コロナ禍で開業でも「人気1位のホテル」を育てた若き社長の戦略 | FRIDAYデジタル

コロナ禍で開業でも「人気1位のホテル」を育てた若き社長の戦略

SNSを駆使して石垣島のリゾートホテルに次々に新しいアイデアを打ち出す、30歳の戦略家!

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インタビューに熱く答える佐々木社長(撮影:松井雄希)
インタビューに熱く答える佐々木社長(撮影:松井雄希)

渋谷の道玄坂を歩いていたら、飲食店の閉店がまた増えていた。こんな調子で昨年から不穏なニュースしか私たちは耳にしていない気がする。たまに和むと思えば、ワイドショーでペットの可愛い動画が流れてくるくらいだろうか。

ただ寂しい環境下でも、“伸びしろ”という言葉をひしひしと感じさせてくれる存在が確実にある。そのひとつが昨年の夏に沖縄県にオープンしたリゾートホテル『THIRD 石垣島』だ。

“オールインクルーシブ”という、ホテル内の施設の利用や食事が全て宿泊料金に組み込まれている、楽しみながら滞在できるシステムを取り入れた。ブックラウンジも用意されていて、ホテルから一歩も出なくても、充分にリゾートライフを満喫できるのだ。そんな空間を作り上げたのが、佐々木優也さんである。1990年生まれ、年齢は30歳だ。

「あの…大変な時期ではありますが…石垣島に…THIRD石垣島というリゾートホテルを開業しました…」

これが2020年の8月16日、佐々木さんが発信したTwitterの一部。コロナの真っ只中、8月にホテルのオープンをTwitterで告知をするとたちまちバズり、ホテルサイトの人気ランキングでは石垣島で第一位に、沖縄県ランキングでも第三位にランクインを果たした。

この圧倒的な伸び率には必ず何か策略、そしてバカウケした理由がある。これを知ることは、史上最高の不景気状態と言われる現在に、少しでもいい情報を提供できるかもしれない。それらを確かめるために、佐々木さんに直接取材を申し込んだ。

「ストレスで胃薬と睡眠薬のお世話になりました(笑)」

“30歳でリゾートホテルの社長”。このパワーワードのような肩書を聞くと、取材当日にはどんなチャラ男が登場するのかと、ちょっとワクワクしていた。

ところが、取材当日に現れたのは上品なスーツに身を包んだイケメンかつ、紳士。物腰も穏やかで、良い意味で期待を裏切られてしまった。ただ、ギャル男並みに黒肌なのは、ほぼ石垣島で生活をしている働く男の勲章だろうか。その感想をそのままご本人に伝えると「それ、よく言われるんですよ」と笑った。その笑いの奥に並々ならぬ決意があることを、この後知ることになる。

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――『THIRD 石垣島』は2018年の年末くらいから建築計画が持ち上がっていたそうですね。

本来、別の会社が石垣島にカプセルホテルを作ろうとしていたらしいのですが、それが急遽中止に。そこで僕に銀行から打診があったのですが、カプセルホテルにニーズがあるわけがない。一から全てホテル計画を練らせてくれるのなら、と始まったのが『THIRD 石垣島』です。

――『オールインクルーシブ』というリゾートホテルのシステムは、日本でまだ馴染みがない気がします。ファミリー富裕層が行くような高級なイメージがありますよね。

おっしゃる通りです。でも私たちが客層のターゲットに定めたのは、僕の年齢と同じ“ミレニアル世代”。この世代は国内に施設が少ないせいか『オールインクルーシブ』を1〜2%程度しか体験していないんです。そういう世代に来てもらいたいと、宿泊料も時期によりますが2万5千円平均です。宿泊人数も2.5人で、カップルや女性同士の旅行がほとんどです。

