ギャンブル・FXの借金地獄から生還「IT社長の壮絶半生」 | FRIDAYデジタル

ギャンブル・FXの借金地獄から生還「IT社長の壮絶半生」

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田中氏の会社は希少なネパールの「ヒマラヤンコーヒー」豆の輸入やインターネット販売も請け負っている。田中氏が現地で(画像:田中氏提供)
田中氏の会社は希少なネパールの「ヒマラヤンコーヒー」豆の輸入やインターネット販売も請け負っている。田中氏が現地で(画像:田中氏提供)

キッチンに立つと、ヒザがガクガク震えた。包丁を持って家族を追いまわし、自分の胸を刺す……。猛烈な不安から、地獄のような妄想が浮かぶ。男性は追い込まれていた。ギャンブル地獄にはまり、トータルで5000万円近い借金を抱えていたのだーー。

地獄から生還した男性……ソフトウェア開発などを行うIT企業「要」社長・田中恵次氏(50)が振り返る。

「何度も賭け事は止めようと思いました。それでも、また始めてしまうんです。負ける、借金をする、取り戻そうとしてさらにのめり込む……。マイナスのスパイラルにハマっていました。妻が貯めた、大切なおカネにまで手を出していた。情けなくて、惨めで……。それでも止められないんです。自分には生きている価値などないと、絶望的な気分でした」

学生時代から本格的にギャンブルにハマり、借金は膨らむばかり。大切な家族は、崩壊寸前。それでも田中氏はどん底から立ち直り、現在年商10億円を超える会社のトップになった。奇跡の復活を遂げた男の、勇気湧く物語を紹介したい。

「生まれは東京下町の墨田区でした。金属加工の職人だった父や9歳年の離れた兄は、ギャンブル好き。『晩御飯の支度ができたからお兄ちゃんを呼んできて』と母に言われると、パチンコ店に兄を探しに行くような日常です。幼い頃から、ギャンブルが身近にあったんですよ」

そう語る田中氏は、姉とも11歳年が離れていた。年の差のある姉兄と遊ぶ機会は少なく、一人で読書などすることが多かったという。田中氏は、少年時代の長い一人の時間がギャンブルにハマる土壌を培ったと考えている。

「個人で考えて予測するのが、賭け事ですからね。幼い頃に身についた空想癖が、ギャンブルと親和性があったのかもしれません」

思索することを好む田中氏は、勉強が苦ではなかった。高校は名門・早稲田実業に進学する。入部したのはボート部だ。

「よく戸田公園(埼玉県戸田市)で練習していました。戸田には、近くに競艇場がある。ボートのエンジン音を聞いて、身近に感じていました」

早実から早大法学部に入学。だがサークル活動などに夢中になり、あまり熱心な学生ではなかったという。

「おかげで留年してしまいました。4年生になると、周囲の仲間は就職活動をしている。留年しているから、私だけ話が合わない。自然と距離ができ、朝からパチンコ店に入り浸る日々です。翌年、就職活動を始めましたが、またもや留年。一部上場企業に内定が決まっていたのに、取り消しですよ。自業自得とはいえヤケになり、競艇やパチンコにハマっていきました」

ご祝儀や入院見舞金までつぎ込む

大きな大会があれば地方にも出向いた。写真は「まるがめ競艇」(香川県)に行った際、勝ちを願い金毘羅様をお参りした時の1枚(画像:田中氏提供)
大きな大会があれば地方にも出向いた。写真は「まるがめ競艇」(香川県)に行った際、勝ちを願い金毘羅様をお参りした時の1枚(画像:田中氏提供)

卒業しても定職につかず、田中氏は毎日のように競艇場に通っていた。

「パチンコの専門雑誌を読むと、それなりにコツがわかり小遣いぐらいは稼げたんです。それを元手に、競艇場に通っていました。6艇のボートで争う競艇は、通常18頭で争う競馬より当たる確率が高い。しかも私は、高校時代ボート部で水上の予測は得意だ。そんな根拠のない自信も後押しし、ギャンブル漬けになっていったんです」

大学卒業から1年経ち、田中氏はようやく就職する。競艇場のシステム開発する会社だった。

「当時はネットでなく電話投票でしたが、仕事中から賭けていましたね。職場のテレビ画面には、全国の競艇場の様子が映されているんです。四六時中、頭の中は競艇のことばかりでした」

田中氏は当時、後に奥さんとなる紀子さんと交際していた。デートコースは、もちろん競艇場。大きなレースがあると、大阪や広島まで出向いた。

「もう、この頃にはクビが回らなくなっていました。負けが込み、取り戻すために借金。スッカラカンになって妻に無心するだけでなく、実家に帰り土下座してカネを借りたこともあります。自分で自分のシリを拭えない状態になっていたんです」

