『スターな男』ユニコーンとダウンタウンが拓いた「90年代の扉」 | FRIDAYデジタル

『スターな男』ユニコーンとダウンタウンが拓いた「90年代の扉」

スージー鈴木の「ちょうど30年前のヒット曲」、今回は「真の90年代」の幕開けを告げたこの曲!

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2004年、広島カープのキャンプを訪問した奥田民生(右)と山本浩二監督

ちょうど30年前のヒット曲を紹介しています。30年前は91年の1月。今回は91年1月21日にシングルとして発売された、ユニコーン『スターな男』です。

写真は、04年の奥田民生(ユニコーン)と、奥田が愛する広島カープ・山本浩二監督(当時)のツーショット。ちなみに91年当時のカープ監督も山本浩二で、この年リーグ優勝を成し遂げています。

さて、『ビートたけしのオールナイトニッポン』がスタートし、大滝詠一『A LONG VACATION』が発売された81年から「真の80年代」が始まった感があるように、「真の90年代」も、91年から始まったような気がするのです。

今回は、91年前後に、音楽好き・お笑い好きの私(当時25歳)に訪れた「僕たちの90年代が始まった」という感覚について書いてみたいと思います。

前年90年10月に傑作アルバム『ケダモノの嵐』を発表。さらに創作意欲は留まらず、11月『おどる亀ヤプシ』、12月『ハヴァナイスデー』と3ヶ月連続で(ミニ)アルバムをリリースした、まさに絶頂期のユニコーン。

『スターな男』は『ケダモノの嵐』のラストに収録された曲。実にかっこいいロックンロールで、彼らの代表曲の1つと言っていいでしょう。

「実にかっこいいロックンロール」という手垢の付いた表現をしましたが、この曲、「実にヘンテコなロックンロール」でもありました。とにかく、聴いている途中で「?」マークが脳内を駆け巡るのです。

エイトビートが途中でフォービートに突如変化、転調も奇天烈で、そもそもタイトルからして「スターな男」と、何となくヘンテコ。

注目すべきは歌詞です。内容をかいつまんで言えば、「俺はロックンローラーとして、いま絶頂だけれど、恋人は平凡で清純な地味な女」というもの。

この歌詞のヘンテコさは、今となっては、理解し難いかもしれません。当時は「バンドブーム」や「イカ天・ホコ天」(若い方は検索を)のブームで、所帯じみた私生活を一切さらさない「ロッカー」たちが人気を得ていました。

対して、『スターな男』の歌詞は、そんな風潮へのパロディになっているのです。コミックソングぎりぎりと言っていいでしょう。

つまりユニコーンは、独自の批評的な目線を武器に、「バンドブーム」や「イカ天・ホコ天」という、その後すぐに廃(すた)れるムーブメントへのカテゴライズを、執拗に拒んだバンドだったのです。

才能やルックスの点で「ロッカー」になれなかった私は、一部の音楽番組や音楽雑誌が推奨する「バンドブーム」や「イカ天・ホコ天」を窮屈に感じていたこともあり、ユニコーンを「これぞ、僕たちの音楽だ」と思ったものでした。

『スターな男』は、あるお笑い番組の主題歌となりました。フジテレビ『夢で逢えたら』。出演者は、ウッチャンナンチャン、清水ミチコ、野沢直子、そして――ダウンタウン。

ダウンタウンが90年代のお笑い界を制した、という言説に、異論を持つ向きは少ないでしょう。90年代とはダウンタウンのディケイド(10年間)でした。

ロック界におけるユニコーンと同様に、ダウンタウンも、当時のお笑い界の中で強烈な異彩を放っていました。その異彩こそが、90年代を制する最強の武器だったのです。

最近になって「お笑い第三世代」とくくられがちなユニットの中で見てみれば、ダウンタウンが放った異彩が分かります。つまり、とんねるず、ウッチャンナンチャン、B21スペシャル。その中のダウンタウン。

まずは関西から出て来たこと。今では信じられない話ですが、当時の全国メディアの中では、関西芸人や関西弁は、まだまだマイノリティでした。明石家さんまがこじ開けた、関西から全国へのけもの道を、整地して舗装したのが、ダウンタウンと言えるでしょう。

そして、ここが重要なのですが、ダウンタウン、特に松本人志には、他の「第三世代」が持ち得なかった強烈な批評性があったこと。お笑い界、ひいては社会を、斜めから/あさっての方向から/ねじれの位置から見る感覚。

その批評性は、ユニコーン、特に奥田民生のそれと通じるものがありました。当の彼らも響き合うものがあったのでしょう。ユニコーンの奥田民生と阿部義晴は一時期、『ダウンタウンのごっつええ感じ』というお笑い番組にも出演していました。

音楽界とお笑い界のテンプレートを、その批評性で蹴飛ばして、ユニコーンとダウンタウンがのし上がってきた――「さぁ、僕たちの90年代が始まった!」

『スターな男』が収録されたアルバム『ケダモノの嵐』は、90年の日本レコード大賞「優秀アルバム賞」を受賞します。そのときの番組を録画した私は、この30年の間、何度も何度も見ています。

90年12月29日、大阪八尾市プリズムホールからの生中継。このときの『スターな男』はまさに絶頂。完璧なリズムセクションをバックに、奥田民生のボーカルは果てしなく響き渡り、なぜか花をくわえた阿部義晴は、興奮してキーボードの鍵盤にキックします。

それは、絶頂期ユニコーンのヘンテコなロックンロールが、「バンドブーム」と「イカ天・ホコ天」を、遠い彼方にまで放り投げ棄てた瞬間でした。

  • スージー鈴木

    音楽評論家。1966年大阪府東大阪市生まれ。BS12トゥエルビ『ザ・カセットテープ・ミュージック』出演中。主な著書に『80年代音楽解体新書』(彩流社)、『チェッカーズの音楽とその時代』(ブックマン社)、『イントロの法則80's』(文藝春秋)、『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮新書)、『恋するラジオ』(ブックマン社)など。東洋経済オンライン、東京スポーツ、週刊ベースボールなどで連載中。

  • 写真共同通信社

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