――ミレニアル世代に定めた理由を教えてください。

まずは、僕たちホテルチームが共感できる世代であることです。自分が楽しいかどうかで、是非を判断できる世代へ“刺しに”行きました。あとは競合するホテルを調べてみると、40代以降に向けた造りが多いんです。料金も高価ですし、ならまだ開拓のできる違う世代を狙ってみようと。プロモーションに関してもミレニアル世代が触れることの多い、TwitterをはじめとするSNSを積極的に使いました。これも効果がありました。

もちろん、コロナ禍でホテルをオープンさせたのですからSNSには厳しい意見も届きます。でもそれはあくまでもひとつの意見だと捉えているので、私たちホテルが振り回されることはありません。後ほどお話ししますが、ヒットするために考えてきた策を遂行していくことを優先したいので。

――その狙いは見事に当たり、石垣島の人気ホテルランキングで第一位になりましたよね。コロナ禍で経営にあえぐ観光業の中で、とんでもない偉業だったと思うのです。

ありがとうございます。ただ……実際はいろいろありました……。コロナ禍でオープンは2度ほど遅れました。それでもなんとか夏にオープン日を決めたんですけど、その日の午後に沖縄県の緊急事態宣言が発令されまして……。もう変な汗がブワーっ! と吹き出てきました。(笑)

――キャンセルが続出されましたよね。

2020年は当ホテルの宿泊率は、ずっと大波小波を描くようでして……ね。オープン当初はほぼ満室の状況だったものが、緊急事態宣言で一気に39%まで落下。でも『Go to トラベル』のおかげなどもあって、年末年始や来年のゴールデンウィークも満室の状況でした。でも今は(1月22日現在)は、二回目の宣言を受けて休業を決意しました。

――……聞いているだけでも怖くなる、ジェットコースターに乗っているような状況が続いていますが……体調は崩さなかったんでしょうか?

オープンからずっと胃薬を飲んでいて、時には睡眠薬のお世話になることもありました(笑)。でもひたすら動きました。不安であることは変わらないですけど、何もしていないと不安は募るばかりですから。置かれた環境の中で、ベストを尽くすことだけはしようと思っていましたね。

目指すは世界一「すでに沖縄県に次のホテルを建設中です」

――政府からの明確な補償がない状況でも、現在休業されているということは継続するリスクが高いということですよね?

そうです。政府に続く形で沖縄県独自の緊急事態宣言が1月19日発令されてから、宿泊キャンセルが相次いで、稼働率が10%切るかもしれないという状況まで落ち込みました。僕はホテルだけが助かればいいと思っていないんですよ。周囲には交通やリネン系など、たくさんの業者が関わってくれています。もちろんホテルが止まればそこに影響が及ぶことも分かっていましたが、大元=ホテルが倒れたら元も子もないですから。

――現地はどんな様子でしょうか?

当たり前ですけど人は本当に減りました。閉店している店舗も施設も増えましたし……ただ現地だけを見ると、危機管理が少し緩いような気がします。

――というのは、住民のみなさんが……ということでしょうか?

飲食店でもマスクや手袋をしないで調理をしている様子も見かけます。むしろ、観光客側のほうが感染対策に気を遣っていると僕は思います。だいぶ遅れて緊急事態宣言は発令されましたが、起こるべくして起こったことではないかと思うのです。

――そんな状況に追い込まれても、ホテル経営を続けていきたいですか?

はい。もうすでに沖縄県の各所に新しいビーチリゾートホテルの建築を計画しています。

――ええっ!? このコロナ禍でも計画が進んでいるんですか?

『THIRD 石垣島』での実績ができたので、スポンサーからお声がけがありましてこの1年半〜2年以内にはいくつかが完成予定です。まだまだホテルは作り続けます。大学生から色々な企業を繰り返してきて「稼げればいいや」という気持ちでしたけど、今は違います。一生をかけてやっていきたい。

――未来のある意志を否定するつもりはないのですが、まだ『THIRD 石垣島』もどうなるのかはわからない状況下ですよね。

そうですね(笑)。でも先ほど申し上げた通り、止まらないことが大事だとも思っていますし『THIRD 石垣島』に関しても、クラウドファンディングを開始しました。あとホテル業とは別に、スイーツブランドも立ち上げます。ホテルのスイーツを食べたいという声に応える形で、現地沖縄の豆腐などの素材をベースに使ったスイーツを第一弾として提供します。観光業、ホテル業だけでなく、それを陰で支えていただいている地元の食品製造、食品生産などもかなりのダメージを受けています。その方々に対して少しでも力になりたいですし。

――コロナ禍は想定外だったと思うのですが、ホテル経営に当たって、いくつもの切り札は用意されていたということでしょうか?

