を捨て、彼らを受け入れる制度を設けるべきでしょう。

出所者は、社会に出ても肩身が狭いものです。犯罪歴を隠していると、ウソをついているようで強いストレスを感じるようになる。社会が受け入れなければ居場所がなくなり、再び犯罪に手を染めることになるんです」

支援団体「マザーハウス」は、出所者の就労支援の一環としてコーヒーの製造・販売や、引っ越しの手伝い、本やDVDのリサイクルなどを行っている。五十嵐氏はそうした活動内容をまとめ、カソリック教会関係者を通じ、ローマのフランシスコ教皇に手紙を送った。

「すると、ローマ教皇から親書が届いたんです。『日本の受刑者の人たちのために祈っています』と。19年11月に教皇が来日した際にはローマ教皇庁大使館に招かれ、教皇と面会することができたんです。感激で身が引き締まる思いでした」

五十嵐氏らの活動により、雇用される出所者は年々増えている。法務省の「犯罪白書」によると19年の「協力雇用主」は1500ほどで、就職した出所者は約2200人。10年前の5倍になる。

「状況は改善されているとはいえ、まだまだ出所者に対する社会の目は冷たいです。更生しようと努力する人間に、もっと就労への門戸を開いてほしい」

五十嵐氏は出所者の就職が難しいなら自分たちで作ろうと、昨年12月「ルツ」という会社を正式に立ち上げた。社員はすべて元受刑者で、清掃などの仕事を請け負う。社名は、旧約聖書に登場する麦の落ち穂を拾う女性「ルツ」に由来する。同社で働く、30代男性が語る。

「私は強盗や強制わいせつなどで、5年間刑務所に入っていました。出所後は住む場所にも困る日々。そんな時に弁護士を通じて、五十嵐さんのことを知ったんです。『ルツ』は肉体労働が多く体力的にキツいこともありますが、精神的にはすごくラクです。すべての社員に犯罪歴があるので、自分の過去を隠す必要がありませんから」

「社員には仕事を通じて人から感謝される喜びを知ってほしい」と語る五十嵐氏。自身のツラい体験からも、出所者がスムーズに社会復帰できる体制を整えることが、再犯率が40%以上になる現状を改善するために必要だと訴える。

作業をする「ルツ」の社員たち。みな犯罪歴がある
作業をする「ルツ」の社員たち。みな犯罪歴がある
「マザーハウス」の事務所に立つ五十嵐氏。マザーテレサの写真などキリスト教関連のアイテムが目立つ
「マザーハウス」の事務所に立つ五十嵐氏。マザーテレサの写真などキリスト教関連のアイテムが目立つ

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