テレビの悪い癖?コロナの影響?「ホームドラマ5作乱立」の理由 | FRIDAYデジタル

テレビの悪い癖?コロナの影響?「ホームドラマ5作乱立」の理由

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『俺の家の話』(TBS系)のロケ撮影中のひとコマ。宮藤官九郎脚本作品で、随所に笑いが散りばめられている、
『俺の家の話』(TBS系)のロケ撮影中のひとコマ。宮藤官九郎脚本作品で、随所に笑いが散りばめられている、

平成初期以降はホームドラマが激減

1月の最終週にようやく2021年の冬ドラマが出そろい、全体の傾向や明暗が見えはじめている。なかでも目を引くのは、一般家庭を舞台にしたホームドラマの多さ。

モンスター妻に悩まされる銀行マンがタイムスリップで別の女性を妻にして人生をやり直す『知ってるワイフ』(フジテレビ系)。

能楽の人間国宝である父の介護や子どもたちの遺産相続を描く『俺の家の話』(TBS系)。

モノの気持ちがわかる繊細な主人公と彼女を見守る家族の物語『モコミ~彼女ちょっとヘンだけど~』(テレビ朝日系)。

売れない脚本家兼主夫の主人公が、売れっ子作家の妻や子どものために奮闘する『書けないッ!?~脚本家 吉丸圭佑の筋書きのない生活~』(テレビ朝日系)。

友だちのように仲のいい母と娘の恋と絆にスポットをあてた『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』(日本テレビ系)。

昭和や平成初期のころはホームドラマが多かったが、21世紀に入って以降は激減していただけに、新たな流れを感じさせられる。実際、1クール前の秋ドラマでは、元極道の主夫生活を描いた『極主夫道』(日本テレビ系)があったくらいだった。

なぜここにきてホームドラマが5作も放送されているのだろうか。

重苦しいムードを吹き飛ばす癒し

昨春からコロナ禍が続いているため、ドラマ業界は大幅なスケジュールの変更を余儀なくされた。実際、前述したホームドラマの中にも、「昨年放送予定だったが、コロナ禍の影響で延期され、今冬に放送している」というイレギュラーなケースもあり、偶然重なってしまった作品もある。

ただそれでも傾向として挙げられるのは、制作サイドの「シリアスな作風から離れよう」という意図。2010年代は視聴率の低下を食い止めるべく、人の命を扱う刑事ドラマや医療ドラマがとにかく多かった。

毎クールのように計5作以上が制作され、1年前の昨冬は何と計14作もの刑事ドラマ、医療ドラマを放送。ちなみに一昨年の冬は刑事ドラマ5作に加えて弁護士ドラマ3作も放送され、こちらもシリアスなシーンが多かった。つまり、「各局の戦略がかぶり、同じジャンルの作品が偏ってしまう」のはテレビ業界の悪癖なのだ。

「シリアスな作風から離れよう」としている理由は主に2つ。1つ目は不況、事件、事故、天災、ネット上の誹謗中傷など、コロナ禍以前から世の中に重苦しいムードが漂い、人々がドラマに癒しを求めるようになりはじめていたから。

昨年も『私の家政夫ナギサさん』(TBS系)のような悪い人が登場しない作品がヒットし、あの『半沢直樹』(TBS系)ですら悪役が笑いを誘う存在になっていたことからも、シリアスから離れようとしていることがわかるだろう。

実はホームドラマ復活の兆しは、2019年夏に『監察医 朝顔』(フジテレビ系)が放送されたころに表れていた。同作は、監察医が主人公の“法医学ドラマ”と、主人公家族の姿を描く“ホームドラマ”という2つの顔を併せ持つことでヒットにつなげ、現在は第2弾が異例の2クール放送されている。

第1弾の放送時から、上野樹里、時任三郎、風間俊介、加藤柚凪(子役)、柄本明が演じる家族の「優しさ」「温かさ」「穏やかさ」が称賛を集め、業界内では「こういうホームドラマが支持される時代なのだろう」という空気が生まれていた。

求められる「家族一緒に見られる番組」

さらにコロナ禍に見舞われたことで癒しを求めるムードは決定的になり、ホームドラマの価値はさらに上がった。その証拠に今冬はホームドラマ以外でも、医療ドラマですら牧歌的な世界観の『にじいろカルテ』(テレビ朝日系)、アラフォー女性が超熟女バーでの出会いを機に輝きを取り戻す『その女、ジルバ』(東海テレビ・フジテレビ系)などの癒しを感じさせる作品が放送されている。

また、コロナ禍の関連では、リモートワークや外出自粛によって、家族で過ごす時間が増えたことも大きい。かつてのように家族そろってテレビを見る機会が1年前よりも増えていることは間違いないだろう。

アニメ『鬼滅の刃』の地上波放送が高視聴率を獲得したように、各局はドラマを中心に家族で見られるコンテンツを手がけようとしている。

各局が家族で見られるコンテンツを手がけようとしているもう1つの理由は、昨春に行われた視聴率調査のリニューアル。世帯だけでなく個人の視聴率調査が全国で可能になったことで、各局がスポンサーの求める視聴者層に直接アプローチできる番組を制作しはじめている。

そのスポンサーの求める視聴者層は主に13~49歳とされ、そのまま家族層に該当するため、ホームドラマは最適なコンテンツなのだ。

刑事ドラマや医療ドラマなどのシリアスな作風は、テレビ中心の生活をしている高齢層が好み、だから「視聴率を獲得しやすい」と言われている。

しかし、視聴率調査が変更したことで、スポンサー収入の得やすい家族層をつかむためには、刑事ドラマや医療ドラマばかり制作するわけにはいかない。これがシリアスな作風から離れようとしている2つ目の理由だ。

ハッピーエンド確実で安心して楽しめる

ホームドラマを語る上で、もう1つふれておかなければいけないのはハッピーエンド。ホームドラマはラブコメと並んでハッピーエンドがほぼ約束されているジャンルであり、視聴者もそれを何となく感じているため、安心して楽しむことができる。

今冬のホームドラマは、タイムスリップファンタジーの『知ってるワイフ』、宮藤官九郎脚本らしい笑いを散りばめた『俺の家の話』、静かな感動を誘うヒューマン作の『モコミ~彼女ちょっとヘンだけど~』、主夫とドラマ業界という2つのテーマを絡めた『書けないッ!?~脚本家 吉丸圭佑の筋書きのない生活~』、友だちのような母娘と恋にフィーチャーした『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』と見事なまでに設定がバラけている。

さまざまな設定に対応できる汎用性の高さもホームドラマの強みだが、どの作品も困難に見舞われながら最後はハッピーエンドで視聴者をほっこりさせてくれるのではないか。

もしコロナ禍の厳しい状況が3月まで続いたとしても、これらのホームドラマがハッピーエンドを迎える時期だけに、貴重な癒しとなるだろう。

ただ、「刑事、医療、弁護士のドラマに偏っていたものが、今回はホームドラマに変わっただけ」という見方もあり、この先も乱発状態が続いたら飽きられかねない。その意味で、今年の春、夏、秋にどれだけホームドラマが放送されるのか。それぞれのラインナップにも注目していきたい。d

  • 木村隆志

    コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。ウェブを中心に月30本前後のコラムを提供し、年間約1億PVを記録するほか、『週刊フジテレビ批評』などの番組にも出演。各番組に情報提供を行うほか、取材歴2000人超の著名人専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、地上波全国ネットのドラマは全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。

  • 撮影近藤裕介

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