頭では「このままではマズい」とわかっていた。環境を変えるために結婚をした。子どももできた。家も建てた。だが……状況は改善しなかった。

「もう自分で自分がわからなくなっていました。結婚式のご祝儀や、バイク事故で入院した時のお見舞金も、妻に内緒で競艇につぎ込んでいたんです。複数のサラ金からカネを借り、期日には返済のために数社を回る仕末。家の電話が鳴るたびに、取り立てではないかとビクビクしていました。借金は1000万円を超え、気が気ではありません。

妻に隠し事をしている、ウソをついている。借金を返すために借金をし、また賭け事をする。ツラくて仕方なかった。キッチンに立つのが怖くなったのも、この頃です。精神的に追い込まれ、正常な判断ができない状態でした」

サラ金のカード11枚

田中氏が社長を務める「要」のオフィス。社員は明るく活気がある
田中氏が社長を務める「要」のオフィス。社員は明るく活気がある

ある日、妻の紀子さんが洗濯をしていると田中氏のズボンからサラ金のカード見つけた。「どういうこと」と詰め寄り財布などを調べると、出てきたカードは全部で11枚。田中氏は、すべてを白状するしかなかった。

「でもダメでした。妻に『今度こそ止める』と宣言しても、また始めてしまう。さすがに愛想をつかされ、妻から『別れましょう』と言われました。『その前に病院に行ったら。アナタ、本当におかしいから』と」

田中氏が30代前半の時だ。依存症の専門病院に行くと、医者はこう話した。

「ギャンブル依存ですね。医者として治すことはできません。ただ自助グループに行けば、症状が改善する可能性はあります」

田中氏が続ける。

「自助グループの会場には、依存症の方が15人ほどいました。私は偏見からホームレスや、反社会的な人たちだろうと思っていた。現実は違いました。税理士に学校の先生。皆さん、社会的には立派な肩書きの人たちばかりだったんです。彼らは『賭け事を止めて5年になる』『10年になる』と話します。苦しんでいるのは自分だけじゃないんだとわかり、励みになりましたね。私も更生できるんじゃないかと、希望が持てました」

自助グループの仲間たちの話を聞き、徐々に気落ちがラクになった。妻の貯金や保険を切り崩し借金を返済。田中さんはギャンブルをしなくなる。時間やカネが自由になる喜びを、初めて味わった。だが、再び悲劇が襲う。

「競艇を止めて4年が経っていました。会社でトラブルが起き、部下が辞職したんです。責任は私にもありました。『やってられない』と、自暴自棄な気持ちになりました。現実から逃げ出したいと。ただギャンブルから遠ざかっていたので、もう競艇には興味がありません。手をつけたのがFXでした」

田中氏は800万円ほどの借金を負い、自宅の不動産を担保にしようとする。家に届いた書類から事態が発覚。再び家庭は修羅場とかす。

「結局私は、ツラいことがあるたびにギャンブルやFXで現実逃避していたんです。妻から、必死に説得されました。自助グループの『(更生する)12のステップを試してみたら』と。ギャンブルを止められていたので、私はその更生プログラムを『やる必要ない』と決めつけていました。

『12のステップ』とは、これまでギャンブルでどれだけ人に迷惑をかけてきたかを書き出し、自助グループの先輩に告白。迷惑をかけた人たちに連絡し、直接謝罪するというものです。連絡すると『顔も見たくない』と突き放されることもありましたが、『今さらイイよ。よく謝ってくれたね』と温かい言葉をかけられることが多く救われる気持ちでした。時間はかかった。でも少しずつ罪の意識から解き放たれ、生まれ変われた気分になったんです」

当時、日本経済はリーマンショックに翻弄されていた。所属していた競艇関連会社も、不況から事業を縮小。田中氏は「賭け事から完全に脱却し自分を変えよう」という意識から、会社を辞め10年7月にシステム開発のIT企業を立ち上げる。40歳の時だ。

「社員は私一人でした。ただ前の会社からのお客さんが仕事を受けてくれたり、経済がリーマンショックから回復傾向だったのが追い風になりました。『オレには後がない』と、必死だったのも良かったと思います。設立から10年余りで社員78人、売り上げ10億円にまで成長しました。

今は、ギャンブルにまったく手を染めていません。どんなにツラい状況でも、必ず抜け出すことができる。私が身をもって体験したんですから、間違いありません。新型コロナウイルスが蔓延し、苦しんでいる人は多いと思います。でも、いずれツラい時期は終わります。私の経験談を読んで、少しでも気持ちがラクになってくれたら幸いです」

田中氏は、今の自分があるのはどん底の状態でも、貯金を切り崩し励まし続けてくれた妻のおかげと話す。妻の紀子さんは、14年2月に公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」を設立。代表として、賭け事に悩む人たちを支援している。

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