そうなんですよ。不測の事態に備えていくつかのシミュレーションはしていました。クラファンもその一つで、だいぶ前から経営企画なのです。もちろんコロナほどの事態は想定できていなかったんですけど、ホテル業だけで経営を考えていたわけではないです。今、日本のホテル経営者は年配の方が多いです。資金のある人たち同士で座組みを作っています。

これもいいんですけど(ホテル業界の)体質そのものが変わらない。なら僕たちのアイデアを取り入れて、変えていきたいんです。例えばスマホアプリは若い世代が作って、そのまま同世代に提供していますよね。そういうシステムを僕らがホテル業界で構築したいんです。

――勝ち筋は見えていらっしゃるということですか?

(一呼吸置いて)はい。これから5年以内に日本で一番に、10年以内にアジアで一番に、15年後には世界に出て行きたいと思っています。もちろん『星野リゾート』さんや『アマン』グループ、『リッツカールトン』さんはすごいと思います。僕は後発ですけど、若くしてホテル経営をしている人はいないので、そこを強みにしていきたいと思っています。

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オープン早々、大きな壁にはぶつかったけれど、佐々木さんからは日本の古い体質に警鐘を鳴らす考えが見えた気がする。

・スタート前にいくつも企画を用意

・経営側がユーザーと感動を共感できる世代にターゲットを定める

・止まらずに動く

これは様々な業界に適用することだ。どこかにメモっておいて欲しい。ちなみに私はシステム手帳に書いて忘れないようにした。佐々木さん、ありがとう。

取材後、佐々木さんから「なぜ僕を取材対象に選んでもらったのでしょうか」と聞かれた。素直に「ホテルのことをTwitterで知って、気になっていたから。こういう時代だから読んだ人のやる気が湧く話題を提供したかったので」と答えると「そうですか、ありがとうございます」とお礼を言われた。

ふと、これも若き社長による絶え間のないマーケティング、ブランディングなのかなと、改めて彼の意志の強さを感じた。

佐々木優也

スターリゾート(株)代表取締役社長。1990年7月13日生まれ、AB型。学生時代から美容商品などに関する起業に携わり、2018年よりホテル『THIRD 石垣島』の経営に乗り出す。SNSで若い世代に人気が高まり、石垣島人気ホテルランキングで第一位を獲得。元・高校野球児でもある。

THIRD石垣島外観(写真提供:THIRD石垣島)
THIRD石垣島外観(写真提供:THIRD石垣島)
THIRD石垣島のルーフトップ(写真提供:THIRD石垣島)
THIRD石垣島のルーフトップ(写真提供:THIRD石垣島)

 

THIRD石垣島のブックラウンジ(写真提供:THIRD石垣島)
THIRD石垣島のブックラウンジ(写真提供:THIRD石垣島)
THIRD石垣島のルーフトップテラス(写真提供:THIRD石垣島)
THIRD石垣島のルーフトップテラス(写真提供:THIRD石垣島)
  • 取材・文小林久乃

    エッセイスト、ライター、編集者、クリエイティブディレクター、撮影コーディネーターなど。エンタメやカルチャー分野に強く、ウエブや雑誌媒体にて連載記事を多数持つ。企画、編集、執筆を手がけた単行本は100冊を超え、中には15万部を超えるベストセラーも。静岡県浜松市出身、正々堂々の独身。女性の意識改革をライトに提案したエッセイ『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ刊)が好評発売中。

  • 撮影松井雄希(インタビューカット)

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